交通事故裁判 [公開日]2018年8月29日[更新日]2018年8月29日

無免許運転の同乗者の責任

無免許運転の同乗者になってしまった場合_原本

「無免許運転をしてはいけない」というのは周知の事実です。
しかし、実は無免許運転の同乗者にも重い責任が課せられる場合があるのですが、こちらはあまり知られていません。

自分で無免許運転をすることはなくても、以下のような事例でヒヤリとする方はいるかもしれません。

【こんな場合は大丈夫?】

  • 知人に運転を頼んで乗せてもらった所、後日その知人が無免許運転で捕まった
    (よくよく思い返せば無免許だということは事前に調べがつきそうだった)
  • 相手が無免許と知っていたが、強引に誘われて断り切れず同乗した

今回は、無免許運転の同乗者の責任と処罰規定について解説していきます。

1.無免許運転:運転者の責任

無免許運転の同乗者の責任について説明する前に、まずは無免許運転の運転者の責任(刑事責任・行政責任)について簡単に触れておきます。

(1) 刑事責任

無免許運転は道路交通法(以下「道交法」といいます。)違反の犯罪です。無免許運転の運転者は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(道交法64条1項、第117条の2の2第2号)。

(2) 行政責任

無免許運転の運転者は刑事責任とは別に自動車免許制度における行政責任を負います。
具体的には、違反点数25点(一発免許取消となる点数です。)、免許を取得できない欠格期間2年です。

2.無免許運転:同乗者の責任

(1) 刑事責任

無免許運転の同乗者は、①運転者が無免許であることを知りながら、②運転者に自己を運送することを要求し、又は依頼して、③無免許運転者が運転する自動車又は原動機付自転車に同乗した場合、道交法上の無免許運転ほう助罪として処罰されます(道交法64条3項)。
その場合の罰則は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です(道交法117条の3の2第1号)。

(2) 行政責任

基本的にはありませんが、その行為が「重大違反唆し(じゅうだいいはんそそのかし。他人に重大な違反行為をさせる、そそのかす、違反行為を助ける行為)等」と判断されれば、無免許運転と同等の処分(免許取り消し等)がなされる可能性があります。

(3) どうして処罰されるの?

実際に犯罪を行った者ではなくとも、それを手助けした者は罪に問われます。
これをほう助犯(刑法62条)といいます。

無免許運転を手助けすれば同乗者でもほう助犯として罰せられるのです。

(4) 実は重い責任が科されている

通常であれば、ほう助犯の刑罰は、実際に犯罪を行った者の半分になります。
つまり、無免許運転のほう助犯の場合には、1年6ヶ月以下(3年の半分)の懲役又は25万円(50万円の半分)以下の罰金ではないかという計算です。

ところが先に見たとおり、無免許運転ほう助罪は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
このように、無免許運転ほう助罪は、一般の刑法における無免許運転のほう助犯より重い刑罰を科せられるのです。

こう書くと、「え?同乗していただけでこんなに重く処罰されるの?」と心配される方もありますが、そうではありません。先ほどサラリと書きましたが、処罰される要件があります。

3.無免許運転ほう助罪になる場合

(1) 要件は3つ

以下の3つの要件のすべてを満たす場合に限り、無免許運転ほう助罪として処罰の対象になります。

  1. 運転者の無免許を知っていた
  2. 運転者に自己を運送するよう要求又は依頼した
  3. 自動車に同乗した

(2) 具体例

たとえば、飲酒により自分は自動車を運転できないため(動機)、その知人が免許を持っていないことを知りながら(要件1)、運転して自分を家まで送るよう頼み(要件2)、実際に同乗して(要件3)家まで運転させたようなケースには、上記の要件をすべて満たすため、無免許運転ほう助罪として重く処罰されます。

(3) ならない場合(参考として)

以下のようなケースでは要件を満たさないため、無免許運転ほう助罪にはなりません。

① 運転者の無免許を知らなかった場合

まず、そもそも運転者の無免許の事実を知らなければ、無免許運転ほう助罪にはなりません。

ここでポイントなのは、「よくよく考えれば無免許であると分かるようなケース」「調べれば無免許だとすぐ分かるケース」などでも同じということです。

つまり、同乗者について、運転者が無免許であると知らなかったことにつき落ち度がある場合でも、知らなかった以上は無免許運転ほう助罪にはなりません。
無免許運転ほう助罪には、不注意による犯罪(過失犯といいます)を処罰する規定はないからです。

② 運転者に自己を運送するよう要求又は依頼していなかった場合

次に、運転者が無免許であると知っていた場合でも、運転者の方から同乗するよう要求してきて、断れずに同乗してしまった場合なども、無免許運転ほう助罪にはなりません。

また、友達や家族などの他人を車で送って欲しいと頼む場合も「自己を運送するよう要求又は依頼」したわけではないので無免許運転ほう助罪にはなりません。

但し、このケースでは無免許運転を促しているのですから、刑法上のほう助犯としては処罰される可能性があります。

③ 自動車に同乗しなかった場合

最後は自動車に同乗しなかった場合です。
たとえば、無免許運転になることを知りながら家まで車で送ってくれるよう頼んだものの拒否され結局同乗しなかった場合には無免許運転ほう助罪にはなりません。

この場合には未遂罪にもなりません。

未遂罪は、法律で特に未遂を罰することを定めなければ、犯罪として処罰することはできません。
道交法違反の罪について未遂を罰する規定はないため、無免許運転ほう助罪の未遂罪は存在しないのです。

4.そんな規定知らなかった、は通じるか

無免許運転ほう助罪は2013年12月1日から施行された改正道交法において新設された犯罪です。
そのため、今回、はじめて無免許運転ほう助罪という名前の犯罪を知った方も多いでしょう。

それでは、このような新設された犯罪の存在を知らなかったから、処罰されるのはおかしいと主張することはできるでしょうか。

答えはノーです。

原則として、「罪を犯す意思がない行為」は罰せられません(刑法38条1項)。
しかし、「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない」(刑法38条3項)とされています。

無免許運転ほう助罪の規定を知らない場合でも、そこに書かれた犯罪に当たる行為をしている認識さえあれば処罰されるのです。

5.まとめ

運転者の無免許を知りながら、自己を運送するよう要求・依頼して、同乗することは無免許運転ほう助罪になり、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。

このように、現在では、無免許運転に対する制裁は非常に厳しくなっており、たとえ同乗者でも無免許運転を助長させる行為をした以上、非常に厳しく処罰されます。

決してそのようなことがないようにしましょう。

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