障害年金とは?|交通事故の後遺障害で年金がもらえる場合
【この記事を読んでわかる事】
- 公的年金のうち「障害年金」とはどのような年金なのか
- 障害年金ではどれくらいのお金をいつまで支給してもらえるのか
- 障害年金の申請方法について
年金と言えば、思い浮かぶのは高齢になってから受けられる「老齢年金」だと思います。
しかし、交通事故で後遺障害が残ってしまった場合に、受けられる年金があるのをご存じでしょうか?
今回は、後遺障害の補償としてぜひ利用したい「障害年金」について解説します。
1.障害年金とは
(1) 障害者になれば公的年金から給付が受けられる
①公的年金の給付は3種類
公的年金と言えば、65歳になってから貰えるものとだけ思っている人が多いかもしれません。
実は、公的年金の給付には、「老齢給付」「障害給付」「遺族給付」の3種類があります。我々が「年金」と呼んでイメージしているのは、このうちの老齢給付になります。
「障害年金」とは、公的年金のうち、障害給付のことになります。
②障害年金は毎月もらえる
障害年金は、病気やケガが原因で障害者となり、生活や仕事などが制限された場合に公的年金から受けられる給付金です。
障害年金は、年金(定期金)ですから、毎月継続的に支給されます。
障害が原因でそれまでどおり働けなくなったときには、障害年金は生活の大きな支えになります。
③障害年金の等級とは?
障害年金を受給するには、障害年金の等級に該当する必要があります。
障害年金の等級は、後遺障害等級とは異なります。障害年金に等級については、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」で定められており、1~3級に該当すれば障害年金が受給できます。
(2) 交通事故の後遺障害でも障害年金はもらえる
①後遺障害で障害年金がもらえるのはどんな場合?
交通事故で後遺障害が残った場合でも、障害年金の受給要件をみたせば、障害年金を受けることができます。
後遺障害になれば必ず障害年金がもらえるわけではありませんが、障害等級1~3級に該当するような重度の後遺障害の場合には、障害年金をもらえるケースが多くなります。
②損害賠償金と障害年金は両方もらえる?
交通事故で後遺障害が残った場合、加害者から後遺障害等級に応じた慰謝料や逸失利益などの損害賠償金を受け取ることができます。
交通事故で損害賠償金を受け取った場合には、受け取った金額分につき、障害年金の支給が事故発生日から最大で3年間停止されます。
しかし、障害年金は事故発生日から3年を超えてから停止されることはなく、障害の状態が障害等級に該当している限り受給を継続することができます。
③障害年金も受け取るメリット
交通事故の損害賠償金は、将来発生する損害に関するものも、一括で受け取ることになります。
お金を前倒しで受け取る場合には、途中発生する利息分が差し引かれるというデメリットがあります。
具体的には、将来発生する収入の減少分である「逸失利益」については、中間利息控除という処理を行うことにより、算出された額よりも実際の賠償金額が少なくなります。
また、お金を一括で受け取れば、将来必要な分が足りなくなることがあるのもデメリットと言えます。
障害年金なら、将来に必要な分はその都度もらえます。利息分を減額されることもなく、手元にある分がなくなってしまう心配もありません。
損害賠償金だけでなく、障害年金も受給することで、より大きな将来の安心を得ることができます。
(3) 障害年金の種類
障害年金には、国民年金から支給される「障害基礎年金」と、厚生年金から支給される「障害厚生年金」があります。
①障害基礎年金
障害基礎年金は、次のすべての要件をみたす場合に受給できます。
- 障害の原因となった病気やケガの初診日が国民年金の加入期間中であること(20歳前または60歳以上65歳未満の年金未加入期間を含む)
- 障害認定日または20歳に達したときにおいて、国民年金法に定める障害等級1級または2級の状態にあること
- 初診日の前日において、原則として、初診日の属する月の前々月までの公的年金加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(※20歳前に初診日がある場合には保険料納付要件は不要)
②障害厚生年金
国民年金は強制加入なので、国民年金から支給される障害基礎年金は、要件をみたしていれば必ずもらえます。
さらに、会社員など厚生年金にも加入している人は、障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされて支給されることになります。
障害厚生年金の受給要件は、次のとおりです。
- 初診日において厚生年金の被保険者であること
- 障害認定日において障害等級(1級、2級、3級)に該当すること
- 保険料納付要件をみたしていること(障害基礎年金と同様)
障害基礎年金が受給できるのは障害等級1級・2級のみになりますが、障害厚生年金は1~3級に該当すれば受給できます。
つまり、障害等級が3級であれば、障害基礎年金は受けられず、障害厚生年金のみが受けられることになります。
(4) 障害手当金とは
「障害手当金」は、障害等級3級よりも程度がやや軽い障害について、年金ではなく一時金として厚生年金から支給されるものです。
障害手当金の受給要件は、次のとおりです。
