後遺障害等級10級とは|慰謝料相場と逸失利益を解説
交通事故に遭ってしまい長らく怪我の治療を続けても、残念ながら完治せずに後遺症が残ってしまうケースがあります。
この場合、後遺症の程度によって1~14の等級が割り当てられ、「後遺障害」と認定される可能性があります。
後遺障害として認定されると、後遺障害が残ってしまったことに関する慰謝料(後遺障害慰謝料)や、後遺障害によって働く能力が低下した分得ることができなくなってしまった収入(逸失利益)を賠償してもらうことができます。
今回は、後遺障害等級10級と認定された場合について、後遺障害慰謝料と逸失利益の金額・計算方法などを解説していきます。
1.後遺障害10級の事例
後遺障害等級10級が認定されるのは、次の各症例に該当する場合です
- 一眼の視力が0.1以下になったもの
- 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
- 咀嚼・言語機能に障害を残すもの
- 十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
- 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
- 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
- 一手の親指又は親指以外の二の手指の用を廃したもの
- 一下肢を3センチメートル以上短縮したもの
- 一足の第一の足指又は他の四の足指を失ったもの
- 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
- 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
中でも、肩腱板損傷による関節の可動域制限の残存は、後遺障害10級として特に多い事例と言えます。
2.後遺障害10級の慰謝料額相場
「慰謝料」は、精神的な損害について賠償をするものであり、単純に実費で金額を決めることができません。公平性を保つために、慰謝料の計算には「基準」が設けられています。
交通事故においては、慰謝料(精神的損害への賠償)をどのような基準で算定するかによって、賠償額に数百万から数千万円の差が生じることも珍しくありません。
以下では、慰謝料算定のおける3つの基準について、それぞれの10級における額を踏まえて説明します。
(1) 自賠責基準
10級の後遺障害慰謝料額:190万円
自賠責保険は、被害者を保護するための最低保障を行う強制保険です。よって、もともと被害者のすべての損害を補償することは意図しておらず、低額に定められていると言えます。
なお、2020年3月31日以前に発生した事故については、改正前の基準が適用されます。詳しくは弁護士にご確認ください。
(2) 任意保険会社基準
10級の後遺障害慰謝料額:200万円程度
これは、各任意保険会社の社内基準です。保険の自由化にともない、各社が独自に作成した基準を使うようになりました。
よって、200万円というのもあくまで目安であり、多くの場合は自賠責基準よりもわずかに高い程度で設定されているでしょう。
(3) 弁護士基準(裁判基準)
10級の後遺障害慰謝料額:550万円
弁護士基準とは、損害賠償の金額を最終的に決定する裁判の実務において用いられている基準です。よって、裁判基準とも呼ばれています。
弁護士の団体が、過去の裁判例や裁判所交通事故担当部の運用をまとめたものを書籍として公表しています。
その中で、東京地方裁判所民事交通部の意見を反映し、実務にもっとも影響力を持つのが通称「赤い本」(日弁連交通事故センター東京支部発行「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」)です。
上の慰謝料額も「赤い本」による金額です。
このように、後遺障害慰謝料は、弁護士基準で算定をすれば自賠責保険の3倍近い金額となります。
任意保険会社が提示してくる慰謝料金額は弁護士基準のものには遠く及びませんので、適切な金額の慰謝料を被害者が受け取るには、弁護士に保険会社との交渉を依頼する必要があります。
[参考記事]
交通事故の慰謝料は、弁護士基準の計算で大きく増額!
