自動車保険 [公開日]2018年7月25日[更新日]2018年9月14日

交通事故における労災保険の使い方〜損をしないために

交通事故における労災保険の使い方〜損をしないために

通勤途中や業務中の交通事故については、労災として認定されれば、労災保険による補償を受けることができます。

他方、交通事故による損害を補償するための保険としては、労災保険のほかに、健康保険、自賠責保険、任意保険などがあります。

今回は、通勤途中や業務中の交通事故において、労災保険を使うべきケース、実際に労災保険の補償を受ける際の具体的な手続の内容について解説します。

1.業務中の交通事故に健康保険は使えない

まず、業務中の交通事故に健康保険は使えないことに注意しましょう。

より正確に言えば、労災保険の適用できる交通事故について、健康保険を使用することはできません。

もし、間違えて健康保険を使えば、被害者自身により治療費を一旦立替した上、労災保険による給付を申請しなければならないこともあります。注意しましょう。

2.労災保険と自賠責保険の使用については自由に選択できる

次に、労災に当たる交通事故でも、自賠責保険は使用できます。

このとき、労災保険の使用と自賠責保険の使用は、被害者である労働者の自由な選択に委ねられます。

巷では、自賠責保険を優先しなければならないと認識している人もいるようですが、そんなことはありません。

もっとも、2つの保険により、重複した補償を受けることはできません。また、労災保険と自賠責保険では補償の対象・内容の重複しない部分がありますから、よりしっかりとした補償を受けるために両者を併用することもできます。

3.労災保険を使うべきケースとは

(1) 被害者の過失割合の大きい場合

労災保険では、被害者に過失のある場合でも過失相殺により補償額は減額されません。

他方、自賠責保険では、被害者に7割以上の過失のある場合には、過失相殺により補償額は減額されます。

したがって、被害者に7割以上の過失の認められる交通事故の場合には、労災保険を使うことにより、自賠責保険より多くの補償を受けることができます。

(2) 自賠責保険の使えない場合

自賠責保険は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)の賠償責任について適用される保険です。

そのため、たとえば盗難車による事故などの場合には運行供用者の責任は否定されるため自賠責保険を使うことはできません。

また、非常に稀ではあるものの、そもそも自賠責保険に加入していない自動車による事故の場合でも同様に自賠責保険は使えません。

このように自賠責保険を使用できない交通事故でも、労災である場合には、労災保険を使うことはできます。

4.労災保険を使う場合の手順

(1) 労災保険の各種の給付申請書を労基署に提出

労災保険金を受給するには、各種の給付に応じた申請書を労基署に提出します。

申請書の書式は、厚生労働省のホームページ上でのダウンロードあるいは最寄の労働基準監督署において入手できます。

厚生労働省 労災保険給付関係請求書等ダウンロード

申請書は、所定事項の記載と交通事故の具体的事実に関する会社の証明により完成します。

なお、申請書の作成・提出については、本来は、労働者である本人により行うべきものであるところ、会社が代行してくれることもありますから、労災保険の申請を希望する場合には、まずは会社の総務等の対応窓口に相談しましょう。

(2) 治療費の補償を受ける場合の手順

①労災指定病院において治療する場合

労災指定病院において治療する場合には、事前に作成した労災申請書を病院の窓口において提出します。これにより、申請書は労災指定病院を経由して、労働基準監督署に提出されます。

この場合、被害者は、病院において治療費の支払を行う必要はありません

②労災指定病院以外の病院において治療する場合

労災指定病院以外の病院において治療する場合には、一旦治療費は被害者の立替になり、申請書を直接労働基準監督署に提出することにより、負担した治療費を給付されます。

(3) 労災保険を使うことを相手の保険会社に連絡しておく

業務中の交通事故において、労災保険を使用する場合には、事前に相手方の任意保険会社に対して、その旨を伝えておきましょう。

任意保険会社としては、二重補償しないために、労災保険により補償された損害等について事前に把握する必要があるためです。

(4) 第三者行為災害届等の提出

交通事故による労災は、加害者つまり第三者の行為による労災であるため、健康保険同様、労災保険使用の際には、第三者行為災害届を提出しなければなりません。

また、第三者行為災害届に関連して、交通事故証明書を提出します。諸事情により交通事故証明書を入手できない場合には、代わりに交通事故発生届を提出します。

さらに、加害者(保険会社)との示談内容により、労災保険の受給との関係において不利益の生ずる可能性があるため、その点について了解の上、必ず示談前に報告するなどの念書を提出します。

