後遺障害8級の慰謝料相場と逸失利益の計算について
交通事故による後遺障害等級が8級と認定された場合、受け取る慰謝料はどのくらいになるのでしょうか。
交通事故のけがによって後遺障害が残ると、本来受け取れるはずだった収入が事故後に減少したり、事故前の仕事を続けられなくなったりするなど、多くの問題に直面します。
ここでは、後遺障害8級に認定された方が適正な慰謝料を受け取るために、その相場と押さえるべきポイントをご説明します。
1.後遺障害8級が認められるケース
後遺障害8級は、障害による分類等級が1級~14級あるうちのちょうど中間くらいに該当します。
後遺障害8級に該当するのは以下の障害です。
1号 | ・片眼が失明したもの 失明には眼球亡失や、ようやく明暗を弁じ得るもの(光覚弁)を含みます。 ・片眼の視力が0.02以下になったもの 視力とは眼鏡による矯正視力のことで裸眼視力ではありません。 |
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2号 | ・脊柱に運動障害を残すもの 首や背骨の脊椎が損傷し、首の骨や背骨の可動範囲が正常なときの1/2になった、又は10度くらいまでに制限された場合が該当します。頭蓋骨から首の骨や背骨にかけて著しい異常可動性がある場合も含まれます。 |
3号 | ・片手のおや指を含む2本の手指を失ったもの。 ・片手おや指以外の3本の手指を失ったもの おや指は指節間関節以上、その他の指は近位指節間関節(第2関節)以上を失ったものをいいます。 |
4号 | ・片手のおや指を含む3本の手指の用を廃したもの ・片手おや指以外の4本の手指の用を廃したもの 「手指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または中手指節間関節もしくは近位指節間関節(おや指の場合は指節間関節)に著しい運動障害を残すものとされています。具体的には、次の場合が該当します。 (ア) 手指の末節骨(爪のついた部分の骨)の長さの1/2以上を失ったもの (イ) 中手指節間関節または近位指節間関節(おや指の場合は指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの (ウ) おや指については、橈側外転(立てること)または掌側外転(手のひら側につけること)のいずれかが健側の1/2以下に制限されているもの (エ) 手指の末節の指腹部および側部の深部感覚および表在感覚が完全に脱失したもの |
5号 | ・片足を5cm以上短縮したもの 歩行に支障が出るものが該当し、小児の骨折後に見られる過成長の場合も含まれます。 |
6号 | ・片腕の3大関節のうち1関節の用を廃したもの 「片腕の3大関節」は肩、肘、手首です。「用を廃した」とは、関節が完全に強直したものや人工関節に置き換えた場合とされています。 |
7号 | ・片足の3大関節のうち1関節の用を廃したもの 「片足の3大関節」は股関節、膝、足首です。「用を廃した」とは、関節が完全に強直したものや人工関節に置き換えた場合とされています。 |
8号 | ・片腕に偽関節を残すもの 偽関節とは骨がくっつかず関節のように動く状態を指します。橈骨あるいは尺骨のいずれか一方に偽関節を残す場合に該当します。 |
9号 | ・片足に偽関節を残すもの 脛骨あるいは腓骨のいずれか一方に偽関節が残れば該当します。 |
10号 | ・片足の指の全部を失ったもの 中足指節関節以上を失ったものが該当します。 |
これら8級に該当する障害は一様に重症なものだと言えます。特に2号や4号のように目で見て明らかにわかるようなものではない場合は注意が必要です。
自覚している状態よりも軽度に診断されていないか、実質的な障害が正しく理解されているかをきちんとご自身で確認することが重要でしょう。
ご不明な点がある場合には、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
2.後遺障害8級の慰謝料
(1) 慰謝料の基準
慰謝料を決める場合には3通りの基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
1の自賠責基準は、法令で定められた最低限の補償を目的とした基準で、最低補償額となります。
2の任意保険基準は各保険会社が決める基準です。被害者ご自身で示談交渉をされる場合に相手方の保険会社から提示される慰謝料の計算はこの基準に基づいています。
よって、自賠責保険でカバーしきれない部分が上乗せされてはいますが、現実にはその差額が大きいとは言えません。
3の弁護士基準は、弁護士が損害賠償を交渉する際に用いる基準のことです。
過去の裁判例をもとに弁護士会がまとめたもので、裁判でも用いられています。裁判基準とも呼ばれ、3つの基準のなかで最高額となります。
障害を負って事故後の生活を送ることを考えると、当然、受け取る慰謝料は少しでも多いに越したことはありません。
しかし、多くのケースでは示談交渉で提示された「任意保険基準」で合意されています。
弁護士基準で計算される場合があることを踏まえ、不安がある方は、弁護士に相談してみるのも一つの方法です。
弁護士による交渉で慰謝料が増額できるケースもあるのです。
(2) 慰謝料の内容
通常、交通事故被害者に支払われる賠償金には、入通院費用などの実際にかかる費用や休業損害などのほか、慰謝料が含まれます。
慰謝料には、被害者が死亡した場合の死亡慰謝料と、交通事故によるけがで病院にかかった際の入通院慰謝料、後遺障害認定を受けた場合の後遺障害慰謝料があります。