3.後遺障害10級の逸失利益と計算式
逸失利益とは、後遺障害によって働く能力が低下した分、働いて得ることができなくなってしまった収入のことです。
逸失利益は、次の算式で計算します。
後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
(1) 基礎収入
ここで言う基礎収入は交通事故に遭う前の年収であり、また、手取りではありません。給与所得者ならば、税金や社会保険などの各種控除前の総所得額です。
また、学生(未成年者)や専業主婦などは、厚生労働省が毎年発表している統計データである男女別平均賃金(賃金センサス)が基礎収入額となります。
なお、年金のみで生活していた高齢者や、一度も就労せず就職活動にも消極的であった無職の方は、就労によって得られる収入は事故前後で変化なしとされ、逸失利益自体が認められないでしょう。
(2) 労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、文字通り後遺障害で失った働く能力の喪失率で、基本的には等級によって数値が定められています。
後遺障害等級10級の労働能力喪失率は、原則として27%です。「働く力を27%失った」ということです。
例えば、年収500万円の人が働く力を27%失った場合、単純な計算での一年間の逸失利益は「500万円×(100分の27)=135万円」となります。
(3) 就労可能年数とライプニッツ係数
就労可能年数とは、働くことができた期間です。通常は67歳まで働くことを基準とします。例えば、30歳で受傷したときは、喪失期間は37年です。
さて、逸失利益は将来的に働いて得られたであろう収入です。
本来なら収入を得られるのは先の話です。サラリーマンであれば、毎月ごとに入ってくるはずのお金でしょう。
ところが、事故に遭ったがために、今の時点で将来の収入が一括して補償されるのです。
将来的に毎月一定額ずつの収入を得る場合と、その総額を現時点で一括して受取る場合の大きな違いは、いま一括で受け取った金銭を一度に全部使ってしまわない限りは、理屈のうえでは「利息がついて金額が増える可能性がある」という点です。
この利息分まで含めて補償するのは不合理なので、逸失利益の賠償額から差し引きます。この場合の利息の控除を「中間利息の控除」といいます。
中間利息を控除する計算方式として、現在の裁判実務では、「ライプニッツ係数」を用いるライプニッツ方式を使用します。
「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」は、「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済金等の支払基準」(平成13年金融庁国土交通省告示第1号)の別表Ⅱ-1の表で調べることができます。
(「国土交通省 就労可能年数とライプニッツ係数表」からダウンロードできます。)
この表にある「係数」が、年齢に対応したライプニッツ係数です。
例えば、年収400万円、症状固定時年齢28歳、喪失率27%の場合、同別表Ⅱ-1の対応するライプニッツ係数は、令和2年4月1日より前の事故であれば17.017、以後に発生したものなら22.8082です。
例えば上のケースにおいて、令和2年4月1日より前の事故であると仮定すると、逸失利益は以下のように計算されます。
逸失利益=400万円×27%×17.017=1837万8360円
実際の裁判実務では、「基礎収入(年収)」「労働能力喪失率」、「就労可能年数」の各要素について、個別の具体的事情に応じて妥当な数字が採用されます。
例えば基礎収入は、事故前に得ていた現実の収入を用いることが原則ですが、将来、現実の収入額以上の収入を得られたはずであることを立証すれば、その金額が採用されます。
実際の判例として、運転手として会社に勤務する男性(37歳)は事故前年収が365万円でしたが、会社の給与体系は勤続年数や経験によって昇給する内容となっていたケースで、事故当時からまもなく昇格が予定されていたことを立証し、昇格後の賃金に相当する423万円を年収として採用されました(東京地裁判決平成20年10月27日)。
反対に、転職中で無職であった場合や専業主婦であった場合、被害者にとって十分とは言えない逸失利益の金額が任意保険会社から提示されることも多いです。
満足いく賠償額を獲得するためには、具体的事実を取捨選択し、証拠をもって裁判所に提示しなくてはなりません。まさに弁護士の出番と言えます。
4.まとめ
後遺障害10級に限らず、後遺障害慰謝料は自賠責基準と弁護士基準との間で大きな差があり、逸失利益についても、適正な金額を算出する上では個別の具体的事情をきちんと説明・立証しなければなりません。
適正な賠償額を受け取るためにも、交通事故で後遺障害が残ってしまった場合は、まず弁護士に相談してください。
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