交通事故裁判 [公開日]2018年4月18日[更新日]2018年9月21日

交通事故の本人訴訟「少額訴訟」のやり方。費用、流れなど解説

交通事故の本人訴訟「少額訴訟」のやり方。費用、流れなど解説

【この記事を読んでわかる事】

  • 交通事故の示談交渉で和解できない場合の民事訴訟は被害者本人だけでもできる?
  • 特に少額の賠償金の支払を求める際に利用できる少額訴訟の手順、流れについて
  • 訴訟を弁護士に依頼するべき場合とそのメリット

交通事故の損害賠償問題は、基本的に、加害者の保険会社と示談交渉を行い、和解することにより解決されます。

他方、示談交渉の結果、和解するに至らない場合には、民事訴訟を提起することにより解決を図るべきことになります。

その際、民事訴訟を提起する以上、弁護士に依頼することは必須であるように思えます。

しかし、法律上、民事訴訟を提起する場合、常に弁護士に依頼しなければならいルールはありません。つまり、民事訴訟は、弁護士に依頼することなく被害者本人だけで進めることができるのです。

これを本人訴訟と言います。

今回は、交通事故の損害賠償に関する民事訴訟のうち、特に少額の賠償金の支払を求める際に利用できる少額訴訟について、これを本人訴訟として進める場合の手順について解説します。

1.本人訴訟を選択すべき場合

(1) 示談交渉の決裂した場合

交通事故の賠償問題の約9割は、保険会社との示談交渉を通じた和解により解決します。

逆に言えば、訴訟により解決すべき事件は、全体の1割程度に過ぎません。

ですから、被害者としては、いきなり訴訟を提起するより、まずは、保険会社との示談交渉を通じた和解による解決を目指し、それでも解決できないとき、はじめて訴訟による解決を検討することになるでしょう。

(2) 訴訟による解決のメリットが少ないケース

次に、訴訟による解決のメリットについて検討します。

具体的には、訴訟による解決には時間を要しますから、訴訟による賠償金の増額の程度の少ない場合には、あまり訴訟による解決は得策でないことがあります。

また、訴訟では、基本的に、証拠のない事実は判決の前提になりませんから、被害者の主張を裏づける証拠のないケースでは、下手に訴訟提起することにより、時間の無駄に終わることもありますから注意しましょう。

(3) 弁護士依頼のメリットの少ない場合

訴訟による解決を目指すべき場合であれば、最後に、本人訴訟と弁護士を代理人とする訴訟のいずれかの選択を迫られます。

このとき、まず、加害者の保険会社や弁護士を相手に訴訟することになるのであれば、本人訴訟は、あまりおすすめできません。

やはり、保険会社や弁護士は交通事故の専門家であり素人の被害者本人の力だけで訴訟を戦い抜くのは困難であることが多いためです。

逆に、加害者を直接の相手にするときには、双方対等ですから、本人訴訟でも構わないでしょう。

また、弁護士に依頼するとなれば、必ず弁護士費用の負担の問題が生じます。もし弁護士費用特約を利用できるのであれば、あえて本人訴訟する必要はないでしょう。

他方、弁護士費用は被害者の負担となるときには、弁護士費用を考慮した際、経済的メリットの乏しい場合には、本人訴訟を選択することにより、弁護士費用の負担を回避して、経済的メリットを確保することができるでしょう。

2.少額訴訟とは

(1) 少額訴訟の特徴

少額訴訟とは、少額の金銭を請求するための簡易かつ迅速に事件を解決するための簡易裁判所の管轄する特別の訴訟手続であり、その特徴は、以下のとおりです。

①60万円以下の金銭の支払を求める場合に限られる

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限られます。

したがって、交通事故による損害賠償請求において、少額訴訟を利用できるのは、比較的軽微な事故であり、損害額が高額にならないものに限られます。

②原則として、1回の期日により審理を終了して判決に至る

少額訴訟は、簡易かつ迅速に事件を解決することを目的とするため、原則として、1回の期日により審理を終了して、判決に至ります。

逆に言えば、過失割合に争いのある場合や事実関係に大きな争いがあり立証活動が複雑多岐に渡り、到底1日では審理を終えることのできないような事件は、少額訴訟に向いていません。

