逸失利益 [公開日]2018年6月21日[更新日]2018年9月14日

子どもにも逸失利益は存在するのか?|正当な慰謝料の計算方法

子どもにも逸失利益は存在するのか?|正当な慰謝料の計算方法

子どもが交通事故に遭いけがをすると、その苦痛に耐えることだけでも大変なことでしょう。まして後遺障害が残った場合には、将来への不安がご家族にも重くのしかかります。

子どもの将来の生活のために適正な補償を受けるには、「逸失利益」を賠償請求することが必要です。

逸失利益とは交通事故に遭わなければ得られたはずの利益や収入のことで、示談交渉でも争点になりやすい補償の一つです。

今回は、幼児や小・中学生などの子どもが事故に遭ってしまった場合の逸失利益を請求する方法と注意点についてご説明します。

1.子どもの逸失利益とは?

(1) 逸失利益は損害

交通事故による後遺障害が残った場合、損害賠償として慰謝料のほかに、後遺障害逸失利益を相手方に請求することができます。

逸失利益」とは、交通事故による後遺障害を負ったことで失われた収入や利益のことです。

後遺障害によって、仕事に就くことができない、あるいは就業できる職種や業務が制限されてしまうなどのハンディキャップを負い、収入の一部または全部が減額されてしまうことへの補償です。

(2) 子どもの逸失利益も趣旨は大人と同じ

本来大人であれば逸失利益は事故前の収入をもとに後遺障害の程度に応じて計算されます。

一般的に人が働ける年齢の上限を67歳と仮定し事故(症状固定)時からの年数と後遺障害の程度に応じて損失がはじき出されるのです。

しかし、将来のことですから確実な収入額を計算できるはずはありません。

あくまでも将来的な仮説に立って損失を前払いしてもらうという考え方ですから、これは被害者が子どもであっても同じことなのです。

2.逸失利益の計算方法

(1) 大人の逸失利益計算方法

通常、逸失利益は下記の計算式に基づいて算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間によるライプニッツ係数

  • 基礎収入…事故前の現実の収入額のことです。
  • 労働能力喪失率…行為障害のために将来の労働能力がどのくらい低下したかをパーセントで示したもので、後遺障害等級に応じた比率が定められています。
  • 労働能力喪失期間…労働可能上限年齢を67歳とし、症状固定時年齢から67歳までの期間を指します。
  • ライプニッツ係数…将来の長期的損害がまとめて支払われるため、労働能力喪失期間分の利息を差し引く必要があります。その調整のための中間利息控除係数です。

(2) 子どもの逸失利益の計算方法

被害者が子どもの場合に問題になるのが基礎収入と労働能力喪失期間です。

原則として、18歳未満の子どもは修正された計算式を用いることになります。

18歳未満の逸失利益=賃金センサスの平均賃金×労働能力喪失率×(67歳までの係数―18歳までの係数)

  • 基礎収入額は賃金センサス(※1)の平均賃金額とします。
  • 労働能力喪失期間は67歳から18歳を引いた49年間とします。
  • ライプニッツ係数は、以下の差を係数として用います。
    「症状固定時の年齢から67歳までの係数」-「症状固定時の年齢から18歳までの係数」

(※1)賃金センサスとは、厚生労働省が毎年公表している賃金構造基本統計調査という統計を基にした平均賃金のことです。

3.子どもの逸失利益の修正

(1) 子どもの基礎収入

収入のない子どもの基礎収入は、賃金センサスの平均賃金を用いて決められます。

子どもの場合、将来の職業を予測することは困難なため、学歴、企業規模などすべての項目の平均値が用いられます。賃金センサスの平均賃金は毎年更新され、年々上昇しています。

(2) 男女間に基礎収入格差あり

①賃金センサス男女別平均賃金

賃金センサスでは男女で平均賃金が異なっており、女子の方が低く設定されています。

よって、全年齢平均賃金を用いた場合に女子は男子よりもかなり低い額で逸失利益が算定されることになります。

平成29年賃金センサス年収額によると、全年齢男女の平均額が491万1500円に対し、男性は551万7,400円、女性は377万8,200円です。男女間で170万円以上もの年収格差があるため、結果、逸失利益に大きな開きが出ることになります。

②司法判断に見る男女間格差

最高裁は、事故時14歳女子の「将来の得べかりし利益(逸失利益)の算定に当たっては(中略)賃金センサスに示されている男女間の平均賃金の格差は現実の労働市場における実態を反映していると解される」(最高裁昭和62年1月19日交民集20巻1号1頁)と述べ、格差を容認しています。

ただその一方で、性差による格差という不公平さを是正しようとする向きもあります。

東京高裁平成13年8月20日判決は、女子年少者(11歳)の逸失利益の算定について、高裁判決として初めて全労働者平均賃金を基礎収入としました(判時1757号38頁)。

現在の裁判例では、男女格差が生ずることはやむを得ないとする見解がある一方で、幼い子どもの損害賠償という価値判断の問題に男女差が生ずるのは不当だとする見解も増えつつあります。

