交通事故弁護士 [公開日]2018年2月7日[更新日]2020年9月9日

物損事故において弁護士が介入するメリットはある?

交通事故の被害に遭ってしまっても、全くケガなどを負わないケースもあります。

不幸中の幸いといえますが、一方で自分が運転している車が壊れてしまった場合などには、加害者に対して、物損についての損害賠償請求を行うことになります。

交通事故の処理は弁護士に依頼することがお勧めですが、物損事故についても弁護士に処理を依頼すべきなのでしょうか?

この記事では、弁護士が相談者・依頼者の目線に立って、物損事故の場合に弁護士の介入が本当に必要なのかどうかについて解説します。

1.物損事故とは?

交通事故には、大きく分けて人身事故物損事故の2種類があります。

物損事故(正確には物件事故)は、人身事故に該当しない交通事故、つまり死亡やケガなどの人的損害が発生してしない交通事故のことをいいます。

たとえば、以下のようなケースが物損事故に該当します。

<物損事故の例>
・車同士の衝突事故に巻き込まれたものの、奇跡的にケガを負わなかったケース
・駐車中の車(運転者不在)に当て逃げをされたケース

なお、被害者自身が運転中などで交通事故の現場に居合わせたものの、奇跡的に怪我を負わなかったというケースでは、実は後から怪我をしていたことが判明することもあります。

その場合には、怪我の判明以前は物損事故として処理を進めていたとしても、判明以降は人身を含めて保険金請求などを進めていくことになります。以下は特段の説明が無い限り、怪我を負わなかったケースを物損事故として記載いたします。

[参考記事]

物損事故から人身事故への切り替え注意点!手続方法・期限など

物損事故の場合、加害者や加害者側の任意保険会社に対して支払いを請求可能な損害項目は、以下のような所有している車などに関する物的損害に限定されます。

  • 車の修理費(全損の場合は市場価格)
  • 代車の使用料
  • 交通事故で破損
  • 休車損害(タクシーやバスなどの営業車について発生)
  • 車の評価損
  • 積み荷の破損についての損害

2.物損事故と人身事故の違い

物損事故は、死亡やケガなどの人的な被害が生じていないという意味で、人身事故に比べると深刻度の低い交通事故といえるでしょう。

人身事故の場合と比較して、物損事故は具体的にどのような点が異なるかについて解説します。

(1) 慰謝料・逸失利益の補償が認められない

物損事故については、人身事故のケースで認められる可能性がある「慰謝料」と「逸失利益」の補償が認められません。

物損事故の場合、壊れた物の価値相当額などについての金銭的な補償が行われさえすれば、所有者が被った精神的な損害についても治癒されると考えられています。
そのため、物理的な損害の補填に加えて、別途慰謝料が認められることはほとんどありません

また、逸失利益は死亡や後遺障害によって被害者が労働能力を喪失したケースで問題となる損害ですが、物損事故は労働能力の喪失とは関係がありません。

慰謝料と逸失利益は、交通事故のケースにおける損害賠償に関して高額になりやすい損害項目ですが、物損事故ではこれらが認められないという点に注意する必要があります。

(2) 自賠責保険の保険金支払いの対象にならない

物損事故のケースでは、被害者に生じた損害は、自賠責保険からの保険金支払いの対象になりません。

自賠責保険によって保障されるのは、①傷害による損害、②後遺障害による損害、③死亡による損害の3種類と、いずれも人損に対するものであり、物損については保障範囲に含まれていないためです。

自賠責保険によっては損害が補填されないとすれば、被害者は加害者が加入している任意保険の保険会社に対して、物損による損害の保障を請求することになります。

また、もし加害者が任意保険に加入していない場合には、損害の補填を受けるためには、加害者に対して直接損害賠償を請求することが必要です。

(3) 加害者は原則として刑事処分・行政処分の対象にならない

物損事故では、被害者に死亡やケガなどの人的な損害が生じていません。

物損のみのケースにおいては、加害者を過失犯として処罰する規定は、刑法その他の法令において存在しません。

なお、器物損壊罪(刑法261条)は故意がある場合のみ適用されるので、加害者が過失により物損事故を犯したケースでは適用対象外です。

そのため、(被害者が事故車両に乗っていたケースで、加害者が故意的に被害者に対して危害を加えるような危険な運転をしたような場合、事故を起こして逃げてしまった当て逃げ事案等、例外的な場合は別として)加害者が刑事処分を受けることは基本的にありません。

また物損事故では、加害者は免許の減点や免許取り消しなどの行政処分の対象にもならないという特徴があります。

3.物損事故について弁護士に介入を依頼するメリットは?

物損事故は、人身事故より軽い事故であるという特徴がありますが、物損事故の場合でも弁護士に介入を依頼するメリットはあるのでしょうか。

(1) 費用倒れに終わる可能性が高い

結論からいえば、物損事故の場合、つまり人的被害が生じていない事故の場合については、弁護士に依頼するメリットは全くないか小さいといえるでしょう。

物損事故を弁護士に依頼する場合にもっとも大きな懸念点となるのが、いわゆる「費用倒れ」の問題です。

物損事故のケースで被害者の損害として認められるのは、壊れた車の修理費や価値相当額など、「物が壊れたことについての損害」に限られます。
そのため、被害者が加害者側に対して請求できる金銭は、比較的低額になることが多いです。