慰謝料とは被害者の精神的・肉体的な損害に対し支払われるものですから、後遺障害8級に認定された場合には入通院慰謝料に加えて後遺障害慰謝料が支払われます。
(3) 慰謝料の相場
後遺障害8級の自賠責保険から支払われる後遺障害慰謝料の金額(自賠責基準)は324万円です。
保険会社からの提示額(任意保険基準)ではおよそ400万円です。これを弁護士に委任して示談交渉に臨むと(弁護士基準で)830万円になります。
複数の障害(たとえば9級と12級)の併合認定で8級となった場合には、さらに高額になる可能性もあります。
これだけを見ても、保険会社が合意を求めてくる後遺障害慰謝料の金額は弁護士基準の半額以下です。
また、これらはあくまでも相場ですから、一律機械的に決められるわけではないのでケースによっては増額も見込まれます。
被害者ご自身が対応して保険会社の言いなりになり低い基準の示談をしてしまうことがないよう注意しましょう。
弁護士基準で示談をするためには、事前に弁護士に交渉を委ねることが必要です。
3.後遺障害8級で請求できる逸失利益
(1) 逸失利益とは
逸失利益とは、事故に遭い後遺障害を負わなければ受け取れるはずだった利益のことです。
後遺障害が原因で労働能力が低下し、収入が減るであろうことは容易に予想がつくことですから、それは慰謝料とは別に補填されるべきと考えられています。
つまり、後遺障害8級に認定されたことで失った利益を計算し、それを事故の相手方に補償してもらうという考え方です。
(2) 逸失利益の計算式
逸失利益=事故前の基礎収入×労働能力喪失率(※1)×ライプニッツ係数(※2)
※1 労働能力喪失率とは、事故前の労働力を100として後遺障害の各等級によってどのくらい労働力が失われたかの比率を表したものです。
後遺障害1級~3級は喪失率100%、最低障害の14級で喪失率5%、8級は45%です。
ただ、これらの喪失率は自賠責保険の計算によるものですから、絶対に変えられないというものではありません。
弁護士による交渉をすれば、弁護士基準の計算によってより実情に即した比率で計算することが可能となります。
※2 ライプニッツ係数とは、一括で支払われる後遺障害逸失利益を年払いで支払われた場合と同等になるように評価し直すためのものです。中間利息控除係数とも呼ばれます。
逸失利益を一括で受け取るためには、将来分の中間利息を差し引く必要があるのです。後遺障害等級にかかわらず、労働能力喪失期間(年)ごとに控除係数が決められています。
<具体例>
被害者症状固定時38歳 会社員
就労可能年齢を67歳までとすると、症状固定からの労働喪失期間は29年
年収480万円後遺障害等級8級と認定
後遺障害逸失利益=480万円×45/100×15.1411(29年のライプニッツ係数)
=30,660,727円
つまり、このケースでは、3000万円を超える逸失利益を受け取ることが可能となります。
このような計算式を用いて逸失利益を導き出し損害に対する補償の公平性を担保しようとしています。
場合によっては数千万円~1億円以上になるようなかなり高額の逸失利益を得る例もあります。
さらに、弁護士が交渉することによって基本額を超える高額な逸失利益を獲得することも可能となるのです。
4.その他損害賠償金
(1) 入通院慰謝料
病院への入院や通院によって余儀なくされた精神的負担への賠償のことです。
- 自賠責基準:1日あたり4300円×(入院期間+通院期間)または(実通院日数×2)のいずれか少ない方
- 弁護士基準:過去の裁判で請求された慰謝料を基準とする
※例えば、治療1ヶ月、実通院10日の場合、自賠責基準では84000円ですが、弁護士基準では280000円ほどになります。
(2) 休業損害
交通事故のけがによって仕事を休まざるを得なくなったために得られなかった賃金、収入のことです。
- 自賠責基準:1日あたり6100円×休業日数
- 弁護士基準:基礎収入1日分×休業日数
(3) 治療費
病院での治療にかかった費用のことで、全額、あるいは一部が支払われます。
接骨院などでの治療費用が含まれる場合もあります。
(4) 入院雑費
入院した際の日用雑貨や栄養補給費、通信費などです。
通常1日あたり1500円程度が支払われます。特に重篤な後遺障害では将来的に雑費が発生すると予測され、おむつ代などを請求できるケースがあります。
(5) 通院付添看護費
- 自賠責基準:1日あたり2050円×通院日数
- 弁護士基準:1日あたり3300円×通院日数
(6) 通院にかかった交通費
バスや電車なら領収書は不要です。
自家用車を利用した場合、ガソリン代は領収書不要で請求できますが、駐車料金は領収書が必要です。タクシー利用の場合も領収書を要します。
(7) 介護が必要になった場合の将来介護費
家族による介護は1日あたり8000円(赤い本)、職業介護は実費で計算されます。
一時金賠償方式と定期金賠償方式があります。ただし、介護は将来的に長期化するため具体的な介護費用の算定は難しい側面があるので、詳しいことは弁護士に相談しましょう。
5.まとめ
後遺障害の程度は損害賠償額を計算するうえでの基礎となるものです。
しかし、後遺障害8級と認定されても慰謝料や逸失利益が一定額に決まっているわけではなく、補償額はケースバイケースです。
事故後の不安を少しでも解消するには、できうる限り高額な損害賠償金を勝ち取ることが必要でしょう。
そのためには、交通事故に強い弁護士に依頼することです。同じ等級であっても、示談交渉から損害賠償請求までを弁護士に任せることで相場以上の補償が期待でき、精神的にも負担が減って楽になります。
迷っていることや不明な点は、まず泉総合法律事務所の弁護士に相談してみてください。