(2) 少額訴訟のメリット

少額訴訟の最大のメリットは、簡易かつ迅速に事件の解決を図ることができる点です。

訴訟中に和解する場合でも、判決に至る場合でも、作成される和解調書や判決書に基づき、強制執行の手続を行うことができます。

また、この点は、仮に弁護士に依頼する場合でも弁護士費用を低額に抑えることにつながります。

(3) 少額訴訟のデメリット

少額訴訟のデメリットの1つは、通常訴訟とは異なり、分割払、支払猶予、遅延損害金の免除を内容とする判決を言い渡すことができる点です。

また、少額訴訟の判決に対する不服は、判決を下した簡易裁判所に対する異議申立であり、地方裁判所に対する控訴はできません。

すなわち、判決を下した裁判所とは別の裁判所において再審理を要求することはできないのです。

さらに、そもそも、少額訴訟は、相手方の希望により通常訴訟に移行するものですから、被害者の意向だけでは少額訴訟を進めることができない点に限界があります。

3.少額訴訟の準備

(1) 訴状の作成

少額訴訟を提起する準備として、まずは、訴状を作成しなければなりません。

弁護士に依頼すれば、当然、訴状は弁護士により作成されます。

他方、本人訴訟の場合には、裁判所から簡易に訴状を作成することのできるフォーマット書式を入手して、記載例に従い、必要になる事項を記載することにより訴状を完成させることができます。

(2) 印紙・切手の購入

少額訴訟を提起する際には、請求額に応じた印紙を訴状に貼り、また、被告の数に応じた切手を購入して裁判所に納付する必要があります。

具体的な印紙代や切手の種類・枚数については各簡易裁判所の窓口に問い合わせれば教えてくれます。

(3) 証拠の収集・保全

少額訴訟は、1日の審理により判決を下す手続ですから、提出する証拠は事前に全て収集しておく必要があります。

また、証人尋問を行う予定であれば、1回の期日において尋問を終了できるように予定を調整しておく必要があります。

(4) 専門家のアドバイス

本人訴訟として少額訴訟を提起する場合でも、できれば事前に弁護士などの専門家によるアドバイスを受けるようにしましょう。

そうすれば、たとえば、少額訴訟は年10回まで、同一の原告が、同一の裁判所に提起でき、2回以上に分けて訴訟提起することができるなどの専門的アドバイスを受けることができます。

また、具体的な訴訟における活動についても専門的知識・経験を踏まえたアドバイスを受けることにより、十分な準備が可能になります。

4.少額訴訟の手続

訴状提出→裁判所から裁判期日呼出状が届く(期日前)→判決(期日)

(1) 訴状提出

まず、所定の収入印紙を貼った訴状を証拠、切手と一緒に相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に提出します。

(2) 期日前

訴状を受理してもらった後は、期日前に裁判所から裁判期日呼出状が届きます。

また、相手方には、訴状と証拠書類が届けられ、次いで、相手方の反論書面である答弁書が原告に届けられることになります。

なお、相手方より答弁書の届かない場合でも、期日当日に出頭して反論を述べれば、相手方は、被害者の主張を認めたことにはなりません。

(3) 期日

期日では、当事者双方の主張と証拠に基づき、裁判官により判決を下します。このとき、判決に至る前段階において、裁判官より和解を打診されることがあります。

この和解の打診については、必ず応じる義務はありませんが、敗訴リスクのある場合には、和解に応じることが得策と言えることもありますから、裁判官の話す内容を良く聞きましょう。

和解の成立する場合には和解調書が作成され訴訟は終了します。他方、和解の成立しない場合には判決となり判決書が作成されます。

通常、相手方は、和解や判決の内容を履行することになり事件は解決しますが、万が一、任意に履行しない場合には、和解調書や判決書に基づき、強制執行することができます。

5.まとめ

このように少額訴訟は比較的軽微な事故における損害賠償問題を簡易・迅速に解決するための訴訟手続であり、本人訴訟でも対応することは十分に可能です。

しかし、少額訴訟は、そもそも利用するための条件があり、また、メリットとデメリットの双方がありますから、本人訴訟として少額訴訟を提起することを検討している場合でも、一度、弁護士に相談することをおすすめします。

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