仮免中・路上教習中の事故の責任は誰が負う?運転手・教官の責任
【この記事を読んでわかる事】
- 仮免許に事故を起こしてしまった場合、運転手はどんな責任を負うのか
- 路上教習中の事故では、教官・教習所も事故の責任を負うことになるのか
- 路上教習中の車との事故の被害者になってしまった場合、どこに損害賠償請求をすべきか
自動車免許を取得する際は、自動車教習所に入所してまず仮免許を取得し、その後、実際の路上における練習を行い、最終試験に合格することで本免許を取得します。
仮免許に基づく実際の路上における自動車の運転の練習のことを「路上教習」と言います。
路上教習では、生徒は、助手席に同乗する教習所の教官の指導の下で自動車を運転することになります。教官はバックミラー、サイドミラー、助手席にあるブレーキなどを活用して、教習中の交通事故の発生を回避することになります。
公道においても教官が注意深く周囲を確認するため、路上教習中に事故が起きるケースは稀です。
しかし、いくら教官でも、事故を回避するための措置が間に合わないことはあります。また、教官が事故の発生を回避すべく適切な措置を怠ることにより、事故が起きてしまうこともあります。
このような路上教習中の事故においては、誰が、どのような責任を負うことになるのでしょうか。
また、路上教習中の車に交通事故を起こされてしまった被害者の方は、誰に損害賠償を請求することができるのでしょうか。
このコラムでは、路上教習中の事故の責任について弁護士が解説します。
1.仮免中でも事故の責任は運転者にある
路上教習は、仮免許に基づく自動車運転の「練習」です。
仮免許は、あくまで自動車の運転の練習をするため、運転免許試験を受けるための免許に過ぎません。
しかし、(通算3年以上の本免許取得者を同乗させ、その者の指導に服するという制限はあるものの)路上において自動車を運転する免許であることには変わりありません(道路交通法87条1項・2項)。
そのため、路上教習中の事故の責任は、原則として運転手にあります。
そして、運転手の具体的責任は、通常の事故の場合と同様、以下の3種類になります。
(1) 刑事責任|刑事罰を科せられる可能性
仮免許中(練習中)の運転であっても、不注意により人を死傷させた場合には、運転手は刑事罰を科せられる可能性があります。
この点、仮免許の運転手の運転技術は未熟であり、路上教習中は同乗者である教官の指導の下に運転している以上、低速での追突など軽微な事故であれば、いきなり刑事罰を科せられることは少ないでしょう。
しかし、赤信号無視・制御困難なスピード違反など悪質な事案であれば、たとえ仮免許中でも刑事罰を科せられることはあり得ます。
(2) 行政責任|仮免許の取り消し
仮免許中に事故を起こせば、一定の場合には仮免許は取り消されます。
具体的には、事故により人を死傷させた場合あるいは建物を損壊した場合です。
なお、もし仮免許を取り消された場合でも、補習などを経て仮免許を再度取得することは可能です。
(3) 民事責任|被害者への損害賠償責任
路上教習中の事故においても、運転手は不法行為責任(民法709条)に基づいて被害者に生じた損害の賠償責任を負います。
仮免許とはいえ、路上において自動車を運転する以上、本免許に基づく運転同様の注意義務を負うのです。
仮免許を取得した以上、路上での運転が不慣れであるからこそ細心の注意を払いながら運転すべきです。
2.教官・教習所も損害賠償責任を負うケース
以上のとおり、路上教習中の交通事故の責任は、原則として、運転者にあります。
しかし、助手席に同乗している教官は、単なる同乗者ではなく、仮免許に基づいて自動車を運転する者を適切に監督・指導する義務を負っています。事故発生の危険を察知すれば、これを適切に回避する措置を講じなければなりません。
よって、仮免中の交通事故については、教官・教習所も、不法行為(使用者責任)に基づく賠償責任を負うことがあります。
(1) 教官が負う損害賠償責任
路上教習における教官は、運転手の隣(助手席)に同席して、その運転について適切に指導するとともに、万が一の事故の発生を回避するために可能な限りの措置を講じる義務を負います。
こうした義務に違反したことにより路上教習において交通事故が発生して第三者に損害が生じた場合には、教官は不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがあります(民法709条)。
ただし、教官はあくまでも実際の自動車の運転については補助的役割を担う立場ですから、教官の義務違反が認められるのは余所見などの不注意があった場合に限られるでしょう。
ちなみに、このような教官の不法行為に基づく損害賠償責任は、単独事故により生徒が死傷した場合でも同様に生じます。
しかし、その場合でも、教官の義務違反が認められる余地はそれほど大きくはありません。
(3) 教習所が負う賠償責任
教官の賠償責任が認められる場合には、教習所に対しても使用者責任に基づく賠償責任を認めることができます(民法715条)。
教習所は、教官を雇うことにより利益を得ているため、教官のミスにより賠償責任を負うべきであるとされているのです。
また、単独事故の場合でも、やはり教習所は、教官のミスについて生徒との間の自動車教習契約上の義務違反を理由に損害賠償責任を負います。
3.仮免許中は任意保険に入れる?
ここまでは、仮免中の事故により生じた損害を賠償する責任は誰なのか?について説明してきました。
しかし、実際にはこのような議論は不要になることが多いです。なぜなら、ほとんどの自動車教習所は、「自動車教習所総合補償保険」に加入しており、路上教習中の事故を含む自動車教習所での事故により生じた損害については、同保険の適用により広く補償されることになるからです。
また、同ほとんどの自動車教習所は、様に「運転免許取得者教育見舞金保険」にも加入していますから、講習中の事故により生徒が負傷した場合などには、同保険の適用により生徒に見舞金が払われることになります。
そして、万が一通っている教習所が自動車教習所総合補償保険に加入していない場合、教習生が万が一の事故に備えて任意保険に加入することは可能です。
ただし、任意保険の中には、仮免許中の事故を保険の対象範囲にしているものもあれば、そうでないものもあることに注意しましょう。
なお、仮免許取得中の自動車運転においては、①指導者である本免許取得者を同乗させていること、②仮免許練習中のプレートを掲示すること、が義務付けられています。
これを守らなかった場合には、保険適用外になるので注意しましょう。
その他、自動車保険について詳しく知りたい方は「自賠責保険と任意保険の違い」をご覧ください。
4.まとめ|仮免中も安全運転を
仮免許であっても、路上において自動車を運転する免許であることには変わりありません。よって、路上教習中の事故の被害者に対する損害賠償責任は原則として運転手が負います。
また、運転手は、それ以外に刑事罰や仮免許の取消などの処分を受ける可能性があります。
しかし、路上教習中の交通事故の責任を負うのは必ずしも運転手だけに限られるわけではありません。指導者として同乗する教官、あるいは、教官を雇用している教習所の責任も問われるケースがあります。
ただし、ほとんどの教習所は、こうした教習中の事故に備えて保険に加入しているため、実際には保険会社により被害者に対する損害賠償は行われると考えましょう。
仮に教習所がこうした保険に加入していない場合には、ご自身で仮免許取得中の者を対象とする任意保険に加入しておくことは可能です。
路上教習中の交通事故の損害賠償責任の問題は、通常の交通事故に比べて特殊性のある事故です。
このような事故の被害者になってしまったときには、自己判断せず、一度、交通事故のトラブルに精通した弁護士に相談してみることをおすすめします。