交通事故の民事訴訟の裁判が二審でほぼ決着する理由
交通事故の件数は、目覚しい自動車の安全性能技術の発達や警察の取り締まり努力の成果でこの10年間で40%減少しているといわれています。
一方、交通事故の被害者が加害者に損害賠償請求をする訴訟の数は同じ期間で約10倍に増えたといわれています。
交通事故件数が減少しているのに交通事故による訴訟件数が増加しているのはなぜでしょうか。
訴訟に対する国民感情の変化などの影響もあると思われますが、最も大きな要因は、加害者が加入する任意保険への弁護士費用特約の付帯率があがり、弁護士費用の心配なく訴訟をして納得のいく金銭賠償を得るという選択肢が広まったためだと思われます。
この記事を読んでくださっている皆様の中には、交通事故であわれた被害について訴訟による解決を得ることを検討されている方も多いと思います。
そういった方々のために、訴訟の見通しを考える一助として、交通事故の訴訟の帰結について情報をまとめました。
交通事故の訴訟については、訴訟中の和解により解決する事例も多く、ほとんどの場合では二審で決着しています。これはなぜなのでしょうか。
1.三審制について
日本の司法制度は、三審制をとっています。以下、第一審から第三審までご説明します。
番号順に上級裁判所となっていき、上級審を受けるためには、下級審の判決を受けていることが必要です。
(1) 第一審
第一審とは、簡易裁判所、地方裁判所、家庭裁判所での裁判を指します。
地方裁判所がベーシックな裁判所、簡易裁判所は訴額が低く手続きが簡易迅速に終わる簡単な裁判所、家庭裁判所が婚姻や親子など家庭内の身分案件を取り扱う裁判所、としてすみわけを理解していただくとよいと思います。
被害者の方が訴訟を提起した場合、まずこの第一審で加害者と争うことになります。
双方が主張立証を尽くして、裁判官の心証が形成され、判決が下されることになります。
ところが、裁判官といっても人の子です。判決が100%正しいものとは限りませんし、第一審で出せなかった有力な証拠があとからでてきたという場合もあるでしょう。判決に納得がいかない場合、控訴をすることになります。
控訴をしないで一定期間が経過すると、判決の効果が確定し、その後通常は争うことができなくなるので、期間中に控訴するか否かを決めることになります。
(2) 高等裁判所
控訴提起がなされるのは、高等裁判所に対して、ということになります。
高等裁判所は、地方裁判所等の上級審、最高裁判所の下級審という位置づけです。
高等裁判所は、東京都、大阪市、名古屋市、広島市、福岡市、仙台市、札幌市、高松市の全国主要8都市に本庁が設置されています。
裁判所法に基づき、地方裁判所の第一審判決、家庭裁判所の判決及び簡易裁判所の刑事に関する判決に対する裁判権があるので、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の判決内容に妥当性がないとここで判断されれば、判決がひっくり返る可能性があります。
(3) 第三審:最高裁判所
高等裁判所の判決にも納得がいかなかった場合、最後の救済手段として、最高裁判所への上告という手段があります。
最高裁判所は、東京都千代田区に所在するわが国司法機関の裁判機関になり、日本国憲法と裁判所法に基づき、司法に関する最終判断をくだすことができます。
最高裁判所の判決をもって、一連の裁判手続きは終了となります。
2.上告がなかなか認められない理由
最高裁判所への訴えを「上告」といいますが、この上告はそもそも認められるために高いハードルがあります。
このハードルをクリアして、国の最高裁判所が判決をくだすにたる事件と裁判所に判断してもらえない限り、決定や棄却といって、訴えを審理してもらえない、いわゆる門前払いになってしますのです。
では、なぜ、上告のハードルは高いのでしょうか。
(1) 上告審の性質は法律審
最高裁判所の役割は、わが国の法令解釈が、日本中どこでも正しく統一的に運用される仕組みを担保することです。そのため、上告審の法的性格は法律審であるといわれています。
つまり、原則として上告審では、原判決に憲法違反や法律解釈の誤りがあるかどうかを審理し、判決の前提となる事実認定は審査しないのです。
事実認定は、下級審で認定された事実が正しいことを前提とします。
事実認定に明らかに矛盾がある、この事実認定をそのまま認めてしまったら国として正義に反する、というような極端な場合を除き、審査されないと考えてよいでしょう。
(2) 上告ができる条件
上告ができる条件は法律により定められています。
交通事故で被害者と加害者が争う場合は民事訴訟となりますが、民事訴訟法312条により定められている条件は以下のとおりです。
- 判決に憲法の解釈の誤りがあること、その他憲法の違反があること(1項)
- 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(2項1号)
- 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと(同項2号)
- 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと(同項2号の2)
- 専属管轄に関する規定に違反したこと(特許権等に関する訴えにつき、民事訴訟法6条1項により定まる東京地方裁判所か大阪地方裁判所かの選択を誤った場合を除く)(同項3号)
- 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと(追認があった場合を除く)(同項4号)
