交通事故で頭部を強打したらどのような症状が現れるのか?
交通事故で頭を強く打ち、その後、頭痛などの症状が現れた場合、どうすれば良いのでしょうか?
この場合、一刻も早く病院の「脳神経外科」で診察を受けてください。これ以外の回答はありません。時間がたてばたつほど、事故との因果関係を証明できなくなります。
ただ、そうは言っても、何らかの事情で、今すぐには病院へ行けない方もいらっしゃるでしょう。
そこで、この記事では、病院へ行く前の基礎知識を持っていただくために、次の各点を解説します。
- 交通事故で頭部を強打したときに現れる症状とは?
- その症状の原因は?
- 各症状が治らないときに請求できる後遺障害慰謝料の内容は?
1.頭部強打の症状
交通事故に限らず、頭部を強く打った後に生じてくる症状には様々なものがありますが、代表的なものは、次の各症状です。
①頭痛、②めまい、③嘔吐(吐き気)、④眠気、⑤意識障害、⑥運動障害(麻痺など)、⑦てんかん症状、⑧高次脳機能障害
⑤意識障害とは、物事を認識することや外界からの刺激に対して反応する力が低下した状態のことで、完全に昏睡した状態(失神状態)から、いわゆる「もうろうとした状態」まで、その程度にはかなりの幅があります。
⑥運動障害とは、身体各部の動きや機能に支障を生じることです。例えば、手足の麻痺、感覚障害、言語障害、視力障害などです。
⑦てんかん症状とは、突然に意識を失う、手足を硬直させてガクガクと震えるなどの発作症状です。頭痛や意識障害を生じる場合もあります。
⑧高次脳機能障害とは、事故後に、記憶力・集中力が低下した、マナーやルールを守るなどの社会的行動力を失った、温厚だったのに怒り易くなった、勤勉だったのにルーズで無気力となったなど、人を人たらしめている脳の高度な機能が損なわれる症状です。
2. 頭痛・吐き気・眠気などの症状を生じる原因
頭部に外部からの衝撃・圧力が加わって生じる怪我を「頭部外傷」と呼び、これら症状の原因となります。
ただ、同じ頭部外傷と言っても、外側の皮膚が破れて出血しただけ(皮膚創傷)で済む場合もあれば、外部は特に傷ついていないものの、頭蓋骨内の脳組織に深刻な損傷が生じている場合(頭蓋内損傷)もあり、見かけだけでは判断がつかないのが頭部外傷の怖い点です。
頭部外傷による典型的な疾患名をあげてみましょう。
(1) 脳挫傷
脳挫傷は、外力によって、脳組織そのものが傷つけられた状態を言います。
脳の特定部位が傷つけられると、その部位が司っている特定の身体部位に運動障害、機能障害が生じる危険があります。
また、傷ついた脳には、腫れ(むくみ・浮腫)や出血が生じます。これによって、頭蓋骨の内側の圧力が高まってしまい(頭蓋内圧亢進)、脳が圧迫されることで、頭痛、吐き気、意識障害が生じます。
このように脳挫傷では、前記の①頭痛、②めまい、③嘔吐、④眠気、⑤意識障害、⑥運動障害のいずれも引き起こされる可能性があり、さらには、⑦てんかん症状、⑧高次脳機能障害を発症する場合もあります。
(2) 脳内出血
脳は外側から順に、硬膜・くも膜・軟膜という三層の膜で覆われており、出血部位によって、「硬膜下出血」、「くも膜下出血」などと呼称されます。
出血により血が貯まった状態が「血腫」であり、血腫は頭蓋内の圧力を高めて脳を圧迫し、前述のとおり①頭痛、②めまい、③嘔吐、④眠気などの症状が現れます。
血腫が増大すれば、圧迫の度合いが強くなり、⑤意識障害、⑥運動障害に進むだけでなく、生命に危険が生じます。
頭部を打って内部で出血した直後から症状が出ることが一般的ですが、出血の量によっては、受傷から数時間を経てから症状が出るケースや、少量の出血が続いた結果、数週間かけて形成された血腫が頭痛などを引き起こすケースもあるので、油断は禁物です。
[参考記事]
交通事故と脳内出血について。後遺障害慰謝料請求は弁護士へ
(3) 外傷性てんかん
「てんかん」は、突然に脳の神経細胞が電気的な興奮状態となって、多様な「発作」状態となるもので、脳の損傷を原因とする場合を外傷性てんかんと呼びます。
てんかんの発作というと、白目をむいて手足を硬直させ、ガクガク痙攣する「強直間代発作」のイメージが強いでしょう。これは脳全体が一気に興奮することで生じます。
しかし、これに限らず、脳の一部が興奮することで、頭痛、吐き気、意識障害などが生じる場合も珍しくはありません。
(3) びまん性軸索損傷
びまん性軸索損傷は、脳内の神経繊維ネットワークが広く断線してしまったものです。「びまん性」とは、広く全体にという意味です。
たとえ、一見、脳組織に損傷がないようでも、頭部に衝撃を受けた際に、脳組織内部の神経(軸索)が切れてしまうのです。
びまん性軸索損傷も高次脳機能障害の原因となります。
[参考記事]
びまん性軸索損傷とは|交通事故による症状は治るのか?
