交通事故裁判 [公開日]2018年5月9日[更新日]2018年9月3日

交通事故の裁判-訴訟の注意点とリスク回避

交通事故の裁判-訴訟の注意点とリスク回避

「現在示談交渉中だけれど、相手損保が、理由をつけて思いのほか低い額しか提示してこない」

そのような場合には、最終的には裁判に訴え出るしかありません。

そこで、大部分の事件は示談による解決を図ることが出来ても、「納得いかないので、訴訟を提起したい。」という様な方も中にはいらっしゃいます。

ただ、訴訟となると、当然費用が生じますし、時間がかかるだけでなく、裁判ルールに伴うリスクも生じますので、検討してからでなければなりません。

そこで、今回は訴訟に伴い、注意したり、検討したりしなければならない点をお伝えいたします。

1.交通事故訴訟に移行するか検討すべき点

(1) 時間がかかるという点について

多くの場合、半年から1年程度かかります。

もちろん、争点が複雑で、検討事項が多い場合、多数の医療機関からカルテや意見書等医学関係の証拠(医証)等収集する必要がある場合などには、それ以上の期間がかかることも珍しくありません。

半年で終わる場合というのは、多くの場合途中で和解をした場合です。

この場合には、比較的早めに終わることになります。

弁護士費用については認められることはまずないと思われますが、場合によっては遅延損害金を参考に、調整金という名目の金額が付加される可能性もあります。

遅延損害金全額ではなく、裁判官が考える妥当な範囲で調整される金額です。ある意味、この付加される調整金が裁判上を起こして和解をするメリットでもあります。

しかし、その点のみを見て訴訟を起こすと、次の点でリスクを抱えることになります。

(2) 損害等の主張立証責任の多くが被害者側にあるという点について

この点が訴訟に移行する際についての難点です。過失については、人身部分の損害賠償請求をする場合には、自賠責法3条によって、主張立証責任が加害者側に移ることもあり得ます。

しかし、その他の部分については被害者側に主張立証責任があります。

主張立証責任があるということは、主張をしても証拠からその事実があるという立証に失敗すれば、その事実はないものとして扱われてしまうということです。

この点については、大きなテーマですので、次の項目でご説明します。

2.裁判時点では、示談交渉段階の額はご破算になる

主張立証責任が被害者側にあることにより、裁判になったら加害者側は損害や因果関係等の重要な部分で厳格な立証を求めてきます。

その為、裁判時点では、示談交渉段階の提示額はご破算になります。この点が訴訟提起時に、一番注意深く検討しなくてはならないことでしょう。

どうしてこのようなことが許されるのでしょうか。

訴訟を起こすと、基本的に相手方損保の顧問弁護士が代理人になります。つまり、交渉の窓口が変わることにより、今まで損保側が出してきた額とは全く異なる額を出してくることもあります。

このため、しっかり冷静に検討してから訴訟を起こさないと、示談交渉段階の方がまだマシだったということも無くはないということになりかねません。

それでは、どの様な点について、気を付けていったらよいのでしょうか。次に気を付けなければならない、代表的な部分についてご説明いたします。

(1) 治療期間についての争い

示談交渉段階では、実際に通院した治療期間全期間を認めていても、交通事故の裁判段階で弁護士がついたら、手のひらを返して、「通院開始から○か月以上の通院について、争う」という主張をしてくる可能性があります。

特に、加害損保側が漫然と長期の治療を認めてきていた場合にも、無慈悲に主張されることから、「散々認めていたから通院したのに、この期間まで争うのか」と、この部分が一番被害者側(被害者ご本人と我々被害者代理人)にとって本当に怒りを覚える主張の一つです。
特にむち打ちなどの神経症状時には多い主張といえます。

加害者損保の狙いとしては、通院期間が減ると、医療費について減額できるだけでなく、通院期間が減ったことにより慰謝料額も減額することが出来るため、交通事故の裁判上において、この様な主張をしてくることになります。

これに対して、裁判に訴え出た被害者側として、対抗する方法としては、この通院期間の争いというのは、「事故によって生じた負傷のために、医学的に必要かつ有効な治療をしていたか」という因果関係に関する争いということになりますので、「事故によって生じた負傷のために、医学的に必要かつ有効な治療をしていました」と言える状況を作ることが極めて大切です。

具体的には、治療開始時点からの治療経過について、証明する手段としては、医師の診断書やカルテが挙げられます。

このカルテの中に、どの時点で、どの様な症状があり、どの様な治療をして、どの様に回復をたどっていったのかが分かると、治療の必要性があったと主張しやすいことになります。

