交通事故と刑法の関係|不安・悩み事は東京の弁護士へご相談を
交通事故の被害者やその家族は、加害者に対して刑事責任を厳しく問いたい感情があるのはもっともなことです。
加害者による飲酒運転やあおり運転などの悪質な運転によって起こった事故であればなおさらです。
しかし、その処罰への道のりは決して平坦なものではありませんでしたし、今なお課題は残っています。
今回は、交通事故と刑法の関係について解説します。
1.交通事故に関する刑法の変遷
(1) 業務上過失致死傷罪
もともと、交通事故は、過失によって、人をケガさせたり、死亡させたりしたということで、刑法211条の業務上過失致死傷罪の対象でした。
しかし、業務上過失致死傷罪の刑罰は、「5年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金」にすぎませんでした。(平成18年に、罰金は「100万円以下」に引き上げられました)。
安全運転に気を付けていても、交通事故を起こしてしまうことは誰にでもありうることかもしれません。「故意」ではなく、「過失」で人を死傷させてしまった場合の規定ですから、刑罰の上限があまり重くないのです。
しかし、一方で、飲酒運転などの悪質な原因によって起こった交通事故に対しては刑罰が軽すぎることが問題でした。
(2) 危険運転致死傷罪
そこで、平成13年12月には、刑法第208条の2として「危険運転致死傷罪」が新設されました。
この規定では、アルコール又は薬物の影響による酩酊運転、高速度による制御困難運転、未熟運転、妨害運転(あおり等)、信号無視運転によって、人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は、1年以上の有期懲役に処せられることになりました。
しかし、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」などの要件の立証が困難であるという問題が残りました。
(3) 自動車運転過失致死罪
平成19年6月には、刑法211条2項として、自動車運転過失致死傷罪が新設されました。
交通事故の原因は、大きく分けると「過失運転」と「危険運転」に分類できます。
そのうち、危険運転による交通事故は、上記のように、刑法208条の2に罰則を置いて、業務上過失致死傷罪から分離しました。
それだけではなく、過失運転による交通事故の場合についても、業務上過失致傷罪から分離して、新たな規定を設け、その刑罰を「7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金」に引き上げたのです。
交通事故の原因が危険運転ではなく、過失運転であったとしても、引き起こされる結果が重大になることもあることも踏まえて、重大な結果が発生した事故には重い刑罰を科すことができるようにしたものです。
2.刑法から独立した自動車運転致傷処罰法
(1) 特別法の制定
平成25年11月になって、刑法に規定されていた上記2つの「自動車運転により人を死傷させる行為についての刑罰規定」を刑法から独立させて、自動車運転致傷処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)という特別法が制定されました。
(2) 過失運転致死傷罪(第5条)
刑法第211条の2に規定されていた過失運転致死傷罪は、自動車運転致死傷処罰法の第5条に規定されました。
「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」
と定められています。
(3) 危険運転致死傷罪(第2条)
危険運転致死傷罪は、自動車運転致死処罰法第2条に規定されています。
・危険運転の類型
- アルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状況で自動車を走行させる行為
- その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
- その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為(未熟運転)
- 人や車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(あおり行為等)
- 赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
- 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じるとして政令で定めるものをいう)を進行し、かつ、重大な危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
・危険運転致死傷罪の刑罰
「人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は、1年以上の有期懲役」
有期懲役刑の上限は20年ですから、人を死亡させた場合は、1年以上20年以下の懲役となります。他の犯罪と併合されると、上限は30年になります。