5.労災保険による補償の内容

労災保険による補償の内容は、以下のとおりです。詳細は、厚生労働省のホームページ上の一覧表をご参照ください。

療養補償給付

療養補償給付とは、労災による傷病の治療に関する給付金です。必要な治療と認められる限り全額補償されます。

休業補償給付

休業補償給付とは、労災による傷病の治療のため会社を休んだことにより生じた給料の減少を補償する給付金です。特別支給金を含めれば給与額の80%を補償してもらうことができます。
なお、休業3日目までの補償は勤務先の負担により行われます。

障害補償給付

労災により後遺障害の残存した場合の後遺障害による損害を補償する給付金です。

障害補償年金

後遺障害1級~7級を認定された場合には障害補償年金を支給します。

障害補償一時金

他方、後遺障害8級~14級を認定された場合には障害補償一時金を支給します。

遺族補償給付

労災により死亡した場合の遺族に支給されます。

遺族補償年金

労働者の死亡当時、その収入により生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の遺族に対しては傷害補償年金を支給します。
各遺族の受給資格の要件と優先順位は以下のようになります。

  1. 60歳以上又は一定の障害の状態にある夫
  2. 18歳年度末までの間又は一定の障害の状態にある子
  3. 60歳以上又は一定の障害の状態にある父母
  4. 18歳年度末までの間又は一定の障害の状態にある孫
  5. 60歳以上又は一定の障害の状態にある祖父母
  6. 60歳以上、18歳年度末までの間又は一定の障害の状態にある兄弟姉妹
  7. 55歳以上60歳未満の夫
  8. 55歳以上60歳未満の父母
  9. 55歳以上60歳未満の祖父母
  10. 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

遺族補償一時金

遺族補償一時金の支給されるケースは以下の2つです。

第1に、遺族補償年金を受ける遺族のいない場合です。
第2に、遺族補償年金の受給権を途中で失い、他に遺族補償年金を受給する遺族のいない場合であり、かつ、既に支給された遺族補償年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合です。

葬祭料

労災により死亡した人の葬儀を行う場合に支給されます。

傷病補償年金

傷病補償年金は、労災による傷病について、治療開始から1年6ヶ月を経過した日または同日後において、症状固定を迎えておらず、その傷病による障害の程度につき傷病等級に該当する場合に支給されます。

介護補償給付

介護保障給付は、傷害補償年金または傷病補償年金を受給している者のうち、第1級・第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害の者であり、現に介護を受けている場合に支給されます。

6.会社が労災保険の申請に協力的でないときの対処方法

(1) 会社が労災申請書における証明を拒否した場合

先に説明したとおり、労災保険の申請手続については、会社の証明を必要とします。

ところが、保険料の増大、会社の責任追及の可能性などを危惧して、会社は労災に関する事実証明を拒否することがあります。そして、会社の証明のない申請書は原則受理されません。

しかし、そのような場合、被害者は、労働基準監督署に、会社から証明を受けることができない事情を説明の上、これを記載した書面を提出することにより、労災保険の申請書を受理してもらうことができます。

(2) 会社が労災保険未加入の場合

会社が労災保険未加入の場合は、労災保険は使えないのでしょうか。

そもそも、労使保険は、家族以外の労働者を雇用する会社は必ず加入しなければならない保険です。

これに違反した場合には会社は罰則を含めた様々な制裁を科せられる可能性があります。

とはいえ、会社が労災保険未加入であることは、労働者に落ち度のあることではありませんから、そのような場合でも、労災保険は使うことができます。

会社が労災保険未加入の事実を知られることを嫌がり協力してくれないときは、直接労基署に相談するようにしましょう。

7.まとめ

このように業務中の交通事故については、労災保険を使用することができ、被害者は、自賠責保険と労災保険の使用を自由に選択できます。

労災保険を使用する場合には、所定の申請書を作成して労基署に提出します。交通事故における労災保険の使用については、そもそも使用すべきか、を含めて非常に複雑な問題が絡みますから、悩んだら、一度、交通事故に精通した弁護士に相談しましょう。

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