- 疾病にかかり、または負傷し、その傷病に係る初診日において厚生年金の被保険者であったこと
- 初診日から5年を経過するまでの間におけるその傷病の治った日において、その傷病により政令で定める程度の障害の状態にあること
(5) 障害認定日とは
障害年金は、「障害認定日」を過ぎてからでないと、請求できません。
障害認定日とは、初診日から1年6か月を経過した日になります。その日に障害のある状態であれば、障害年金を請求できるということです。
2.受給することができる額
障害年金の受給額は、家族構成(配偶者や子の有無)によって変わります。
具体的には、次の計算式で算出される額になります(平成30年4月分から)。
【1級】
障害基礎年金→974,125円+子の加算額
障害厚生年金→報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額224,300円【2級】
障害基礎年金→779,300円+子の加算額
障害厚生年金→報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額224,300円【3級】
障害厚生年金→報酬比例の年金額(最低保証額584,500円)【3級よりも軽い障害】
障害手当金→報酬比例の年金額×2(最低保証額1,169,000円)
3.申請手続き
(1) 障害年金請求の流れ
障害年金を受給する手続きの流れは、次のようになります。
①病院で医師の診断書作成の請求
障害年金を受給するためには、医師の診断書や受診状況等証明書が必要になります。そのため、医師に診断書の作成を依頼します。
②病歴・就労状況等申立書作成
医師の診断書を受け取ったら、病歴・就労等申立書を作成します。病歴・就労状況等申立書は、障害状態を確認するための補足資料になります。
③年金請求書の作成
障害年金を請求するときには、年金請求書に添付書類を付けて提出するので、年金請求書を作成します。
④年金証書・決定通知書の受取
年金の受給が決定したら、年金証書と決定通知書を受け取ります。
(2) 障害年金請求に必要な書類
障害年金請求の手続きの際には、次のような書類が必要になります。
- 年金請求書
- 受診状況等証明書
- 診断書
- 病歴・就労状況等申立書
- 年金手帳
- 戸籍抄本
- 銀行口座の通帳・キャッシュカードの写し
- 身体障害者手帳・精神保健福祉士手帳・療育手帳の写し
4.労災から障害(補償)年金をもらえる場合
(1) 労災保険から受けられる年金もある
①障害補償年金とは?
労災保険は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、傷害または死亡に対し、給付を行う保険(社会保険)です。
業務中や通勤中の交通事故により後遺障害を負った場合には、労災保険の障害給付を受けることができます。
労災保険の障害給付のうち、年金形式で受け取るものを「障害補償年金」と言います。
②労災保険の障害等級とは?
労災保険の障害給付は、障害等級1~14級に該当する場合に受けられます。
労災保険の障害等級は、国民年金・厚生年金の障害等級とは全く異なります。
なお、自賠責の後遺障害等級は労災保険の障害等級に準じた内容になっているため、後遺障害等級と労災保険の障害等級は基本的に同じということになります。
③年金と一時金の違い
労災保険の障害給付は、障害等級1~7級の場合には、終身または障害がなくなるまで年金の形で支給されます。
一方、障害等級8~14級の場合には、一時金の形で支給されることになります。
(2) 障害補償年金を受給する方法
労災保険の障害補償年金を受給する手続きは、次のような流れで行います。
①申請書類収集・作成
障害補償年金の申請をするときには、障害補償給付支給請求書に医師の診断書を添付して提出します。そのため、診断書を医師に記入してもらう必要があります。
必要に応じて、レントゲン写真等の資料も用意します。
同一の事由によって障害厚生年金・障害基礎年金等を受給している場合には、受給額の証明書も必要になります。
②書類提出
障害補償給付支給請求書を添付書類と一緒に労働基準監督署に提出します。
③審査
労働基準監督署で審査が行われます。
④決定
審査の結果、支給が決定すれば、支給決定通知を受け取ります。
⑤振込
厚生労働省から年金が振込されます。
(3) 受給することができる金額
障害基礎年金の受給額は、給付基礎日額に等級ごとに定められた日数をかけたものになります。
給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当する額です。
たとえば、障害等級1級では給付基礎日額の313日分、障害等級第2級では給付基礎日額の277日分が年金額になります。
(4) 障害年金と障害補償年金との併給調整
障害年金と障害補償年金の両方を申請した場合、両方とも全額が受け取れるわけではありません。
この場合、障害年金については全額受給できますが、障害補償年金は支給調整され、減額されます。
5. まとめ
交通事故で後遺障害が残ってしまった場合、要件をみたせば障害年金を受給できます。
損害賠償金に加えて、障害年金を受け取れば、より充実した補償を受けられます。
泉総合法律事務所では、交通事故を専門とする弁護士が、後遺障害の認定手続きから障害年金の申請までお手伝いいたします。
ご不明な点は、お気軽にご相談ください。