交通事故裁判の訴訟を自分でしたい!少額訴訟の訴状の書き方
交通事故における損害の賠償問題の多くは、示談により解決します。
しかし、あくまでも示談は当事者の合意により成立します。そのため、示談交渉の末、賠償額について合意できない場合には示談による解決はできません。
その場合には、被害者は訴訟を提起することになります。
訴訟を提起することになれば通常は弁護士に依頼することになります。しかし、法律上、弁護士に依頼しなければ訴訟を提起できないとのルールはありません。
つまり、交通事故の被害者は弁護士に依頼することなく訴訟を提起でき、そのような訴訟を本人訴訟といいます。
特に、請求額60万円以下の場合には、通常の訴訟より簡易の手続の少額訴訟を提起できるため、本人訴訟によることは十分可能です。
それでは、実際に少額訴訟を提起する際には、どのように訴状を書けばよいのでしょうか。
1.少額訴訟の訴状の書き方
訴状に必ず書かなければならない事項は、民事訴訟法において決められています(民事訴訟法133条2項)。
これは本人訴訟の場合でも同様です。もっとも、交通事故の少額訴訟を提起する場合には、裁判所のHP上においてダウンロード可能の定型書式と記載例を活用することができますから、安心してください。
(1) 少額訴訟を利用すること及び利用回数の記入
少額訴訟を提起する際には、訴状の冒頭に少額訴訟を利用することを明示する箇所をチェックして、利用回数を記入します。
利用回数を記入するのは、少額訴訟の利用は1年以内に10回という回数制限があるためです。
(2) 訴訟を提起する裁判所と作成日付の記入
次に、訴訟を提起する裁判所と作成日付を記入します。
少額訴訟を管轄するのは簡易裁判所です。そして、実際に交通事故の少額訴訟を提起する先の裁判所については、①原告(被害者)の住所地、②被告(加害者)の住所地、③事故の発生場所を管轄する簡易裁判所の中から選択することができます。
通常、被害者である原告の出廷等の利便性を考慮して、原告の住所地を管轄する簡易裁判所を選択することになるでしょう。
(3) 訴訟の当事者の記載
訴状では必ず訴訟の当事者を明示します。これは、誰が誰に対して訴訟を起こしているのか明確にするためです。
その際、裁判書類の送達先として希望する場所を記載しておきます。
(4) 請求の趣旨
請求の趣旨とは、訴訟において被告に求めるものです。つまり、勝訴した場合に判決の主文に書かれることです。
たとえば、交通事故の損害賠償として30万円を請求する場合には、以下のように記載します。
1 被告は、原告に対し、次の金員を支払え。
金300,000円
上記金額に対する事故日から支払済みまで年5%の割合による金員
2 訴訟費用は被告の負担とする。
(5) 紛争の要点(請求の原因)
紛争の要点(請求の原因)とは、請求の趣旨に記載した判決を求める理由・根拠のことです。
交通事故の損害賠償請求は加害者の不法行為(民法709条)による損害賠償請求になりますから、①交通事故の概要(事故発生日時、事故発生場所、事故車両の種類、事故状況など)②事故による損害の2点を中心に記載します。
なお、訴訟提起前に相手方と争いになった事項など紛争の解決について参考となる事実関係については、参考事項の欄に記載します。
(6) 添付書類の記入
最後に、訴状と一緒に提出する書類を記入します。
裁判所の書式には交通事故の損害賠償請求訴訟における典型の添付書類についてチェック欄を設けています。そのような典型の添付書類以外の書類を提出する際には、その書類名を記載して横の四角の欄にチェックを入れます。
(7) 誤字・脱字・ミスの有無をチェック
定型書式と記載例を活用できるとはいえ、訴状は日常的に作成する文書ではありませんから、完成するまでに相応の時間を必要とします。
慎重を期して書いた場合でも、誤字・脱字・ミスはあり得ます。提出前に今一度、確認するようにします。
ただし、完璧な訴状を作成できないまま裁判所に提出した場合に致命的な不利益を被ることはありませんので安心してください。