危険運転は、禁固刑も罰金刑もないので、執行猶予がつかない限り懲役刑を受けることになります。
(4) 危険運転致死傷罪(第3条)
・アルコール又は薬物の影響
上記第2条の危険運転うち①は、アルコール又は薬物の影響により、「正常な運転が困難な状況」で運転したことによって、人を死傷させたことを罰する規定です。
第3条第1項では、これとは別に、アルコール又は薬物の影響によって、「走行中に正常な運転に支障が出るおそれのある状態」で運転していたところ、実際に運転が困難な状態に陥って、人を死傷させた場合を処罰の対象としています。
罰則は、人を負傷させた者は12年以下の懲役、人を死亡させた者は、15年以下の懲役です。
・疾病の影響
自動車の運転に支障を及ぼす恐れがあると政令で定められた病気の影響によって、「走行中に正常な運転に支障が出るおそれのある状態」で運転していたところ、実際に運転が困難な状態に陥って、人を死傷させた場合も、処罰の対象となります。
罰則は、人を負傷させた者は12年以下の懲役、人を死亡させた者は、15年以下の懲役です。
(5) アルコール等の発覚の免脱(第4条)
過失運転致死傷罪の場合で、アルコール又は薬物の影響の有無、程度が発覚することをまぬかれるために、さらにアルコール又は薬物を摂取したり、その場を離れて、アルコール又は薬物の濃度を減少させるような行為をしたりするなどした場合には、12年以下の懲役になります。
過失運転致死傷罪の刑罰は、「7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金」(第5条)ですが、さらに、アルコール等の発覚の免脱を行うことにより、禁固刑や罰金がなくなって、懲役刑のみになり、その上限も7年から12年に引き上げられるということです。
(6) 無免許運転による加重(第6条)
未熟運転以外の危険運転をして、人を負傷させた者が、無免許であったときには、6月以上の有期懲役に処せられます。
危険運転で人を負傷させた者の刑罰は、第3条により、15年以下の懲役でした。懲役刑の下限は、1月ですから、「1月以上15年以下」です。それが、無免許であった場合には、「6月以上15年以下」となるということです。
第3条の危険運転をした者が無免許だった場合は、人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は6月以上の有期懲役に処せられます。
第4条のアルコール等の発覚の免脱行為をした者が無免許だった場合は、15年以下の懲役に処せられます。
第5条の過失運転致死傷罪を犯した者が無免許だった場合には、10年以下の懲役に処せられます。
もとは、「7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金」(第5条)だったところ、禁固刑や罰金がなくなって、懲役刑のみになり、その上限も7年から10年に引き上げられるということです。
(7) 今後の課題
このように、悪質な原因による交通事故に対する重罰化は進んでいますが、立証の困難性という課題はいまだ残ったままです。
3.交通事故被害者も利用できる被害者参加制度
(1) 被害者参加とは
被害者参加制度とは、被害者が、裁判所の許可を得て刑事裁判に参加し、意見を述べることなどが認められている制度です。
(2) 対象となる犯罪
危険運転致死傷罪、自動車運転過失致傷罪、業務上過失致死傷罪
(3) 利用可能者
被害者本人、被害者の法定代理人、(被害者が死亡・重症の場合は)配偶者、直系親族、兄弟姉妹
(4) 被害者参加制度でできること
- 在廷権
ただ、裁判を傍聴するのとは違い、公判期日に出席することができる権利です。
必要があれば、遮蔽(加害者から見えないようにする)などの措置を取ってもらうこともできます。- 検察官に対する意見表明権と説明要求権
検察官の訴訟活動(権限行使)に、意見を述べたり、説明を求めたりすることができます。- 証人尋問権
情状証人が尋問を受ける際に、証人の証言の証明力を争うために、被害者が証人に質問することができます。- 被告人質問権
自分の意見陳述のために必要な場合に、被害者が被告人に質問することができます。- 被害者論告権
事実及び法令の適用について、被害者が自分の意見を述べることができます。
(5) 弁護士への依頼
被害者は、被害者参加をするために弁護士を依頼することができ、この被害者参加弁護士については、国選制度もあります。
(6) 被害者参加のための旅費等
被害者参加のための交通費や宿泊費は、法令で定める基準によって、法テラスから支給を受けることができます。
4.東京で交通事故の相談なら泉総合法律事務所の弁護士へ
加害者に対して刑事責任を問いたいという悩みを始め、交通事故の被害者の方は、様々な心配事、悩み事があるかと思います。
交通事故でお悩みの場合は、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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