交通事故で幼い子供が重傷を負った場合に家族がするべきこと

幼いお子さんが交通事故で重傷を負ってしまった場合、心痛しないご家族はいらっしゃらないでしょう。
しかし、お子さんの将来を考える上で気を付けなければならないのは、目の前の怪我の治療のことだけではありません。日々の過ごし方についても気を付けるべき点があります。
また、治療を安心して進める上でも、事故の賠償費用や慰謝料請求が重要になりますが、それらの充実を図る上でも、気を付けるべき点があります。
今回は、子どもの交通事故にまつわる基本的な知識と、お子さんのためにご家族がなすべきことを、この記事で確認していただければ幸いです。
【この記事を読んでわかる事】
- 事故の後遺症にはPTSDなどの精神的なものも含まれること
- 通院させることの重要性と理由
- 事故の態様をご家族が把握しておくことの重要性
1.交通事故による後遺障害
(1) 後遺障害とは
交通事故で受けた将来回復が見込めない精神的・肉体的な後遺症のことを指します。
後遺障害の内容と程度に応じて14段階の等級に分類され、等級に応じて後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という損害賠償請求が認められます。
(2) 後遺障害の内容
後遺障害の症状には、植物状態となってしまったもの、失明したもの、腕や足を失ったものなどのように客観的に明確に判断できるものが多いですが、それらばかりではありません。
(3) 後遺障害認定されるPTSDとは?
命に危険が及ぶ重大な傷害を受けたときには、その後、精神的に正常でない反応を示す場合があります。PTSD(Post Traumatic Stress Disorder 、「心的外傷後ストレス障害」)です。
症状は多様ですが、主に次のようなものです。
【PTSDの症状例】
- 持続する抑うつ状態(悲しい、寂しい、憂鬱、楽しくないなど)
- 不安感、恐怖感が継続する
- 意欲の低下、無関心、自発性、積極性の欠如など
- 幻覚や妄想
- 記憶力や知力の低下
- 衝動的な行動をする、落ち着きがなくなる
(「後遺障害等級認定と裁判実務」弁護士高橋真人編著、新日本法規発行164頁以下)
PTSDは、その程度に応じて後遺障害認定において9級、12級、14級と評価されますが、認定で問題となるのは、被害者の症状と交通事故との因果関係を認めることができるかという点です。
裁判実務では、症状の内容にもよりますが、①事故後まもなくの時期から症状が連続していること、②(交通事故以外に)他の有力な発症原因が存在しないことが、因果関係の判定における注目点であると報告されています(前出「後遺障害等級認定と裁判実務」175頁)。
(4) ご家族が気を付けるべきこと
PTSDのような、日ごろの態度、性格、日常行動の変化は、生活を共にする家族でなければ気づくことができません。
身体の傷が治癒したとしても、その後、お子さんに事故前と違った行動(気力がない、不安がる、落ち着きがないなど)が生じたときは、事故によるPTSDを疑い、継続的に医師の診察を受けることが大切です。
(5) 子どもの後遺障害と逸失利益
後遺障害逸失利益とは、交通事故による後遺障害がなければ得られたであろう利益を金銭的に評価したものです。後遺障害の等級に応じ、働いて稼ぐ力(労働能力)が失われたと評価し、その分、将来的に手に入ったはずの金銭が手に入らなくなったと認めて、賠償を求めることができます。
子どもの場合でも18歳から67歳までの49年間について、平均賃金を元に逸失利益を算定するのが基本です。
後遺障害の認定においては、医師の診断書が重要です。現に生じている障害と事故との因果関係を、診断書によって証明する必要があります。
そのためにも、病院にしっかりと通院するとともに、診断書の作成にも気を配らなければなりません。
2.子どもの慰謝料
お子さんが負ったケガについては、加害者に対して慰謝料請求が可能です。慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2種類があります。
(1) 入通院慰謝料
① 入院慰謝料とは?
