慰謝料・賠償金 [公開日]2018年6月14日[更新日]2024年3月18日

後遺障害を負った高齢者の慰謝料|逸失利益は認められるか

後遺障害を負った高齢者の慰謝料|逸失利益は認められるか

交通事故で後遺障害を負った高齢者が慰謝料を減額されるという事例は少なくありません。
慰謝料は保険会社側が示談交渉の際に主張してくるのですが、交渉の場で保険会社から専門的な話をされて、提示された金額を言いなりのまま受け入れるケースも珍しくないでしょう。

しかし、高齢であるからといって必ずしも若年層より慰謝料が低額になるとは限りません
また、高齢者であっても逸失利益(将来の労働で得られたはずが後遺障害により得られなくなってしまった利益)が認められるケースがあります。

今回は、高齢者が交通事故被害者になった場合の適正な慰謝料や逸失利益とはどのようなものか、それを受け取るために注意すべきことについてお話しします。

1.被害者の年齢と慰謝料額の関係

(1) 保険会社が減額を主張する理由

後遺障害等級認定への申請が認められると、各障害に応じた後遺障害慰謝料が補償されます。

ただし、その価額については、等級に応じた基本額はあるものの、事故の状況や被害者の後遺障害の程度、態様によって個別に決められるため、一律機械的に決定するものではありません。

また、保険会社はできうる限り慰謝料の額を抑えようとします。
その結果、後遺障害に対応した慰謝料を交渉する際、「高齢者であること」を理由に通常よりも減額した慰謝料額を保険会社は提示してくるのです。

交通事故による慰謝料とは、事故に遭ったことによる精神的損害への補償です。
後遺障害慰謝料は、後遺障害の程度に応じ一定額が決められているのですが、若年層に比べ高齢者は余生が短く後遺障害への負担感が小さいなどを減額の理由にする保険会社は少なくないようです。

また、示談の際、高齢の被害者が直接保険会社と交渉することは、専門的知識も乏しく心理的な負担も大きいために通常よりも減額されていることに気づきにくいという側面もあります。

(2) 高齢であることは減額理由にならない

後遺障害慰謝料は後遺障害を負ったことへの精神的損害への補償であるという定義からすると、高齢であることは何ら減額の理由にはなりません
また、逆に高齢者が家族を扶養しているというケースでは、その実情に即した増額を見込める場合もあります。

しかし現実には、被害者が高齢者であるという理由で慰謝料が低く抑えられているケースは多いです。
後遺障害等級認定を受けられた場合には、まず、被害者ご自身の等級に応じた慰謝料の相場をきちんとチェックしましょう。

そして、保険会社が提示してくる金額に納得がいかない場合には、専門家であり交渉のプロである弁護士に相談してみましょう。
相手方との交渉を弁護士に任せることで精神的な重圧が軽くなり、慰謝料の増額交渉も承ってくれます。

2.高齢者に逸失利益は認められるか?

(1) 逸失利益とは

交通事故における逸失利益とは、交通事故による怪我で後遺障害を負わなければ得られたはずの利益をいいます。つまり、事故によって失った将来的な損失の補償です。

後遺障害によって事故前の仕事を続けられなくなる(あるいは部署異動となる、仕事の効率が落ちて収入が減る)などの可能性をあらかじめ予測し、その損害は加害者に補填してもらうという補償のかたちです。

事故によるけがの損害賠償金のなかでも、逸失利益が占める割合は非常に大きいといえます。

(2) 逸失利益の計算方法

逸失利益は精神的損害への補償である慰謝料とは別個の賠償金として補償されるものです。以下のような決まった計算式によって導かれます。

基礎収入※1×労働能力喪失率※2×労働能力喪失期間※3に対応したライプニッツ係数※4

※1:後遺障害による逸失利益算定の基礎となる収入のことです。詳しくは後述します。
※2:労働能力喪失率とは、交通事故の後遺障害によって事故前と比べどの程度労働能力が低下したかを比率で数値化したものです。重度後遺障害の1級~3級は100%、7級で56%、最軽度後遺障害14級では5%と労働能力喪失率表で定められています。
※3:後遺障害を負ったことで事故前の労働能力で就労することができなくなった期間のことです。詳しくは後述します。
※4:逸失利益は将来の一定期間で得るはずの利益を一括全額で受け取ることになるため、中間利息を控除する必要が出てきます。その調整のための係数で、労働能力喪失期間によって数値化されています。

①高齢者の基礎収入

基礎収入は原則、事故に遭う前の被害者の現実の収入が基礎とされます。
ですから、実際に仕事についていない収入のない高齢者の場合、そもそも逸失利益が認められるのかが問題となるのです。