この為にも、医師の診断書を残すということが極めて大切です。逆にここがしっかりしていたら、短期間の場合、相手方も争うという決断をせず、一定程度の譲歩をするかもしれません。

不要な争いを防止するためにも役立つポイントですし、治療期間が長くなるというメリットもあります。

一方で、むち打ちの場合、整形外科以外の割合が多いような場合には、安易に裁判に訴え出ると、示談段階より低い額になる可能性もあり得ますので、注意が必要です。

より詳細な事をいいますと、頸椎捻挫腰椎捻挫などで、医師以外のところのみに通っていた場合には、現在の裁判実務において、この治療の必要性に関しての裁判上の争いや結果はやや厳しいものになる傾向があります。

例えば、本文書作成現在においては、全額を認めるのではなく、施術期間、施術料金、施術の必要性などの事情を元に、「東洋医学通院部分医療費の○パーセントについて、相当因果関係のある損害として認める」という割合による判断が出されることが多いといえます(平成30年度赤い本下巻参照)。

(2) 後遺障害に絡む点

ここまでは若干厳しめの話が多かったですが、後遺障害の内容によっては、訴訟を起こした方が有利になるケースもあります。

ここでは、類型的に有利になるケースと注意した方がいいケースの例を、少し見ていきましょう。

①訴訟を検討してみたいケース

・自賠責の等級通りに認定されやすいケースで等級認定されたもの(自賠責の後遺障害等級を獲得して、状況が変わらない/変わりにくい類型)

例えば、可動域制限などについては、自賠責で認定され、特段争いのないようなものについては、訴訟提起のリスクも高くないので、検討してみても良いでしょう。

ただ、リスクが高くないだけで、争われることがありますので、たとえば間違っても「SNS等で元気にスポーツをしている姿や文章」をアップしないことです。

等級や逸失利益について争われるリスクもあります。保険会社側はよく見ているようです。

・自賠責の後遺障害等級表から漏れるようなもの

特に、新類型の傷病や、類型化があまりされていない場合には、自賠責の等級が付かないことが多いです。

この場合には、示談による解決になじまないといえるので、この場合は、裁判に打って出る必要性が高いと思われます。

・被害者様がスポーツ選手等、特殊な仕事をしていることで、仮に低い等級であっても、自賠責等級表通りの労働能力喪失率であると妥当な判断になり得ない場合

例えば、14級9号を獲得していたとしても、デスクワークとスポーツ選手では稼働可能年数も違えば、神経症状による労働能力喪失についての影響も全く違います。

この様なケースでは、機械的に5%喪失期間5年で計算するのは妥当とはいえないでしょう。

②反対に、訴訟によるリスクがあり得る/意味が乏しいケース

・自賠責の等級表にある類型で非該当等であった場合

この場合には、裁判所は、自賠責の判断に拘束されないのですが、一定程度自賠責の判断を尊重することになりますので、あまり有効ではない可能性があります。

時間の無駄になるだけでなく、等級が低い場合には、(1)治療期間の点が大きな争点化してしまうリスクもあります。

・高次脳機能障害等、神経症状で比較的高い等級を獲得できた場合

最近交通事故判例集などを検討する際、非常に目立つのですが、高次脳機能障害については、類型化されつつありますが、脳故にまだわかっていないところが多くあります(交通事故で起こりうる後遺障害「高次脳機能障害」はどのような症状か)。

後遺障害診断書作成段階よりも、回復している可能性も無きにしも非ずといえます。

特に、症状固定時点である後遺障害診断書作成段階より回復しているような場合、自賠責の等級から大きく等級が落とされるリスクもあります。

その影響は数千万単位で減額されるなど、極めて甚大なので、寝たきり状態である等回復していないような場合でない限り、訴訟を起こすに際して、厳密に検討する必要性があります。

3.まとめ

いかがでしたでしょうか。

もちろん、今回記載した問題以外にも、休業損害等、様々な点で争点となりうる点があります。

訴訟になると、主張立証責任の多くが被害者側にあるため、交渉時点では曖昧で済んだことも、裁判段階においては、厳密に主張立証しなくてはならなくなってしまいます。

一方で、後遺障害が残ってしまった場合で、自賠責等級に該当するようなケースでは、自賠責の判断が尊重される傾向があることから、増額できる可能性も十分にあります。

訴訟を検討する前に、その類型において、リスク込みでもっともふさわしい解決は何か、ということを判断するためにも、一度交通事故事件の専門家に尋ねてみると良いでしょう。

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