入通院慰謝料は、ケガに対する肉体的苦痛だけでなく、治療・検査のための入院・通院によって費やした時間や手間、不便さなどに対する精神的苦痛に対する慰謝料です。
そのため、入通院慰謝料とも呼ばれます。
【参考】交通事故被害で請求できる慰謝料の種類とは?
② 子どもの入通院慰謝料
心情的には、小さな子どもが入通院や手術の苦痛を受けることは、大人よりも可哀想であり、慰謝料を増額してあげたいとも思います。
しかし、入通院慰謝料の算定方法は大人と同じであり、子どもであることは慰謝料を増額する要素とは理解されていません。むしろ、子どもは回復力が高く、治癒が早いので入通院期間が大人よりも短く、期間を基準とする入通院慰謝料が安くなる傾向があるようです。
また、回復がすすむにしたがい、通学や友人と遊ぶことを優先して、通院がおざなりになるケースも珍しくありません。
しかし、通院期間は、入通院慰謝料の算定に反映しますし、何よりもしっかりとケガを治すことが子どものためです。症状が無くなるまでしっかりと治療を受けさせることが適正な慰謝料請求にも繋がります。そのため、通院はしっかりさせることが重要です。
(2) 後遺障害慰謝料
① 後遺障害慰謝料とは?
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまったことに対する慰謝料です。後遺障害等級に応じた金額が支払われます。
② 子どもであることが増額理由となるか
大人よりも子どものほうが事故後の将来が長く、後遺症等から受ける影響が大きいため、子どもの後遺障害慰謝料は大人の場合よりも増額するべきではないかという議論があります。
たしかに、後遺症で苦しむ年数は、子どものほうが長いです。しかし、年数を慰謝料額に反映させてしまうと、5歳の子どもと15歳の子どもの後遺障害慰謝料に10年分の差をつけるべきかという問題も生じるため、若年者に対して後遺障害慰謝料を増額するという扱いはされていません。
一方で、余命の長い子どもの場合、後遺障害逸失利益の金額が非常に多くなります。実務的な感覚では、それでカバーできていると見ているのかも知れません。
3.子どもの過失相殺
(1) 過失割合、過失相殺とは
過失割合とは、交通事故の損害を当事者が負担する割合です。
被害者にも何らかの過失があるときは、被害者が受け取る賠償額を減額することが公平です。
裁判官は、被害者の過失を考慮して損害賠償額を定めます。これが過失相殺です。
(2) 過失相殺能力
子どもが交通事故に遭った場合、それが2歳や3歳の幼児であれば、たとえ道路に突然に飛び出したケースであっても、被害者の過失だから相殺するとは言えません。
そのような幼児には、物事を判断する能力がなく、過失相殺を認めることはかえって不公平だからです。
逆に、被害者に事理弁識能力、つまり物事の道理をわきまえる程度の判断能力があれば、過失相殺が問題となります。
具体的には、5歳、6歳程度のお子さんになると、事理弁識能力が裁判上認められることが多くなり、過失相殺の問題となる可能性が出てきます。
(3) 過失相殺問題に関して、ご家族が出来ること
大人であれば、どういう事故だったかについて自分の言葉で説明することも出来ますが、小さいお子さんなどでは、それはかなり難しいことになります。大きな怪我をするようなショッキングな事故であれば、なおさらです。
そのため、過失相殺などの問題になりそうな場合、お子さんに代わってご家族が事故の態様を代弁できるように、状況をしっかり把握しておくことが大切です。
4.心配なことがあれば泉総合法律事務所に連絡を
色々と注意すべき点を記載しましたが、「具体的にどうすれば?」といったところで、気になることもあるかと思います。現実にこうした問題に直面し、お悩みのことがあれば、交通事故対応の専門家である弁護士に相談しましょう。
泉総合法律事務所にご相談いただければ、交通事故について経験と実績の豊富な弁護士がご相談者様の状況に応じて的確にアドバイスさせていただきます。
ここで解説したこと以外にもご心配な点があれば、あわせてお伺いしますので、お気軽にご連絡ください。