交通事故の被害者になってしまった時にやるべきこと・基礎知識
交通事故は、誰しもが被害者になりえます。
ご自身がいくら気をつけていても、後ろから追突されたり、信号無視に巻き込まれたりして事故被害者となってしまうことがあるでしょう。
交通事故に関するニュースは日々多く報道されているため、交通事故に関してなんとなくのイメージを持っている方は多いでしょう。
しかし、具体的に事故後の処理はどうすれば良いのか、加害者側からどのような賠償を受けられるのか、意外と分からないことも多いのではないでしょうか。
このコラムでは、交通事故とは何か?交通事故の被害者になってしまった時に何をするべきなのか?を解説していきたいと思います。
1.交通事故の種類
交通事故は、着眼点に応じてさまざまに類型化されています。
種類によって事故後の手続きの進み方が違うほか、加害者側に請求できる賠償金の種類も変わってきますので、まずは自分が巻き込まれてしまった事故の類型を理解しましょう。
(1) 物損事故・人身事故
加害者への損害賠償請求権や保険の適応、刑事事件の処理を分ける重要な区分として、まずは「物損事故」と「人身事故」の区分が挙げられます。
物損事故は物(自動車や自転車などを含む)を毀損した場合の事故、人身事故はそれに加えて人に損害が生じた場合の事故のことです(人身事故の場合、通常は物損も伴うケースがほとんどです)。
物損事故であれば物の修理費または経済的価値の賠償など、人身事故であればこれに加えて治療費や慰謝料などが問題となります。
もっとも、被害者が怪我をした場合であっても、その怪我が外傷がなく軽微なものである場合、警察が人身事故として取り扱っていないことがあります。
その場合は、警察に診断書を提出の上、人身事故に切り替えてもらう必要があります。物損事故のままでは、治療費や慰謝料が満足に受け取れない可能性が高くなります。
[参考記事]
物損事故から人身事故への切り替え注意点!手続方法・期限など
さらに、物損事故と人身事故の差で大きいのは、捜査上の取り扱いです。
人身事故であれば、当事者立会の下、実況見分が行われます。その際に、当事者の進路やブレーキをかけた地点、接触した地点など事故状況に関して実況見分調書が作成されます。
これに対して、物損事故であれば、簡易な物件事故報告書が作成されるのみです。
実況見分調書は事故態様に争いがある場合(過失割合に争いがある場合)には、重要な証拠になります。
物損事故で届け出てしまった場合、後々事故態様について争いになりそうであれば、人身事故に切り替える必要があるといえます。
[参考記事]
交通事故の供述調書・実況見分書とは?裁判の証拠にもなる!
(2) 四輪車・二輪車・自転車・歩行者など
事故の類型には、事故の当事者ごとに分ける考え方もあります。
道路上の交通事故であれば、当事者になるのは、四輪車、二輪車、自転車、歩行者がほとんどです。
このような類型が有用なのは、過失割合の判断に有用だからです。
実務上、過失割合の判断は、『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号』を参照するケースが多いですが、同書では、四輪車対二輪車、四輪車対歩行者など、当事者ごとに過失割合を類型化しています。
よって、後の交渉の際のためにも、ご自身の自己の類型についてしっかり調べておきましょう。
なお、事故の加害者が自転車である場合は、自動車のときと異なり、任意保険に加入していないケースも多いので注意が必要です。
(3) 事故態様
衝突事故、追突事故、右直事故など、事故態様で交通事故を類型化する考え方もあります。この類型に関しても、過失割合の判断に有用になってきます。
もっとも、当然のことではありますが、個別の事故にはそれぞれ特徴があるため、類型にあてはめるだけでなく、個別具体的な判断も必要になってきます。
実際のところ、判例タイムズの図にぴったりとあてはまる事故ではないことも少なくなく、その場合は、保険会社との過失割合の交渉が必要になってきます。
(4) 交通事故の要因
次に、少し視点を変えて、事故の要因についてみていきます。
警察庁が公表した統計によると、交通事故の原因は以下のようなものが多いです。
安全不確認、脇見運転、動静不注視、漫然運転、運転操作不適、一時不停止、信号無視、最高速度違反
「前をよく見ていなかった」「ぼーっとしていた」などの原因は交通事故案件でよく耳にするところで、基本的な注意を怠ったことが原因であることがほとんどです。
交通事故は、誰しもが被害者になりうるだけでなく、自動車・自転車を運転するのであれば誰しもが加害者にもなりうるものなのです。
2.加害者の責任
次に、交通事故の被害者となってしまった場合、加害者にどのような請求ができるのかどうかを見ていきましょう。
(1) 民事責任
一般的に、故意または過失により、人の権利を侵害し損害を与えた場合は、民法709条の不法行為責任が生じ、加害者は被害者に対して生じた損害を賠償する責任を負います。
もっとも、民法709条の要件は、被害者が立証責任を負うため、ときにハードルが高いときがあります。
そこで、自動車損害賠償保障法は、立証責任を加害者側に転換しています。
すなわち、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」とした上で、加害者が同項但書の事由を証明したときに限って例外的に損害賠償責任を免れるとしているのです。
人身事故であれば、この自賠法を根拠として、比較的簡単に損害賠償請求をすることができます。
なお、自賠法の適用があるのは、「自動車の運行によって人の生命または身体が害された」ときのみなので、純粋な物損事故の場合や、加害者が自転車の場合には適用がないので注意が必要です。
そして、原則であれば、被害者は直接加害者に対して損害賠償をすることになるのですが、ここでもやはり加害者の資力に問題があるケースなどでは被害の回復が図られないおそれがあります。
そこで、運転者には自動車損害賠償責任保険(自賠責)への加入が義務付けられ、被害者の保護が図られているのです。
ただし、自賠責には限界もあるため、多くの運転者はさらに任意保険に加入し、事故の際はこの保険会社が被害者に対する賠償を本人に代わって行うことになります。
そのため、交通事故の場合は、被害者が加害者の加入する保険会社に対して損害賠償を求め、賠償金額について交渉をするという流れが一般的です。
(2) 刑事責任
上記の民事上の損害賠償責任とあわせて、加害者には刑事責任も生じます。
過失による事故によって人を死傷した場合は、過失運転致死傷罪の成立が問題となります。また、飲酒・薬物の影響により正常な運転の困難な状態での自動車の走行、信号を無視した高速度の自動車の走行など、一定の危険運転については、危険運転致死傷罪の成立が問題となります。
起訴されるか?起訴されたとして量刑がどうなるか?は、なかなか一概には言えませんが、事故の原因、注意義務違反の程度、事故の結果などは判断の中で当然に重視されます。
他方、物損事故の場合には、過失により器物を損壊した場合の罰則の規定がない(器物損壊罪は故意犯)ため、それだけでは刑事責任が生じません。民事の責任のみ負うことになるでしょう。
(3) 行政上の責任
上記とは別に、自己の加害者には行政上の責任も生じます。
加害者は、交通違反に応じて反則金を支払う義務が生じたり、免許停止・取消しなどの行政処分を受けたりすることになります。
なお、処分にあたっては点数制が採用されているため、交通違反に応じて点数が累積され、一定以上になると免許停止等の処分を受けることになります(もっとも、重大事故であれば、それだけで免許取消しになることもあります)。
3.まとめ|正当な賠償を受けたいなら弁護士へ相談
以上、交通事故の類型や責任について解説してきました。
しかし、交通事故には専門的な事柄が多く、保険会社との交渉も一筋縄でいくものではありません。
交通事故被害に遭われてお困りの方は、交通事故解決の実績が豊富な泉総合法律事務所の弁護士への相談をお勧めいたします。