後遺症と後遺障害の違いとは?|弁護士が分かりやすく解説

「後遺症」という言い方は一般用語としてよく用いられている言葉ですが、交通事故被害の損害賠償の文脈では、加害者の保険会社は「後遺障害」という言葉を使います。
そして、「後遺症」と「後遺障害」、この2つの言葉は似ているようで明確に異なる意味が存在します。
この記事では、この違いについて解説いたします。
1.後遺症と後遺障害の違い
(1) 後遺症とは
病気や怪我など急性期症状が治癒した後も、機能障害などの症状や傷痕が残ることをいいます。
自動車追突で頸椎損傷を起こし外科治療で治療したものの、その影響で低髄液圧症候群脳脊髄液減少症になりめまいが続くなど交通事故に起因する後遺症のほか、脳卒中で倒れたあと生涯をとおして半身不随になってしまうというような後遺症もあります。
広く一般用語として使われているので、比ゆ表現として、大地震の後遺症でトラウマが続く、などものごとや事件のあとで続く悪影響についても派生して使われたりします
(2) 後遺障害とは
交通事故の被害者となり、受傷してしまった精神的・肉体的な傷害が、病院での治療を続けた結果、これ以上今後の治療によっても、その症状が大きくは良くも悪くもならないであろうと、医師に判断されたあとに残る傷害をいいます。
この医師による判断を受けることを、「症状固定」といいます。
後遺障害は、自動車損害賠償保障法(通称自賠責法)という法律に規定された概念です。また、労働者災害補償保険法で「障害」と規定されている状態も、実質的に同じであるといわれています。
交通事故の文脈においては、一般用語である「後遺症」と法律上の用語である「後遺障害」は違うのだ、とイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。
自賠責法は戦後の交通事故の増加を背景に、交通事故被害者に対して最低限の保証をしようという国策的意図をもって立法された法律です。
自動車は大変便利なものですが、鉄の塊を動かすということでもあるので、誰にとっても、いつどこでも加害者・被害者になりうる危険なものでもあります。
そのため、自賠責法ではすべての運転者に自賠責への加入を義務付けています。
後遺障害は、大まかに示すと、自賠責法の定めにより、以下の2つの要件の両方を満たした症状であるといえます。
①労働能力の喪失を伴う症状
自賠責法は、交通事故の影響で労働能力の低下や喪失をした被害者の逸失利益を救済しようという趣旨も有しています。
そのため、自賠責法は症状ごとに、100/100から5/100のレンジで、事故がなければ有したであろう能力を100として低下喪失のレベルをわけ、それに応じた損害賠償金額を定めています。
たとえば、100/100は常に要介護となった労働能力ゼロの状態ですので、自賠責賠償金では最高額の賠償金4000万円であるとされています。
②自賠責基準の等級に該当する症状
自賠責保証は、等級制度を採用しており、後遺障害の症状の重症度に応じて1級から14級までの等級を定めています。
昇順で番号が若いほど、症状が重篤であり高い損害賠償金額が支払われるという認定結果となります。
後遺障害の等級認定を行っているのは、自賠責事務所という審査機関です。
自賠責事務所は、加害者の任意保険会社から事前審査という形で申請を受けるか、被害者本人から被害者請求という形で申請を受け、提出された書類を審査して後遺障害に該当するか、該当するのであればどの等級であるかを審査し、決定をします。
(2) 後遺障害等級を獲得するためのポイント
後遺障害等級が認定されると、交通事故によっておった怪我そのものに対する障害慰謝料にくわえて、後遺障害について後遺障害慰謝料の支払を受けることができます。
そのため、被害者としては、ご自身に残ってしまった後遺症が後遺障害に該当する、とぜひとも認定してもらいたいところです。
後遺障害であると認定されるために必要なポイントを、以下にまとめます。
①交通事故が原因となる肉体的・精神的傷害
対象となる症状が、交通事故が直接的な原因である肉体的・精神的障害であると認められる必要があります。
具体的には、交通事故とは関係ない既往症などによるものではないという証明が必要になります。
たとえば、元々ひざに既往症がある被害者の方が、交通事故の被害でさらにひざを痛めてしまい後遺症になった場合、交通事故の衝撃が引き金になった部分はどこからどこまでか、ということが審査されることになります。
②症状固定
