交通事故で症状固定と言われたら|デメリットと症状固定後の通院
交通事故でむち打ち症となり通院を続けていると、3ヶ月を経過した頃に、加害者側の保険会社から「そろそろ症状固定しましょう」と言われることがあります。
しかし、そのまま保険会社の言いなりになってしまってはいけません。後々、大きく後悔することになってしまいます。
今回は、症状固定とはどういうことなのか、保険会社に「症状固定」と言われたらどういう対応をすべきなのか、特にむち打ち症で保険会社に症状固定を言われた場合の対処法とその後の示談までを解説します。
1.保険会社に「症状固定」を言われたら
(1)「症状固定」の意味
症状固定とは、治療を続けてもそれ以上症状がよくも悪くもならない状態のことです。
また、法的には、症状固定するとけがは後遺障害として扱われるため、治療費や入通院慰謝料などが加害者側から補償されなくなることを意味します。
他方、症状固定によって残存する後遺症が明確になった時点で、後遺障害等級認定への申請手続きをすることが可能になり、等級に認定されると、その等級に従って後遺障害慰謝料や逸失利益の請求が可能になります。
つまり、症状固定は治療期の終了と同時に、後遺障害に対する賠償への交渉始期・示談交渉の開始を意味し、交通事故の損害賠償全体のなかでも非常に重要な区切りなのです。
加害者側の保険会社は、できるだけ低い賠償額で示談することを望んでいます。治療が長期化すると、治療費と入通院慰謝料が高額になってしまうので、早期に症状固定することを打診してくるのです。
(2) 保険会社の言いなりになる必要はない
しかし、保険会社の言いなりになる必要はありません。症状固定の時期は、当然ながら医療の専門家である担当医師の診断に基づいて、被害者本人と医師との話し合いで決めるものです。
仮に、保険会社の指示に従って症状固定にしてしまうと、受け取ることができたはずの入通院慰謝料が減額され、その後の治療費も自腹で支払わなければなりません。
医師に症状や治療の継続が必要な旨を診断書や意見書に書いてもらい、保険会社と交渉すべきです。
もし、「症状固定」の打診に一人でお悩みなら、弁護士に相談するのも一つの選択肢です。
2.むち打ちの症状固定時期
通院から3ヶ月程度で、保険会社が「症状固定」と言ってくるのは、通常、むち打ち症が、3ヶ月程度で治癒すると言われているからです。
しかし、むち打ち症の程度は人によって異なりますので、3ヶ月程度通院を続けても、治癒せず、痛み等の症状がまだあるケースもあります。そのような場合に、3ヶ月程度で症状固定にして、痛み等の症状について後遺障害等級認定の申請をしても、残念ながら後遺障害に認定されることはないでしょう。
一般的に、むち打ち症では、痛みやしびれなどの症状が投薬やリハビリなどで一時的にはよくなるが、またすぐに元に戻るという状態を繰り返す状況になったときが症状固定の時期です。
むち打ち症では、症状固定まで6か月程度を、週2・3回という通院頻度を守り治療をすれば、後遺障害認定のための第一のハードルはクリアしたことになります。
しかし、むち打ちの場合は特に外見上の症状がわかりにくく、レントゲンやMRIなどの他覚所見を得ることが難しいため、後遺障害の証明が難しいともいわれます。
したがって、むち打ちを証明するためには十分な治療と資料収集が重要になります。
3.症状固定のメリット・デメリット
では、症状固定には、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
(1) 症状固定のメリット
症状固定のメリットには、以下のものがあります。
- 後遺障害の申請ができるようになる
(2) 症状固定のデメリット
- 保険会社からの治療費の支払いが打ち切られる
- 入通院慰謝料・休業損害の支払期間が終了する
- 治療を継続したい場合、症状固定後の通院・リハビリは被害者の自己負担となる
- 早期(むち打ち症の場合6ヶ月未満)に症状固定になると後遺障害に認定される可能性が低い
こうして書き出すと、確かに症状固定にはデメリットのほうが多いような印象を受けます。
しかし、むち打ち症などが治癒すれば、症状固定の日は必ずやってきます。しっかり治療を継続したら、後遺障害認定に備えるべきでしょう。
4.後遺障害診断書について
後遺障害診断書の記載内容は、後遺障害が書面審査であることもあり、等級に該当するか、どの等級に認定されるかを分ける非常に重要な要素になります。
自覚症状をしっかりと伝え、正しく記載されているかをきちんと確認することも重要です。
もっとも、医師との円滑なコミュニケーションが取れていれば、通常は適切な記載をしてくれるはずです。
ただし、後遺障害診断書の記載は不慣れな医師もいます。後遺障害診断書の記載は、治療行為の記録ではなく、あくまで、損害賠償の一手続きだからです。
加えて、保険会社の判断と医師の判断に齟齬が生じると、保険会社と症状固定の時期について交渉しなければならなくなります。
これら複雑で専門性の高い交渉を被害者本人が行うことには限界があるでしょうから、交通事故の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
[参考記事]
交通事故の後遺障害診断書|書き方のポイント・記入例
5.症状固定後の流れ
最後に、症状固定後の流れについてまとめておきましょう。
(1) 後遺障害の二つの申請方法
後遺障害診断書を書いてもらった後は、後遺障害等級認定を申請することになります。
後遺障害等級認定は、保険会社を通じて損害保険料率算出機構に申請します。その方法には、被害者請求と事前認定があります。
- 被害者請求:加害者側の自賠責保険会社に、被害者自身が多くの必要書類を取り寄せて直接請求をします。手間がかかる一方で、必要書類にどのような記載があるか十分に確認することができます。
- 事前認定:加害者側の任意保険会社に申請を委ねる方法です。後遺障害診断書以外の書類は、保険会社が用意して自賠責保険会社に提出するので、手間はかかりませんが、どのような内容の書類が提出されたのかを知る術がありません。
多くの方が事前認定による方法で申請していますが、十分納得のいく審査を実現させるには、被害者請求による方法をとるべきです。
手続きや提出資料の選定を相手方保険会社に任せるのではなく、被害者自身で行う、もしくは弁護士に依頼するなどして、認定を受けるために最善を尽くしましょう。
[参考記事]
被害者請求はどのように行うのか?開始の手順と準備するべき書類
(2) 示談交渉開始
後遺障害の認定後は、示談交渉を開始することになります。
示談では、いったん和解に応じてしまうと、覆すことが大変難しいため、納得がいかない内容で和解には応じるべきではありません。
後遺障害が非該当となった場合や、認定された等級に納得いかない場合は、示談交渉前に異議申立てをすべきです。
確かに、異議申立てによって認定された等級が覆る可能性は、低いと言われています。
しかし、当事務所でも、異議申立てで非該当から等級が認定されたケースが数多くあります。
示談交渉においても、異議申し立てにおいても弁護士に依頼すれば、大きな力となってくれるでしょう。
[解決事例]
30代男性、当初、後遺障害非該当→異議申立で14級認定、賠償金290万円を獲得
6.まとめ
交通事故でむち打ちなどになってしまった場合、症状固定するまでにすべき最も重要なことは、病院で十分な治療と検査を受けることです。
受傷後の治療の内容が後遺障害認定の際の重要な証拠となることを理解していれば、示談交渉において被害者が不利益となることは最小限に抑えられるはずです。
示談交渉の場合に保険会社と齟齬があったり、主張がなかなか通らなかったりと懸念があるときは、弁護士に相談してみてください。
泉総合法律事務所であれば、交通事故に精通した弁護士が責任もってサポートさせていただきます。是非一度、無料相談をご利用ください。