第三者行為による傷病届とは|出さない場合のデメリット
交通事故に遭ったとき、被害者の怪我の治療に必要な治療費(医療費)は、健康保険を利用することができず、加害者もしくは加害者が加入している保険会社が負担するというのが基本です。
しかし、何らかの事情で加害者側がその治療費を支払えない(支払わない)こともあります。
その場合、被害者が加入している健康保険組合等に「第三者行為による傷病届」を提出することによって、被害者の健康保険を使って、窓口3割負担で治療を受けることが可能です。
[参考記事]
交通事故と健康保険|使えないは嘘?デメリットはある?
この記事では、「第三者行為による傷病届」とは何か、その書き方、健康保険を使って治療を受ける際に必要な書類、および手続方法などについて解説します。
1.「第三者行為による傷病届」とは?
被害者が加入している健康保険を使って交通事故の怪我の治療をするためには、健康保険組合等に「第三者行為による傷病届」等の書類を提出する必要があります。
「第三者」とは、法律的には「特定の案件・関係について、当事者ではないその他の関係者」のことを指します。
今回の「第三者行為による傷病届」は健康保険組合等に提出する書類です。
健康保険において、事業主や保険者(健保組合等)、被保険者や被扶養者は「当事者」、その健康保険に関係のない人は「第三者」となります。
健康保険に関係のない「第三者」によって健康を害された場合、「第三者行為により怪我をした(病気になった)」と言うのです。
つまり、自動車同士の事故で怪我をしたときは、交通事故の相手(加害者)が「第三者」となるため、「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。
これによって、健康保険組合は一旦被害者の医療費の7割を負担し、その後加害者側に医療費を請求(求償)できるようになります。
なお、通勤中や業務中の怪我の場合は健康保険ではなく労災保険を利用することになりますから、この届け出についても健康保険ではなく、労災に対する手続きとして行う必要があります。
健康保険を使用して治療を受けると、返還請求される場合があります。ご注意ください。
2.第三者行為による傷病届を出さないデメリット
交通事故による怪我の治療は自由診療によることが大原則です。もっとも、健康保険を使って交通事故の怪我の治療を行う場合、「第三者行為による傷病届」の提出することで健康保険の金額で治療をすることができます。つまり、この場合、「第三者行為による傷病届」の提出が必要になります。
明確な提出期限は設けられていません(提出前でも健康保険の利用は可能です)が、事故の後、できるだけ速やかに提出しましょう。
届け出をしないまま健康保険を利用していると、組合にもよりますが、立て替え分を被保険者に請求したり、健康保険からの給付を制限したりする可能性があります。つまり、届け出をしない場合は、最終的には原則通り自由診療分を支払うことになってしまうでしょう。
加害者に同意書への署名を拒否された場合
この後に詳しく説明をしますが、第三者行為による傷病届は、他にもいくつかの書類を添付して提出する必要があります。
その中には、加害者側の署名が必要な「誓約書(確約書・念書)」もあります。
この署名を加害者側に求めた時、署名を拒否されてしまうことがあります。
しかし、健康保険を利用するのに加害者側の同意が必要というわけはありません。
このような場合、「署名を拒否された」「連絡がつかなかった」などという理由を添えれば、誓約書がなくても問題なく申請できます。
交通事故後、相手方と過失割合や金額などについて交渉することになります。
示談を目指して交渉を行うわけですが、正式に示談をする前に「この金額で示談予定」という旨を健康保険組合等に事前に伝えましょう。
示談金額によっては、健康保険組合等が医療機関に支払った費用を加害者に請求できなくなる場合があるため、健康保険組合等で金額の確認をする必要があるのです。
3.第三者行為による傷病届の書き方
(1) ひな形・書き方
第三者行為による傷病届は、webサイトなどでひな形を入手できるところも増えてきています。
ここでは、全国健康保険協会のものをご紹介します(交通事故と、交通事故以外とでひな形が異なります)。
「不明な場合は記入不要」である箇所や、様々な書類を参考に「わかる範囲で記入」する箇所もあります。
記入例については以下のサイトにもありますので、参考にしてください。
参考:全国健康保険協会「第三者行為による傷病届」
(2) その他の提出書類
「第三者行為による傷病届」の提出ですが、実は、届け出にはこれ以外の様々な添付書類が必要です。
必要な書類やその名称は保険組合等によって異なる場合がありますが、以下のようなものです。
- 負傷原因報告書
負傷の原因について詳細を記載する書類です。日時や場所、何をしているときに負傷したかなどを細かく記入します。- 事故発生状況報告書
交通事故の場合、どのような状況で事故が起こったのかを図などで説明する書類です。- 同意書(念書)
負傷者(保険加入者)が署名する書類です。「自分が事故の相手方に有している損害賠償請求権を、保険者が保険給付の限度において取得することに同意する」という内容のものです。- 誓約書(確約書・念書)
加害者側が署名する書類です。「今後保険者から求償されたら過失割合の範囲において納付します」という内容のものです。
前述のとおり、相手によっては署名を拒否するかもしれませんが、その場合は「連絡がつかない」「署名がもらえなかった」などの理由を負傷者側で書くことになります。- 交通事故証明書(もしくは人身事故証明書入手不能理由書)
事故後に警察に届け出をしていれば、各都道府県の交通安全運転センターで発行してもらえます。ゆうちょ銀行やwebサイトでも手続き可能です。
なお、印鑑と健康保険証は必須です。多くの書類に捺印する必要がありますし、健康保険の記号番号等も記入することが多くあります。
わからないことがあったら、できるだけ早く健康保険組合等に相談しましょう。
4.まとめ
交通事故に遭ってしまうと、身体は当然のことながら、精神的にもいろいろと消耗してしまいます。
そんな中で相手と示談交渉をしなくてはならないとなると、被害者の方の負担は非常に大きくなってしまいます。
交通事故のあとにまず大切なのは、怪我の治療です。ご自身は怪我の回復に務めつつ、交通事故の示談交渉は弁護士へお任せいただく、というのがベストな選択でしょう。
交通事故の被害で困ったことがあれば、いつでも泉総合法律事務所ご連絡ください。交通事故の解決実績豊富な弁護士がお待ちしております。