- 口頭弁論の公開の規定に違反したこと(同項5号)
- 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること(理由の不備・理由の齟齬)(同項6号)
- (高等裁判所にする上告の場合)判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があること(3項)
上告ができる条件は、下級審が明らかに問題のある判決をした場合に限られていると思っていただければイメージしやすいと思います。
日本の裁判官は優秀ですので、交通事故にかぎらず民事訴訟でここまで問題がある判決と認定されることはそうないといってよいでしょう。
(3) 最高裁判所で審理されることは珍しい
以上から、最高裁判所で審理を受けられることは非常に少なく、珍しい事例であるといえます。
この点については、事実上、二審制度に等しいのではないかという批判もあります。
しかし、最高裁判所は国のただひとつの最高司法機関です。ここで、個別具体的な事実までを逐一審理するとしたら、とても時間が足りず、訴訟渋滞になってしまうことが目に見えています。
そこで、日本の司法システムは、三審制を採用し、国民が三回審理を受けられる権利を担保するとともに、裁判所も効率よく仕事ができるように下級審から上級審の役割分担をわけるようにしているのです。
以上を踏まえて、交通事故の損害賠償請求訴訟は、二審が事実上の最終審であり、それまでに裁判上の和解を利用していかに有利な賠償額を勝ち取るかということが、被害者にとって最大のポイントとなります。
裁判上の和解は、確定判決と同じ効果を持ちますので、裁判をすすめつつ加害者と交渉をすすめ、和解案を協議していくという戦術となります。
3.交通事故事件が和解で終了する割合は75%以上
実は、交通事故の損害賠償では、75%が被害者と加害者が、自ら合意を形成し和解で解決するという選択肢が選ばれています。
裁判所も訴訟手続きが進む中で、折を見て和解勧告をしてくるのが通常ですので、その提案を受けて和解の話し合いに入るというケースも多いです。
(1) 和解のメリット
和解を選ぶメリットとしては、以下があげられます。
①敗訴リスクを避けられる
万一、敗訴してしまうと裁判費用や弁護士費用の持ち出しとなってしまいます。和解により敗訴リスクが避けられます。
②早期の解決
お互いに譲り合って落としどころを探していくので、早期に解決することがあります。
裁判の期日は、早くても月1ペースで設定されるので、判決より和解のほうがスピーディーです。
③尋問を受けなくてよい
訴訟手続きの中で、証拠の一貫として、被害者も法定で尋問を受けます。
不快な事故の記憶を逐一掘り下げて聞かれるのも不快なものです。和解は公開手続きではないので、そういったプロセスを避けることができます。
④加害者から任意で支払われる可能性が高い
判決による賠償金支払は、加害者にとって合意したものではなく命令されて支払うものです。
一方、和解は自らの意思で合意した条件によって支払うことになります。
判決や和解のあと、任意の支払がなければ、強制執行といって別の訴訟手続きが必要になってしまうので、なるべく加害者には任意で支払ってもらう必要があります。
この点、自ら合意をしている和解に基づく支払のほうが、加害者が任意で行う可能性が高いのです。
⑤現実的な解決が可能
損害賠償金の支払についても、加害者被害者の経済的事情や家庭環境によっても、金額、支払時期、分割の有無が変わってきます。
両者が話し合うことにより、これらを踏まえた現実的な解決策が生まれることが期待できます。
⑥満足が高くなりやすい
上述のように、加害者被害者がお互いの状況を率直に話し合うことで、事件解決について双方満足が高くなることが考えられます。
⑦強制執行が可能
裁判上の和解は確定判決と同じ効果をもちます。したがって、もし和解後加害者が任意に支払ってくれなかった場合、最悪和解調書をもって加害者の財産に強制執行をかけることができます。
(2) 和解のデメリット
①本来の賠償額を貰えない可能性
交渉ごとになるので、被害者と加害者が合意すれば基本的にどのような金額でもよいということになります。
加害者側の弁護士が交渉タクティスに長けている場合などで、判決であれば得られた金額に満たない金額で合意してしまうこともあります。
②遅延損害金を受けられない可能性
判決であれば、事故があったときから支払まで遅延利息金が付されますが、和解では付されないこともあります。
付けることができないわけではないので、交渉時にはきちんと検討しましょう。
③弁護士費用の補填を受けられない可能性
判決であれば、加害者に対して、認容額の1割程度を被害者の弁護士費用として支払が命じられることが多いです。
一方、和解であれば支払は命じられないので、こちらも交渉マターとなります。
④かえって裁判が長引く可能性
和解交渉があまりに揉めると、訴訟がかえって長引いてしまうケースがあります。
裁判上の和解は、裁判所の和解案を受けて行われることが多く、裁判所は和解の様子を横目でみながら訴訟進行をしますので、和解交渉が長引くと判決が遅れるという可能性もあるのです。
4. 交通事故の訴訟も泉総合法律事務所へ
上述のように、交通事事件で訴訟を提起する場合、様々な専門知識や訴訟上のテクニックが必要となります。
自分で手続きするよりも、当該分野に実績のある弁護士への依頼を検討することが、一般的かと思われます。
泉総合法律事務所にご相談いただければ、交通事故に実績のある弁護士が最後まで責任もってサポートさせていただきます。是非一度無料相談をご利用ください。