交通事故の加害車の同乗者|責任は発生する? 慰謝料請求できる?
交通事故の原因が加害者だけにとどまらず、加害者の自動車に一緒に同乗していた人に及ぶ場合もあります。
例えば、同乗者が運転者の飲酒運転を黙認していた場合に事故が発生した場合などです。
この場合、被害者としては同乗者にも責任を問いたいと考えますが、これは可能なのでしょうか?
今回は、交通事故の加害車両に同乗していた同乗者の責任について解説します。
1.交通事故の同乗者にどのような法的責任を問えるか
交通事故の加害車両に乗っていた同乗者が法的責任を問われるケースはあるのでしょうか。
民事上の責任、刑事に分けてみていきましょう。
(1) 加害車両の同乗者に慰謝料を請求できるケース
交通事故の被害者としては、交通事故の原因となったすべての人にきちんと責任を取ってほしいところです。特に、加害者の車に一緒に同乗していた同乗者の責任は問うことができるのでしょうか?
原則として、加害車両の同乗者への請求はできませんが、例外として加害車両の同乗者に責任を問うことができるケースとしては、以下が挙げられます。
- 同乗者が車の所有者だった場合
- 同乗者が運転者と交代で運転していたような場合
- 同乗者が運転者の使用者(雇用主)であった場合
- 同乗者が運転者の飲酒運転に関与した場合
- 同乗者が運転者の危険運転(煽り運転など)に関与した場合
同乗者が車の所有者であった場合には、運行供用者責任(自賠法3条)を根拠に損害賠償請求をすることができます。
運行供用者とは、自動車の運用を支配し利益を得ている人を指し、車の所有者はこれに該当します。
また、運転者と交代で運転していた場合にも同条により賠償責任を負います。
同乗者が運転者の使用者であった場合は民法上の使用者責任(715条、709条)が発生します。
会社の雇用主は、運転者が運転を行ったことで利益を得ているのだから、危険も負担すべきとの考えから、損害賠償責任を負うことになります。
運転者が飲酒運転をしていた場合に同乗者も飲酒を勧める、酒を提供する、運転を依頼する、共同で飲酒する、などをしていた場合には、道路交通法違反(65条2項〜4項)となりますので、運行供用者責任に基づく損害賠償請求が可能です。
運転者が危険運転行為(高速度での運転、お酒や薬物の影響での運転、あおり運転、赤信号の無視など)を、一緒に計画して行ったり、勧めたり、助けたりした場合にも、同乗者に損害賠償責任(運行供用者、不法行為)が認められます。
同乗者が損害賠償責任を負う場合、運転者との連帯債務となるため、それぞれに全額の慰謝料を請求することが可能となります。
つまり、被害者に対してはそれぞれが全額責任を負い、内部関係を除いて加害者同士が半分ずつ責任を分け合うことはできないということです。もっとも、一方から全額の支払いを受けた場合など、賠償の二重取りはできません。
以上から、交通事故の加害車両に同乗していた同乗者は、場合によっては損害賠償責任を負う可能性があるということです。
(2) 加害車両の同乗者の刑事責任を追及できるケース
では、交通事故の同乗者に刑事責任が追及されることはあるのでしょうか?
まず、飲酒や無免許などの違法な行為を知らずに同乗していた人に刑事責任が問われることはありません。
問題となるのは、違法行為に加担していたと考えられるケースです。
例えば、先にあげたケースのように、飲酒運転を知りながら、運転を依頼するなど積極的な意思を用いて同乗した場合です。
具体的には、以下のような刑事上の責任が問われる可能性があります。
- 加害車両の同乗者が飲酒運転者に、酒を提供した、酒をすすめた、同乗を要求・依頼した、車両を提供した場合(道交法65条1項から4項)
- 無免許運転を知って同乗した場合(道交法64条3項)
- BがAの危険運転致死傷罪の教唆、幇助、共謀共同正犯が成立する場合(自動車運転処罰法2条)
- 過失運転致死傷罪の共犯(教唆、幇助、実行共同正犯)が成立する場合(自動車運転処罰法5条)
飲酒者に車を貸したり(65条2項)、運転者に酒類を提供したり(3項)、飲酒を知りながら依頼して同乗した場合(4項)には、道路交通法65条2項から4項違反として、「5 年以下の懲役または 100 万円以下の罰金(117条の3第2号)」、「3年以下の懲役または 50 万円以下の罰金(117条の2の2第5号)」「「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」(117条の3の2第2号、117条の3の2第3号)」「3 年以下の懲役または 50 万円以下の罰金(177条の2の2第6号)」、がそれぞれ規定されています。
無免許運転であることを知った上で、同乗者が運転を依頼したり勧めた場合(道交法64条3項)は、「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」(117条の3の第1項違反)に問われます。
アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた場合、運転者は危険運転致死傷罪に問われます。このとき、同乗者がお酒を一緒に飲んでいた場合や飲むことを勧めた上で運転を黙認していた場合は、運転者と同様の罪に問われる可能性があります。
罰則は「15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役(自動車運転処罰法2条)」が規定されています。
また運転者の過失につき、同乗者に責任が認められる場合にも「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」(自動車運転処罰法5条)に処される可能性があります。
このように、加害車両の同乗者に対しても刑事責任が問われることがあります。
2.事故現場で同乗者だけ先に家に帰るのは違法?
交通事故の当事者となった場合、できるだけすぐに警察に通報する必要があるのはご存知の方も多いでしょう。
これは、運転者でなく、同乗者であっても同様なのでしょうか?
道路交通法72条では、「当該車両等の…運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員…は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所…を報告しなければならない。」と規定されています。
つまり、運転者が怪我を負って警察に連絡にできないケースなどでは、運転者だけでなく同乗者である乗務員にも同様に通報の義務があるということです。
この場合は、警察に通報した後は、実況見分にも立ち会う必要があるので、その場から勝手に離れないようにしましょう。
また、事故時の救護義務や危険防止措置義務(同法72条)については、運転者が怪我を負っていない場合でも、同乗者に対しても必要な措置を講じることが義務付けられています。
このように、運転者の状況次第では、同乗者にもその場に止まり、警察官に事故の状況などを報告する義務があります。
3.交通事故でお悩みがあるなら弁護士に相談を
交通事故の加害者が運転していた車両に同乗者がいて、同乗者の責任も問いたいという場合、損害賠償額の交渉がうまくいかない場合があるかもしれません。
交通事故の被害者となってしまったら、まずは弁護士にご相談ください。
事故の責任がある人には、きちんと精算してもらう権利があります。
弁護士にご相談いただければ、適切な金額まで賠償金を増額できる可能性もあります。
お悩みの場合は、交通事故を多く取り扱う泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。