交通事故弁護士 [公開日]2018年6月14日[更新日]2018年9月14日

高齢ドライバーの事故率は本当に高い?データから紐解く事故傾向

高齢ドライバーの事故率は本当に高い?データから紐解く事故傾向

【この記事を読んでわかる事】

  • そもそも「高齢ドライバー」とは何歳以上の運転者のことを言うのか
  • 高齢ドライバーの事故率は本当に高いのか
  • 運転免許の自主返納はするべきなのか、させるべきなのか

2018年5月末に起きた、神奈川県茅ヶ崎市で90歳の女性が運転する車が起こした死傷事故のニュースが記憶に残っている方も多いことでしょう。

その事故以外でも、高速道路の逆走など、高齢ドライバーによる事故のニュースを頻繁に目にするようになってきました。

今回の記事では高齢ドライバーが起こす事故の実情について考えてみます。

1.「高齢ドライバー」の定義

「高齢のドライバー」とひとことで言っても、その定義づけはさまざまです。

  • 警視庁の交通事故統計で「高齢者」とされているのは「65歳以上」
  • 厚生労働省も各種統計で「65歳以上」を高齢者としている
  • 警察庁の統計データでは「75歳以上」が「高齢運転者」
  • 高齢運転者標識(もみじマーク)は「70歳以上」のドライバーの努力義務
  • 免許更新時の認知機能検査は75歳以上のドライバーが受ける

75歳でも若いときと同様の運転ができる人もいれば、60歳前後から判断力や認知機能が低下し始める人もいます。そのため年齢だけを見て一概に「高齢ドライバーは危険」などと決めつけることはもちろんできません。

しかし年齢とともに認知機能などが衰えてくるのは当然のことですから、本人はもちろん家族など周りの人も、高齢ドライバーの運転には注意を払う必要があります。

2.高齢ドライバーの交通事故事例

高齢ドライバーの交通事故でよくあるのは以下のような事故です。

  • 高速道路の逆走
  • アクセルとブレーキの踏み間違い
  • ハンドル操作やブレーキ操作の遅れ
  • 前方確認が不足していたなどの注意不足

このような事故が増える原因は、年齢を重ねると「動体視力」「聴力」「複数の情報を同時に処理する」「瞬時に判断して行動に移す」などのような「身体機能」が少しずつ衰えてくるためです。

また、身体機能のみならず、加齢に伴う「認知機能」の低下も懸念のひとつです。平成28年に認知機能検査を受けた高齢者約166万人のうち、約5.1万人は認知機能が低下しているというデータが出ています。

身体機能も認知機能も、年齢を重ねると少しずつ衰え、運転に支障を来す可能性が出てくるということですね。

3.高齢ドライバーの事故率

「高齢ドライバーが多く事故を起こしている」という認識は誤り?

高齢ドライバーの事故は比較的大きく報道されることも多いため、「高齢ドライバーの事故は多い」というイメージが付きがちですが、ここでは警察庁の平成29年交通事故統計データから、事故の多い年齢層について調べてみました。

(1) 「免許保有者10万人あたり」の交通事故件数

「免許保有者10万人あたりの事故件数」のトップ3は以下のとおりです。

1位:16~19歳
2位:20~29歳
3位:80歳以上

1位と2位は「免許を取ったばかりの若い層」が一番事故を起こしやすいということで、ここは納得です。

また、個人差があるとはいえ大抵の人は80歳を超えると身体に何らかの不調が出てきます。その年齢層も事故を起こしやすい、というのも納得がいくでしょう。

一方、65歳~69歳や70歳~74歳の事故件数はほかの年代(30代~50代)とさほど変わらない、という数字も出ています。75歳~79歳になると数字はやや増えています。

(2) 純粋な「交通事故件数」

前項は「免許保有者10万人あたり」でしたが、今度は実際の純粋な交通事故の件数を見てみましょう。

1位:20歳~29歳
2位:40歳~49歳
3位:30歳~39歳

このように20代~40代の事故件数がトップ3になっており、80歳以上による交通事故は全年代を通して一番少なくなっています。これは単純に「80歳以上の運転者の数自体が少ないから」とも言えます。

(3) 「免許保有者10万人あたり」の死亡事故件数

1位:16歳~19歳
2位:80歳以上
3位:70歳~79歳

交通事故の中でも特に「死亡事故」に限ってデータを見ると、このような結果でした。

事故のきっかけになるような出来事があったときに判断力が低下している状態だと、最善の策をとることができず被害を大きくしてしまい死亡につながっている、ということも考えられます。

(4) 純粋な「死亡事故の件数」

1位:40歳~49歳
2位:50歳~59歳
3位:60歳~69歳

「死亡事故の件数」に注目してデータを見ると、死亡事故の数が一番多いのは40代、次いで50代、60代と続きます。

70歳以上になると運転者の数も減ってきますから、件数だけを見ると上位には入りません。

(5) 「高齢者の事故が増加している」のは本当?

事故件数そのものは減っている、もしくは横ばい状態が続いています。

今後「高齢者」とされる人の数は増えていく一方でしょうから、このまま横ばい状態が続くのであれば、むしろ高齢者の事故の割合は減っている、とさえ言えるかもしれません。

4.免許の自主返納

とはいえ、高齢になった自分の親や祖父母が外出先で交通事故を起こしたら…そう考えると家族は心配になってしまいます。

「高齢ドライバーは免許返納すべき」という意見もあります。実際、神奈川県茅ヶ崎市で死傷事故を起こした90歳の女性は、事故の前に家族と免許返納についての話をしていたと報道されています。

(1) 免許の自主返納の方法

返納の手続き自体は難しいものではありません。

自分の住所地を管轄する警察署もしくは運転免許センターへ

  • 免許証
  • 印鑑

を持って行き、「免許証を返納したい」と伝えるだけでOKです。

なお、「返納」だけの場合、手数料は基本的に不要です。

希望者には身分証明書として使える「運転経歴証明書」が交付されます。この場合は手数料が必要です。

なお、自治体によっては、免許を自主返納すると

  • 交通機関の運賃割引
  • 商品券交付

などの特典がつくこともあります。

(2) 返納の強要はしない

一方で、「自分はまだまだ大丈夫、周りに何を言われても免許は返納したくない、ずっと車を使いたい」という高齢者も多いのが実情です。

「危ないよ、運転はもうしないで」などと返納を強要すると、ドライバーの尊厳を傷つけることにもなってしまいます。

また、地方在住の場合、「車以外の移動手段がまったく無いので免許は返納できない」という人もいます。

非常に難しい問題ですが、大切なのは「本人が納得して返納すること」です。決して無理強いはしてはいけません。

5.まとめ

「高齢ドライバーが起こした交通事故」のニュースはセンセーショナルに扱われがちです。

高齢化がすすむ現代社会において「高齢ドライバーの事故」について考えるのはもちろん大切なことですが、大々的なニュースやそれに基づいて形成されたイメージにばかりとらわれて声高に「免許を返納しろ」と叫ぶだけでは何も変わりません。

「イメージ」ではなく「データ」をもとに、冷静な議論を進めていくことが必要です。

警察庁が公開している交通事故のデータを見たことはありますか?見たことがないという方は警察庁のウェブサイトでぜひ一度見てみてください。

データの蓄積の中に、未来へのヒントが隠されているかもしれません。

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