基礎収入は、後遺障害が残らなければ将来得られたであろう収入ですから、高齢者で無職者であっても将来的に職に就き収入を得る可能性があれば認められると考えられています。

その判断の基礎となるのが以下の3点です。

  • 労働能力…事故前から健康状態に問題があったりすると、労働能力が認められないことがあります。
  • 労働意欲…高齢者が定年退職後、全く働くつもりがなかったような場合には、労働意欲がないと判断されてしまうことがあります。
  • 就労の蓋然性…年齢の上限を設けている求人が多いため、高齢者が無職の場合に働き口が見つからない、見つけにくいといった理由で就労の蓋然性が認められないことがあります。

ただ、1.能力と2.意欲があれば概ね蓋然性は認められやすいと考えられます。

過去の裁判例を見ても、高齢であることを理由に基礎収入を減額することを当然とはしていません。有職者は年齢に関係なく事故前年度の年収が基礎収入となります。

また、無職者や実収入が低い場合でも将来的に平均賃金を得る見込みがあれば、賃金センサス(※5)の平均賃金を基礎収入とすることが認められるケースもあります。

※5毎年実施されている賃金構造基本統計調査の結果に基づき、労働者の性別や年齢、学歴等ごとに平均収入をまとめたものです。

②高齢者の労働能力喪失期間

交通事故の後遺障害が原因で労働することが不可能になってしまう期間のことを「労働能力喪失期間」といいます。
原則として就労可能年齢は67歳とされており、症状固定日から67歳までの期間を指すことになります。

そのため、67歳以上の高齢者が後遺障害を負った場合には、原則として簡易生命表の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とするとされています。

例えば、症状固定時の年齢75歳男性の場合、平成28年の簡易生命表による平均余命は12.14年ですから、労働能力喪失期間は6年となり、それに対応するライプニッツ係数は5.0757です。

また、症状固定時の年齢が60歳男性の場合、67歳までの年数が7年ありますが、平成28年の簡易生命表による平均余命は23.67年ですからその2分の1は11年です。
このように、平均余命による労働能力喪失期間のほうが長い場合、それが採用されるケースもあります。

ただ、被害者が、このような複雑な根拠を挙げて保険会社と交渉することは至難の技です。専門的な交渉は弁護士に相談されることをおすすめします。

3.高齢者の家族の固有の慰謝料

高齢者が交通事故で後遺障害を負った場合、被害者と同居していた家族や被害者の親族への精神的負担が大きいことは容易に予想できます。健康に生活できていた高齢者がひとたび怪我をして後遺障害が残ると、重症化することが多いからです。

場合によっては事故がきっかけで、寝たきりになるなどの介護生活を強いられる事態にもなりかねないでしょう。

そのような場合に、被害者本人だけでなく、被害者親族が固有の慰謝料を請求できるケースがあるのです。

特に重度の後遺障害を負った場合には、家族固有の慰謝料を認められやすいと言えます。
固有の慰謝料の場合、被害者との関係性や後遺障害の程度、介護の要否や程度などが考慮され金額が決まります。

裁判例を見ると、配偶者や子供などの身近な介護に携わる家族には100万円~400万円程度の範囲で慰謝料が支払われています。

ただし、このような請求を示談の交渉の場で被害者が保険会社に了承させることはかなり難しいと考えられます。
したがって、交通事故の交渉の専門家である弁護士に任せることが最善でしょう。

4.まとめ

高齢者が交通事故で被害に遭うと、本人への被害は若い人以上に重大です。
また、高齢者が後遺障害を負った場合には事故後の生活に支障が出て、本人だけでなくご家族にとっても経済的、精神的損害は甚大なものだといえます。

ですから、事故後の生活の不安を少しでも軽減するためにも、適正な損害賠償金による解決を目指しましょう。

高齢者が保険会社と直接交渉すると、被害者側の負担は非常に大きいでしょうし、怪我の治療や場合によっては介護の必要も生じて十分な交渉結果が得られないという事態にもなりかねません。

弁護士に交渉を依頼することで、煩雑なやりとりや不安などの心理的な負担からも開放され、慰謝料の増額も期待できます。

泉総合法律事務所では、交通事故の示談交渉や損害賠償金に関するご相談は初回無料です。自動車保険に弁護士費用特約をつけていた場合、弁護士費用の一部または全額を保険会社に負担してもらうこともできます。

ぜひ一度、泉総合法律事務所の弁護士に相談してみてください。

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