(4) むち打ち
交通事故で頭部を強打し、頭痛の症状が出た場合でも、必ず脳内部が損傷しているとは限りません。頭痛の原因は、むち打ち症というケースがあるからです。
シートベルトを装着していない状態で追突され、ダッシュボードに頭部を強打したような場合は、頭部の打撃と同時に、頚部も前後に大きく振られる力が作用したわけですから、むち打ち症となることは不思議ではありません。
むち打ち症は、「頚椎捻挫」という診断名をつけられることが多いですが、必ずしも首だけが痛むわけではなく、頭痛・めまい・耳鳴りなどの症状が出現するケースも多いのです。
むち打ち症は、事故より数時間から翌日ころに症状が現れ、その大部分は3か月以内に症状が軽快するとされます。
ただし、事故から2~4週間程度が経過してから発症したうえ、慢性化することが多い「バレ・リュー症候群」(別名「後部頚交感神経症候群」)と呼ばれる疾患も、むち打ち症の一種とされています。
[参考記事]
追突事故であとから頭痛・むち打ち等の痛みが出た場合の対処法
3.頭部を強打したことによる後遺障害
(1) 後遺障害が残った場合の補償
前述のとおり、交通事故で頭部を強打した場合に現れる代表的な症状は、①頭痛、②めまい、③嘔吐(吐き気)、④眠気、⑤意識障害、⑥運動障害(麻痺など)、⑦てんかん症状、⑧高次脳機能障害です。
治療をしても、これら各症状が治癒せず、これ以上の治療をしても改善が期待できないときは、後遺障害が残ったことになります。
交通事故での後遺障害に対しては、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益の賠償を受けることができます。
後遺障害逸失利益は、後遺障害で失われた将来の収入を補償するものです。
後遺障害慰謝料は、後遺障害の等級だけに応じた金額の基準があります。
各基準における後遺障害等級ごとの慰謝料額は、次の通りです。
後遺障害慰謝料の基準
自賠責保険基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
第1級要介護 | 1650万円 | 2800万円 |
第2級要介護 | 1203万円 | 2370万円 |
第1級 | 1150万円 | 2800万円 |
第2級 | 998万円 | 2370万円 |
第3級 | 861万円 | 1990万円 |
第4級 | 737万円 | 1670万円 |
第5級 | 618万円 | 1400万円 |
第6級 | 512万円 | 1180万円 |
第7級 | 419万円 | 1000万円 |
第8級 | 331万円 | 830万円 |
第9級 | 249万円 | 690万円 |
第10級 | 190万円 | 550万円 |
第11級 | 136万円 | 420万円 |
第12級 | 94万円 | 290万円 |
第13級 | 57万円 | 180万円 |
第14級 | 32万円 | 110万円 |
※1:自賠責保険基準は、後遺障害慰謝料のうち自賠責保険が負担する部分を決める基準です。なお、ここに記載したのは、2020年4月1日以降に発生した事故に適用される基準です。
※2:弁護士基準は、裁判で用いられる基準ですが、あくまでも相場(目安)の金額で、事案に応じて金額の増減があります。
後遺障害等級は、あくまでも残ってしまった「症状」に応じた基準ですから、「頭部の強打だから何級」という判断をするわけではありません。
例えば、頭痛という症状、運動障害という症状、高次脳機能障害という症状について、その症状の部位と重さの程度を検討し、何級にあたるかが判断されるのです。
頭部を強打した場合の各症状に対する後遺障害慰謝料をすべて説明する紙幅はありませんので、以下には、いくつか例を挙げておきましょう。
(2) 頭痛、めまいなどが治らない場合の後遺障害慰謝料
頭痛が治らない場合は、痛みによる労働や日常生活上の支障の程度に応じて等級が判断されます。
まず、頭痛の原因となる脳損傷が、画像診断など他覚的所見で把握できる場合は、次のとおりとなります。
頭痛の程度 | 等級 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
・通常の労務に服することはできるが、激しい頭痛により、時には労働に従事することができなくなる場合があるために、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの | 第9級10号 | 690万円 |
・通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の強い頭痛がおきるもの | 第12級13号 | 290万円 |
・通常の労務に服することはできるが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの | 第14級9号 | 110万円 |
これに対し、頭痛の原因が、脳損傷ではなく、むち打ち症(バレリュー症候群を含む)の場合は、①末梢神経の障害について、画像診断による他覚的所見がある場合は、12級「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害慰謝料290万円、②自覚症状しかないが事故による症状である医学的に説明が可能な場合は14級「局部に神経症状を残すもの」として、後遺障害慰謝料110万円が基準となります。
バレリュー症候群は、自覚症状だけで他覚的所見には乏しいとされていますので、多くの場合、良くても14級にとどまるものと思われます。
(3) 外傷性てんかんが治らない場合の後遺障害慰謝料