後遺障害等級認定申請をするためには主治医に後遺障害診断書などを作成してもらい、それを自賠責事務所に提出することになります。
後遺障害診断書を作成してもらえるのは、症状がこれ以上悪化もよくもならない症状固定が行われ、後遺症の範囲が確定してからになるので、症状固定を待ってから申請しましょう。
後遺障害診断書については「交通事故で後遺障害診断書を作成してもらう際の書き方・費用」で詳しく解説しています。
③交通事故と本人が感じる後遺症状に因果関係が認められる
交通事故と本人が感じる後遺症状に因果関係が認められる必要もあります。
日本法における損害賠償についての主要な考えは、相当因果関係といい、おおまかにいうと原因と結果の間に理論的な結びつきがある範囲が賠償されます。
例えば、むちうち症などの後遺症により、めまいや微熱が続く場合、これが他の被害者の持病のせいではなく、交通事故の衝撃による神経障害であることを立証していかなければいけないこととなります。
④本人が感じる後遺症状の原因が医学的に証明・説明可能
前述のように、自賠責事務所による後遺障害等級認定は、書面審査によってのみ行われます。
そのため、本人が感じる後遺症状の原因を医学的に書面で説明・証明していくことが必要になります。
最もわかりやすく説得力のある資料の例としては、骨折や一部損傷など他覚症状があり、それがレントゲンやMRIなどの画像データに写せる場合の、これらの画像データです。
これらは、一見して原因が証明できるので、自賠責事務所もぶれがなく判断していくことができます。
一方、工夫が必要になるのはむちうち症などの神経症状で、自覚症状はあるけれど画像にうつる他覚症状がない場合です。
この場合、画像データなどは準備できないので、医師の診断書類などの証拠資料を綿密に準備していく必要があります。
むちうち症を証明していくことができる医学的検査としては、以下のようなものがあります。
- ジャクソンテスト
- スパーリングテスト
- 腱反射テスト
- 筋電図
医師は治療のプロですが、損賠賠償金のための後遺障害等級認定について必ずしも詳しいとは限りませんので、医師からこれらのテストを提案してくれるとは限りません。
医師に事情を話し医療のプロとして説得力のある資料準備を誠心誠意お願いするとともに、これらのテストを受けたいなどの提案も積極的にしていきましょう。
⑤後遺症状の程度が自賠責法施行令の等級に該当する
後遺症状の症状の程度が一定以上であり、自賠責事務所に等級認定される後遺障害とされることが必要です。
特にむちうち症は症状の医学的因果関係をどこまで証明できるかで、等級12級と14級の認定差がうまれますし、一番軽度の等級である14級認定がされるかどうかがボーダーとなる可能性もあります。
2.認定が下りない場合
14級認定のボーダーで認められずに、後遺障害慰謝料の対象とならなかったり、想定していた等級よりも低い等級認定がされて不本意な思いをされている被害者の方もいらっしゃると思います。
そういった被害者の方の救済手段として、以下の2つがあります。
異議申し立てにより結果が変わる可能性は1割程度といわれており、過度な期待をすることはできませんが、理由があると考えられる場合はやれることはすべてやってみましょう。
(1) 自賠責保険会社に異議申し立て
被害者請求という形で、被害者自らが自賠責事務所に等級認定申請をしている場合、自賠責保険会社に異議申し立てをすることができます。
事前申請という形で加害者の任意保険会社が申請をしている場合は、任意保険会社に異議申し立てを行います。
(2) 共済紛争処理機構に申し立て
保険会社あてではなく、共済紛争処理機構に異議申し立てをするという方法もあります。
3.後遺障害認定手続きは弁護士に相談
等級認定されたあとにはいよいよ後遺障害慰謝料を請求していくことになります。
後遺障害慰謝料は3つの基準、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準のいずれかで算出されます。
3つの中で弁護士基準がもっとも高い慰謝料で算出されるので、ぜひ弁護士基準での請求を検討されてください。
弁護士基準は、過去の判例の蓄積で妥当な損害賠償額を定めているものですので、弁護士が詳しいです。
上述のとおり、後遺障害認定手続きも非常に煩雑で専門知識を要するところですので、認定手続きから請求まで、交通事故に詳しい弁護士に相談することは合理的な解決策であるといえるでしょう。
泉総合法律事務所にご相談いただければ、交通事故に実績のある弁護士が最後までサポートさせていただきます。