そのなかで、年少者の逸失利益の男女間格差をなくしていくことは、誰もが平等な権利と人格を持つ社会の実現につながる判断であるはずです。

(3) 地域格差の解消

①過去の地域格差

裁判例でもこれまで、年少者の逸失利益について様々な算定方式がとられてきたため訴え出る裁判所によって金額が大きく異なる事態を招いてきました。以下が過去の2大算定方式です。

  • 賃金センサスの全年齢平均賃金を基礎として、ライプニッツ係数で中間利息を控除する方式(東京方式)
  • 賃金センサスの18歳ないし19歳の平均賃金(初任給固定賃金)を基礎として、ホフマン係数(※2)で中間利息を控除する方式(大阪方式)

(※2)ライプニッツ係数は複利計算ですが、ホフマン係数は単利計算です。複利計算では、得た利息を含めて次の年の利息が計算される為、最終的に単利計算よりも大きな金利が付き逸失利益にも差が生じます。

②三庁共同提言による格差是正

主流となっていた2方式の差異を縮めるため、「三庁共同提言」(※3)が発表され、地域格差のない一貫性ある逸失利益の計算を目指しています。

共同提言の骨子は、幼児、生徒、学生の逸失利益の算定において原則、全年齢平均賃金又は学歴平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合に基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金を基本とするというものです。

また、中間利息控除はライプニッツ係数を用いることにしています。

(※3)「三庁共同提言」は、交通事故による逸失利益の算定において最も重要な「基礎収入の認定」と「中間利息の控除」の方法について東京・大阪・名古屋各地裁の民事交通部が同一方式を採用すると合意したものです。
全国の地方裁判所における逸失利益の算定は、現在この「共同提言」の内容に沿って行われています。

4.子どもの労働能力喪失期間

(1) 子どもの就労可能年数

子どもの働ける年数については、18歳から67歳までの49年を原則としています。

中・高生のなかにはアルバイトをしている場合もあるでしょうが、18歳以下の就労可能年数については18歳から働くという前提になっているのです。

また、後遺障害の残る年数についても、障害が治る見込みがないことが後遺障害である以上、常識的に考えて49年とすべきと考えられています。

(2) 子どもの労働能力喪失期間

後遺障害が残る期間(労働能力喪失期間)については、そもそも後遺障害は治らないことが前提ですから、通常は一生涯として考えられ、高校を卒業する18歳から67歳までとなります。

この場合のライプニッツ係数の算出は、「67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数」で求められます。

例えば事故時10歳の子どもの場合、10歳から67歳までの57年間のライプニッツ係数は18.7605、10歳から18歳までの8年間のライブニッツ係数は6.4632です。

18歳未満の逸失利益の計算には、(67歳までの係数)18.7605―(18歳までの係数)6.4632=12.2973を用いることになります。

ただし、比較的軽度で一定期間経過すれば機能回復が見込まれる場合は、労働能力喪失期間を制限されるケースがあるため注意が必要です。

5.その他の算定要件

(1) 生活費の控除

後遺障害による逸失利益の場合、死亡逸失利益とは異なり原則、生活費の控除はされません。

後遺障害を負った被害者は事故後も生活費を支出し続けるため損益相殺としての生活費を控除する必要がないからです。

ただし、交通事故による「遷延性意識障害」になると、相手の保険会社から「生活費控除」を主張されることがあります。

(2) 生活費控除の背景

遷延性意識障害とは「植物状態」のことです。後遺障害1級が認められますので、労働能力喪失率は100%で後遺障害逸失利益を請求することができます。

しかし、被害者が植物状態になって回復する見込みがないケースでは、逸失利益算定の際に生活費控除をすべきだとする見解があるのです。

生活費控除とは、被害者の生活費がかからなくなった分、逸失利益を減額するという考え方ですから、植物状態では健常者などの生活と同等の費用はかからないという理由を掲げています。

(3) 裁判例

裁判例のなかには生活費控除を認めるものと認めないものがあります。生活費控除を認めた裁判例での生活費控除率は20%~30%程度です。

裁判例のなかには、「生活費は、必ずしも労働能力の再生産費用だけを内容とするものではない」とし、遷延性意識障害の被害者が「今後も生命維持のための生活費の支出を要することは明らかである」(東京地裁平成10年3月19日判決)と判断するものもあります。

遷延性意識障害の被害者にも生活費はかかります。現在の裁判例の傾向としては、生活費を控除しないものが増えてきていますので、保険会社が生活費控除を主張してきても言いなりにならないことが肝要です。

6.まとめ

交通事故による逸失利益は、将来の収入が減ることへの損害です。被害者が幼児や小さな子どもであっても同様ですから、損害賠償請求することができます。

ただし、年少者の男女間であっても異なった基礎収入をそのまま採用する裁判例がいまだ存在しています。

男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法を掲げ、男女平等を謳う現代社会では、誰もが平等に扱われる社会を目指すという共通認識の下で損害が補償されるべきでしょう。

逸失利益を請求する場合には、弁護士にご相談ください。ご家族が安心できるように、できるだけ被害者に有利になる交渉をいたします。

泉総合法律事務所にご相談いただければ、交通事故に特化した弁護士が情報を徹底的に収集、分析し、交渉にあたります。

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