外傷性てんかんは、主に「発作の型」と「発作の回数」から、5級、7級、9級、12級の各等級を判断します。
①意識障害を起こして転倒する発作、②意識はあるものの転倒する発作、③意識が混濁し、うろうろ歩き回るなどのおかしな行動をとる発作に分類したうえで、例えば、これらの発作の回数が、1ヶ月に1回以上は5級、数ヶ月に1回以上は7級、①②③以外の発作が数ヶ月に1回以上あるときは9級というように判断します。
後遺障害慰謝料は、5級1400万円、7級1000万円、9級690万円、12級290万円です。
(4) 高次脳機能障害が治らない場合の後遺障害慰謝料
高次脳機能障害で認定される後遺障害等級とその認定基準は次のとおりです。
高次脳機能障害の程度(※) | 等級 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
・身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの。 | 1級1号 | 2800万円 |
・著しい判断能力の低下や情動の不安定などがあって、一人では外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。 ・身体的動作には、排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に家族からの声かけや看視を欠かすことができないもの。 |
2級1号 | 2370万円 |
・自宅周辺を外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声かけや、介助なしでも日常の動作を行える。 ・しかし、記憶や注意力、新しいこと学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
3級3号 | 1990万円 |
・単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。 ・ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの。 |
5級2号 | 1400万円 |
・一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行う事ができないもの。 | 7級4号 | 1000万円 |
・一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの。 | 9級10号 | 690万円 |
※この基準は、自賠責保険の認定実務で使用されている「補足的な考え方」という基準です。
[参考記事]
交通事故の後遺障害「高次脳機能障害」はどのような症状か?
高次脳機能障害のポイント
高次脳機能障害が認定されるポイントは、次のとおりです。
- 事故で頭部に受傷した後に、一定時間の意識障害(昏睡状態・半昏睡状態)があったこと。
- 脳局部の損傷が画像で確認できること。びまん性軸索損傷の場合は、ネットワークの断線それ自体は撮影できませんが、発生から3か月程度で脳が萎縮する特徴があるので、これを画像で確認できること。
- 事故前と比較して、人格、行動が変化し、異常な行動が見られること。感情の起伏が激しくなった、すぐに怒鳴るようになった、外見に無関心になった、性的な羞恥心が失われた、複数の作業を同時に並行してできなくなった、失禁をするようになったなど。
高次脳機能障害は、医師にも見過ごされ易い症状です。何故なら、人格・性格に変化が生じても、事故前の人柄を知らない医師が気付くことはできないからです。しかも、被害者本人は高次脳機能障害を自覚できません。
したがって、家族や友人が被害者本人の変化に注意してあげることが何よりも大切です。
また、びまん性軸索損傷での脳萎縮が生じているか否かは、事故前(遅くとも事故直後)の脳の画像と比較しなくては判断できませんので、頭部を強打した場合は、事故後できるだけ早く、頭部の画像を撮影しておくことが重要です。
4.頭部強打で正しい後遺障害等級認定を受けるために
後遺障害等級認定の審査は書面審査です。審査の資料となる診断書、後遺障害診断書に、正確な症状を漏れなく記載したうえ、必要な画像検査等を実施し、結果を添付してもらうことが必要です。
そのためには、きちんと定期的に通院して診察・診療を受けること、痛みなどの自覚症状をすべて訴え、記録してもらうことが大切です。
さらに、その痛みなどが、仕事・学業・家事・日常生活などに、どのように具体的な支障を与えているかを医師に伝え、できる限り記録しておいてもらいましょう。
また、後遺障害等級の認定手続を加害者側の保険会社に任せる(これを「事前認定」と言います)のではなく、被害者自らが自賠責保険に申請する「被害者請求」手続をとることで、審査前に資料となる医療記録等に目を通すことができ、不足や問題点を事前にチェックすることが可能となります。
これらの作業は、交通事故に強い弁護士に依頼されることがベストです。
5.まとめ
高次脳機能障害に限らず、頭部受傷の問題を判断するには、医学的に高度な専門知識が必要です。被害者とそのご家族だけで対応することはお勧めできません。
診断と治療は医師に任せ、加害者や保険会社とのやりとり、後遺障害等級認定の手続などは、専門家である弁護士に依頼し、ご自分は治療に集中されることがベストです。
交通事故による怪我に関するお悩みを持ちの方は、一度泉総合法律事務所にご相談ください。
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