提出した訴状に何らかのミスがあった場合でも、裁判所の書記官から間違った部分を指摘され、訴状訂正申立書の提出を求められます。その際には訂正すべき箇所と訂正後の記載を明示した訴訟訂正申立書を裁判所に提出すればよいのです。
2.訴状以外に必要となるもの
(1) 訴状の正本と副本
訴状を提出する際には、裁判所に提出する収入印紙の貼った正本とは別に、被告に送達するための訴状の副本を用意する必要があります。
副本は正本と同一の内容のものになりますから、結局、同じ内容の訴状を副本として被告の人数分作成すればよいのです。副本には収入印紙を貼る必要はないので、その点は注意しましょう。
(2) 証拠の写し
次に、訴状に記載した事実を証明するために必要となる証拠については、裁判所用と被告用に写しを作成します。被告(加害者)1名の場合には2通作成することになります。
なお、原告の提出する証拠については、複数の証拠を区別するため「甲○号証」とナンバーを付します。
(3) 証拠説明書
裁判において証拠を提出する際には、原則として、証拠説明書という書面を提出することが必要になります。
証拠説明書とは、提出する証拠の概要とその証拠により証明する事実を記載した書面のことです。
証拠説明書の書式は、裁判所のHP上からダウンロード可能です。
「証拠説明書の作成要領等」
(4) 手数料・切手
訴訟を提起する場合には、手続利用の手数料として請求額に応じた収入印紙を購入して、訴状の正本に貼り付ける必要があります。
各請求額に応じた手数料については以下のとおりです。
請求額 | ~10万 | ~20万 | ~30万 | ~40万 | ~50万 | ~60万 |
---|---|---|---|---|---|---|
手数料 | 1000円 | 2000円 | 3000円 | 4000円 | 5000円 | 6000円 |
また、訴訟を提起する際には、裁判書類の送達に必要となる切手を予め裁判所に提出します。
必要となる切手の内訳は各裁判所により微妙に異なりますから、事前に提出先の裁判所の書記官に聞いておきましょう。
参考までに、東京簡易裁判所の切手の内訳は以下のとおりです。
額面 | 500円 | 100円 | 82円 | 50円 | 20円 | 10円 | 5円 | 2円 | 1円 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
枚数 | 5枚 | 5枚 | 5枚 | 5枚 | 5枚 | 10枚 | 5枚 | 5枚 | 5枚 | 3900円 |
なお、裁判の途中に切手の足りなくなった場合には、裁判所から追加の納付を求められ、逆に最終的に余った切手は返還されます。
(5) 印鑑
訴状には正本・副本ともに氏名の横に押印します。証拠説明書でも同様です。
使用する印鑑は実印である必要はありません。ただし、シャチハタは使えません。
3.まとめ
交通事故の損害賠償請求の多くは示談により解決します。
しかし、示談交渉の決裂した場合には訴訟を提起するほかありません。この場合、請求額60万円以下のケースでは簡易裁判所の少額訴訟を利用することができます。
少額訴訟は簡易の手続であるため弁護士に依頼することなく本人だけで手続を進めることは十分可能です。この場合、訴状を被害者本人の手により作成することになりますが、書式や書き方の例については、裁判所のHP上からダウンロードすることができます。
また、少額訴訟を提起する際には、訴状以外に添付書類・証拠、証拠説明書を提出するほか、事前に所定の収入印紙・切手を購入しておく必要があります。
しかし、いくら個人で行うことができるといっても、裁判の手続きは大変複雑なものです。本人訴訟として少額訴訟を提起する場合でも、困ったときには弁護士に相談して助言を受けるようにしましょう。
泉総合法律事務所は、訴訟案件におきましても多くの実績があります。交通事故案件につきまして、弁護士が最後までしっかりサポート致しますので、どうぞ安心してご相談・ご依頼ください。