過失相殺と重過失減額|自賠責保険の賠償金・慰謝料が減額する?
ドライバーには加入の義務がある「自賠責保険」ですが、これは交通事故が起きた際に損害を賠償するもので、被害者保護のために必須の保険です。自賠法に基づいて締結を強制されている保険で、未加入のまま自動車を走らせると刑事罰に課せられることもあります。
しかし、被害者の過失が大きい場合には、慰謝料などの賠償額が大きく減額されることがあります。
そこで今回は、被害者の過失割合が慰謝料をはじめとする賠償金に与える影響を解説します。
1.自賠責保険の過失相殺と重過失減額について
自動車事故が起きたとき、加害者に損害賠償をする資力がなければ被害者は保護されません。
そうなると、交通事故が怖くて誰も運転することができなくなってしまいます。
そこで、自動車事故で人の生命や身体が害された場合の損害賠償を保障することで被害者の保護を図り、安心して自動車を運転できるようにして自動車社会が健全に発達していくようにすることが自賠責保険の目的です。
一方で、交通事故における賠償金は、基本的に発生した事故に対する責任の割合に応じて損害賠償金が減額されることになっています。これを過失相殺といいます。
被害者保護という目的のため、自賠法は被害者の多少の過失については損害を減額しないという制度設計になっています。
もっとも、まったく過失相殺しないというのでは公平とは言えません。そこで、被害者に7割以上の過失があるときは、過失減額の対象とすることになっています。
これを重過失減額と呼ぶことがあります。
(1) 重過失減額の減額割合
では、具体的にどのように減額されるかというと下表のとおりです。
減額適用上の被害者の過失割合 | 減額割合 | |
---|---|---|
後遺障害または死亡に係るもの | 傷害に係るもの | |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | 3割減額 | |
9割以上10割未満 | 5割減額 |
被害者に7割以上10割未満の過失が認められる場合に、後遺障害または死亡に至る場合は2割~5割の減額、傷害の場合は2割の減額が適用されることになっています。
ただし、どんなに減額されても、傷害の場合には20万円以下に減額されることはありません。
なお、被害者の過失割合が10割の場合は、そもそも保険金が支払われることがありません。
(2) 重過失減額の計算例
例を挙げて具体的に考えてみましょう。
被害者の過失割合が8割、後遺障害なしの場合を考えてみます。
自賠責保険は限度額があるために、以下の規定があります。
積算損害額が限度額に満たない場合は、積算損害額から減額を行う
傷害部分の自賠責保険の限度額は120万円なので、傷害部分の損害額が100万円であれば、損害額の2割が減額され、80万円が保険料として支払われます。
保険料:80万円=100万円―(100万円×20%)
積算損害額が限度額以上の場合、上限金額から減額を行う
傷害部分の損害額が250万円の場合、積算損害額が保険の限度額を超えているので、保険料の上限120万円の20%が減額され96万円が保険料となります。
保険料:96万円=120万円―(120万円×20%)
2.自賠責保険支払い基準の慰謝料が裁判基準より大きくなる場合
被害者に支払われる損害賠償金は、治療費などの積極損害と休業補償や逸失利益といった消極損害から成る財産的損害と、入通院費慰謝料や後遺障害慰謝料をはじめとする慰謝料の2つで構成されています。
よく耳にする慰謝料も損害賠償金の一部というわけです。
慰謝料とは、精神的損害に対して支払われるものです。交通事故で受けたケガの治療のための入通院による精神的苦痛や、後遺障害を負って生きていくことに対する精神的苦痛に対して支払われる補償です。
慰謝料には、自賠責保険における算定基準(自賠責基準)、任意保険会社各社が内部で持つ算定基準(任意保険会社基準)、裁判で用いられている裁判基準(弁護士基準とも)の3つの算定基準があります。
この中で、一般的に最も低い数字になるのが自賠責基準、最も大きい数字になるのが裁判基準です。
しかしながら、重過失減額がなされる場合には少し事情が異なります。
仮に、被害者に9割の過失があったとします。この場合、裁判基準だと慰謝料の額は大きくなりますが、そこから9割減額されることになります。
一方、自賠責基準だと、もともとの慰謝料の額は小さくなりますが、過失減額されるのは2割(傷害の場合)で済みます。
そうすると、被害者に大きな過失が認められるような事故では、裁判基準による損害額よりも、自賠基準で損害額を算定した方が獲得できる慰謝料額が大きくなることがあるのです。
[参考記事]
交通事故の慰謝料は、弁護士基準の計算で大きく増額!
3.過失割合の相談は泉総合法律事務所へ
停車中の追突事故などを除き、自動車事故のほとんどはお互いに何かしらの過失があるものです。
被害者側の過失が大きい可能性がある事案では、裁判基準あるいは任意基準で交渉をしたほうがよいのか、自賠責基準で請求したほうがよいのか、微妙な判断が求められることがあります。
過失割合で困ったときには、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。ご状況に一番適した解決手段をご提案いたします。