人身事故のケースでは、慰謝料逸失利益などとの関係で、被害者が受け取ることができる保険金や損害賠償の金額が高額になる可能性があります。特に慰謝料については、弁護士が交渉した場合にのみ利用できる弁護士基準にて交渉することになりますので、個人の方が任意保険会社と折衝するよりも慰謝料が増額するメリットがあります。

また、弁護士に依頼するかどうかによって、示談交渉の際に加害者側の任意保険会社の交渉姿勢が変化するという傾向も認められます。

このような事情から、人身事故のケースでは、弁護士に依頼をして適切な請求を行うことが被害者にとって重要といえるでしょう。

一方で物損事故の場合は、加害者側から得られる利益が全くないか少ないといえます。基本的に、物損の大部分を占める車の修理費用・時価額については、争う余地が極めて少ないからです。

一方で、弁護士費用についても数十万円程度が見込まれます。

したがって、トータルで考えると、加害者側から得られる金銭よりも弁護士費用の方が高額になってしまうこともしばしばです。

また、物損のみのケースでは、基本的には被害者が支出した実費のみが損害補填の対象になります。
そのため、弁護士に依頼をしたからといって、加害者側から支払われる保険金や損害賠償が大きく増額されることもあまり期待できません。

さらにいえば、物損の交渉については、個人の方が行うと比較的迅速に解決できる場合が多いのですが、これまで個人―任意保険会社間で行っていたことが、間に弁護士が介入することで、解決までの時間が多くかかってしまうことも頻繁にあります。資料などを確認する必要が出てくるという側面もあります。

以上のことから、物損事故のケースでは弁護士に依頼するメリットは極めて小さいでしょう。

(2) 物損事故の取扱いがない弁護士事務所も多い

上記のように、物損事故の場合には弁護士に依頼するメリットが少ないことから、物損のみのケースについては取り扱っていない弁護士事務所も多いところです。

当事務所も、物損のみの交通事故についてはご依頼を受けておらず、死亡や怪我などの人的損害が伴う可能性のあるケースに限って対応しております。

今回のコラムでは物損事故を物損のみ生じた事故として記載していますが、たとえば、交通事故で怪我をして病院に通っているけれど、物損事故から警察署の切り替え手続きをしていないだけであるという場合には、問題なくご対応可能です。

4.物損事故のように思えても弁護士に相談をした方が良いケース

物損事故を弁護士に依頼するメリットが小さいとしても、思いがけず交通事故に遭遇したケースでは、被害者はどのように対処したら良いかわからない場合も多いでしょう。

一見して物損事故のように思えるケースでも、交通事故に遭ってしまったという混乱の中で、何か大事なことを見落としてしまっているかもしれません。

特に、以下に挙げるようなケースでは、弁護士が被害者をサポートできる可能性がありますので、ぜひ無料相談をご利用の上、当事務所の弁護士までご相談ください。

(1) 事故から時間が経ってから身体に痛みが生じた場合

交通事故の直後にはケガをしたという自覚がなくても、数日後等、時間が経ってから身体に痛みが発生するようなケースもあります。

このような場合には、もはや物損事故ではなく人身事故という取り扱いになります。診断書をもって警察で切り替え作業を行うこともできます。

警察で事件を切り替えるか否かはともかく、まずは速やかに医師のところで診察を受けてください。初診が遅くなると、基本的に事故から生じたケガの治療と認められず、賠償請求できなくなる恐れがあります。

人身事故のケースでは、治療完了後に後遺障害が残るケースもあり、その場合は高額な慰謝料や逸失利益の支払いを受けることが可能です。

慰謝料や逸失利益については、前述の通り、弁護士を伴って加害者側の任意保険会社と示談交渉を行うことによって、被害者自身で示談交渉を行うケースよりも保険金が大きく増額される可能性もあります。

そのため、交通事故から時間が経ってから身体に痛みなどが生じた場合には、すぐに医師のところに行き、診察を受けたうえで、当事務所の弁護士までご相談ください。

[参考記事]

追突事故であとから頭痛・むち打ち等の痛みが出た場合の対処法

(2) 弁護士特約に加入している場合

被害者自身が加入している自動車保険や、火災保険、クレジットカードなどにおいて「弁護士特約(弁護士費用特約)」を附帯させている場合、弁護士費用を特約による保険金から支払ってもらうことができます。

この場合には、弁護士費用の支払いによって費用倒れに終わってしまうリスクがなくなるため、物損事故を取り扱う弁護士に依頼して加害者側に対する請求をサポートしてもらうことも有効でしょう。なお、当事務所では、物損部分のみの案件については、お受けしておりません。

[参考記事]

弁護士費用特約とは?|誰が、いつ、どんなことを補償されるか

5.まとめ

物損事故とは、死亡やケガなどの人的損害が発生していない、物損のみの交通事故をいいます。

物損事故のケースでは、慰謝料や逸失利益といった高額になりやすい損害項目が認められないため、加害者側に対して請求可能な保険金や損害賠償の金額は低額になりがちです。しかも、物損については、増額できないリスクがかなり高いです。

物損事故を弁護士に依頼する場合、数十万円の弁護士費用がかかることを考えると、時間がかかったうえで費用倒れに終わってしまう懸念があります。

ただし、後から体に痛みが発生した場合には、人身事故に切り替えることで高額の損害補填を得られる可能性がありますので、すぐに弁護士に相談しましょう。弁護士を入れて人損の交渉をした場合、慰謝料については弁護士基準を利用可能ですので、人損については増額メリットがあります。

泉総合法律事務所では、人身事故に巻き込まれてしまいお悩みの方を広くサポートしておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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