無職者・フリーターの逸失利益の算出方法について
交通事故に巻き込まれて怪我をしてしまい、後遺症が残ってしまった方は、「逸失利益」について損害賠償を受けることができる可能性があります。
逸失利益とは、交通事故で怪我や死亡などがなければ、就労することにより将来得られたはずの利益や収入のことをいいます。
では、具体的な収入のない高齢者・子供や無職の人、働いていても比較的収入が少なく安定しないフリーターなどが事故に遭ってしまった場合、逸失利益の補償はどうなるのでしょうか?
この記事では、無職者とフリーターの逸失利益について説明していきます。
1.無職者の逸失利益
逸失利益は、「事故がなければ就労して得られたはずの収入」ですので、事故当時に無職であっても、将来働き収入を得る可能性があれば認めてもらうことができるというのが原則です。
具体的には、被害者に労働能力+労働意欲+就労の蓋然性があれば、無職であっても逸失利益を請求可能ということになります。
(1) 無職者の基礎収入額の考え方
逸失利益の計算は、基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数という算式で求めることになります。
[参考記事]
後遺障害・死亡事故の逸失利益の計算例|もらえない原因を解説
「基礎収入」ですが、これは交通事故がなければ得られたはずの収入になります。
では、収入がない無職者の場合、どういった計算で基礎収入額が決められることになるでしょうか。
被害者が一度も就労したことがない場合、たとえば未成年の学生や専業主婦などは、厚生労働省が毎年発表している統計データである賃金センサス(男女別平均賃金)が基礎収入額の基準となります。
さらに、収入が低い30歳未満の若年労働者については、実際の収入ではなく賃金センサスから年間収入を計算します*。
一方、「就労経験はあるけれど、事故の当時は無職だった」という場合は、基礎収入額は以前の収入の額になります。
転職の場合、(キャリアチェンジなど未経験職種に応募する場合を除き)通常は従前の年俸を基準にして転職先を考えることでしょう。よって、将来就職する場合は以前の収入は得ることができるだろう、という推測が成り立つのです。
なお、無職者の方の失業前の収入が平均賃金より低い場合、さまざまな要素を考慮した上でその被害者が将来的に平均賃金を稼ぐ蓋然性が高いかどうかによって算定が異なります。
失業期間が短かったり、ある程度継続して働いてたりする場合など蓋然性が高い場合、平均賃金から年間収入を計算するケースもあります。
一方、蓋然性が低いと判断されると、実際の失業前の収入が基準とされます。
「転職活動中に交通事故に遭ったが、以前の収入より好条件で話が進んでいた」などの個別具体的な事情があれば、オファー金額が加味されるケースもあります。
*これは、学生と取り扱いをわけるのは不公平だからという理由になります。例えば、家庭環境や経済的事情で大学に進まず就労を選んだ若者が、進学した同世代の学生よりも低く逸失利益を認定されるのは不公平にあたるため、学生と同様の基礎収入を認めようという考え方です。
二十代の若者であれば、いまはまだ収入が低くてもこれからの努力で収入の伸びしろは十分期待できたとも考えられますので、少なくとも平均賃金は認定しよう、ということであるともいえます。
(2) 高齢で仕事をしていない場合の逸失利益
前述しましたように、無職者の逸失利益は労働能力+労働意欲+就労の蓋然性があることを条件として逸失利益が認められます。
そして、高齢者の場合もこの条件を満たしているかどうかは要確認と言えます。
例えば、定年退職後に一度も再就職することなく暮らしていた被害者や、かなりの高齢者で就労の蓋然性がない場合、既往症があり事故がなくても就労は難しいような体調だった場合は、残念ながら逸失利益が認められないこともあります。
(多くの求人には年齢制限がありますので、専門職や特殊能力がある方を除くと、年齢によっては就労の蓋然性がないと判断されていまいます。)
また、年金のみ、または株式や不動産などから得られる不労所得のみからの収入で生計を立てていた方については、これらの収入は就労によって得られる収入ではなく交通事故の怪我による逸失利益には関係がないという判断となりますので、逸失利益についての賠償が受けられない可能性があります。
2.フリーターの逸失利益
フリーターの逸失利益は、被害者の状況によって異なります。
例えば、転職の境目でたまたまフリーターで繋いでいた期間に事故に遭った、というような場合は、就労すれば平均賃金を稼ぐことができると考えられるので、逸失利益も前述の賃金センサスを基準に算定されます。
逆に、大学卒業後一度も就労せず、親元で遊びながら最低限の収入を得るためにフリーターをしていた、というような場合だと、なかなかそのようには認定してもらうことができません。
この場合は、アルバイトなどの低い賃金での逸失利益認定にもなってしまうので、なかなか厳しい結果になってしまいます。
とはいえ、長引く日本の不況で、就労意欲はあっても正規雇用の機会に恵まれないという方も多くいらっしゃいます。こういった方の場合は、低い賃金認定にならないよう示談交渉からきちんと作戦を立てて臨む必要があります。
なお、逸失利益を含む損害賠償金額の認定は、示談交渉での合意に至らなければ、最終的には裁判において裁判官により判断されます。
この場合、具体的な状況や被害者の個性を見て、裁判官が、「この被害者は、現在はたまたま収入が少ないだけで、いずれは平均的な同世代の人と同程度稼ぐポテンシャルがあるな」と判断してもらえるかどうか、ということが重要なります。
3.逸失利益の算定方法について
逸失利益の算出
[基礎収入]×[ライプニッツ係数]×[労働能力喪失率]
(1) ライプニッツ係数
上記の通り、基礎収入は交通事故による後遺症がなければ得られたはずの収入となりますが、実際の賠償支払いではこれを満額支払ってもらえるわけではなく、ライプニッツ係数という指数をかけた調整がなされます。
ライプニッツ係数とは、ドイツの数学者であるライプニッツの名前にちなんで名付けられた数字で、年利5パーセントの中間利息控除です。
逸失利益は、実際には長期間にわたって生じていくことになります。しかし、損害賠償金はそれを事故後に前倒しで被害者に支払うというものになります。
前倒しでお金が支払われるということは、利息分が余分に被害者に払われているということであるともいえますので、利息分を賠償額から控除する趣旨で、ライプニッツ係数をかけて損害額を算出します。
(2) 労働能力喪失率
交通事故で後遺障害慰謝料の対象になるためには、自賠責事務所から後遺障害等級認定を受ける必要があります。
後遺障害等級は1級から14級まであり、番号が若いほど後遺症が重篤であり、逸失利益も大きいと判断されます。
この等級ごとに労働労力喪失率という数値が定められており、交通事故前の労働能力を100として分母にし、交通事故で失われた労働能力を分子として設定します。
例えば、最も重い1級は自力で生活ができない要介護状態について認定されますが、この場合の労働能力喪失率は100/100となります。
要介護であれば就労ができないので、完全に労働能力を失ったという認定となるわけです。
上記算式により1年間の逸失利益が求められますが、これは基本的には症状固定から67歳までの期間について認められます(=労働能力喪失期間)。
4.まとめ
ひとくちに無職・フリーターの方といっても、年齢や状況によって認められる基礎収入がかなり違うことをご理解いただければ幸いです。
正当な基礎収入を認めてもらうためには、交通事故分野に強い弁護士に依頼することが有効な手段のひとつです。
逸失利益を請求する場合、弁護士にご相談いただければ、できるだけ被害者の方のご希望に添える形で解決できるように交渉します。
泉総合法律事務所にご相談いただければ、交通事故に特化した弁護士が情報を徹底的に収集し交渉にあたります。
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