任意保険未加入事故の被害者に…。損害賠償は受けられるか?
多くの方は「交通事故の被害にあっても加害者側の保険で補償してもらえるから大丈夫」と考えているかもしれません。
しかし、実際には、任意保険に未加入という車(未保険車)は少なくありません。
日本損害保険協会が公表している統計データによれば、任意保険(対人賠償保険)の加入率は、74.8%(2019年3月末現在)約4台に1台は未保険車です。
※損害保険料率算出機構の「2019年度自動車保険の概況」143頁より
事故を起こした加害者が任意保険に未加入の場合、被害者は自賠責保険や加害者に直接請求して補償してもらうことになりますが、補償が十分なされない・加害者に「支払能力がない」ということがあり得ます。
そのような場合には泣き寝入りするしかないのでしょうか?
このコラムでは、任意保険に未加入の車との事故で被害者となった場合の対処法についてお話します。
※なお、当事務所では、相手方が任意保険に未加入の場合のご相談につきましては、お取扱いしておりません。
ご負担いただく費用などを考慮すると、以下でお伝えの通り、弁護士が介入したとしてもお客様にとってメリットがないことが多いためです。
恐れ入りますが、何卒ご容赦いただけますよう、よろしくお願いいたします。
1.自賠責保険の補償範囲
自賠責保険の補償額には、上限が設定されています。
そもそも自賠責保険は、人身事故にあった被害者を保護するための「最低限度の補償」を担保する制度に過ぎないので、任意保険によってカバーされることを前提にしています。
自賠責保険を「下積み保険」、任意保険を「上積み保険」と呼ぶことがあるのは、そのような趣旨をあらわしています。
人身事故の賠償額は、次のような損害費目を合算して算出されます。
- 傷害の場合:治療費、入院通院費、看護料、休業損害、傷害(入通院)慰謝料など
※後遺障害に認定された場合は後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料など - 死亡の場合:葬儀料、逸失利益、慰謝料など
これらの損害の合計について、自賠責保険は賠償額の上限を次のように定めています。
- 傷害:120万円まで
- 後遺障害(逸失利益および慰謝料など):第1級3,000万円~第14級75万円
なお、後遺障害第1級で常に介護を要する場合は4,000万円まで - 死亡:3,000万円まで
また、それぞれの損害費目ごとにも上限額が定められています。
たとえば、傷害慰謝料は入通院1日につき4,300円、葬儀費は100万円、死亡の際の本人慰謝料は400万円となっています(※)。
※2020年3月31日以前に発生した事故の場合は、通院1日につき4.200円、葬儀費用は原則60万円、死亡の際の本人慰謝料は350万円となります。
自賠責保険では、人身事故しか補償されません。したがって、車の修理代(車両の物的損害)などについては、自賠責保険では補償されません。
未保険車が相手の場合には、加害者に直接請求する必要があります。
2.未加入事故の対処方法
このように、自賠責保険の補償には上限があるため、加害者が任意保険に入っていない事故では、多くのケースで十分な補償を受けることができません。
たとえば、骨折などの重傷を負った傷害事故の場合、上限の120万円を超えることは珍しくありません。
それでは、自賠責保険の補償限度額を超えた損害が発生した場合や、車の修理費などは、どのよう対処すればいいのでしょうか?
(1) 被害者自身の保険を利用する
最も確実な方法は、被害者ご自身が加入する任意保険を利用して損害を填補することです。
①人身傷害保険
任意保険で「人身傷害保険」に入っていれば、相手が無保険車の場合でも保険金を受け取ることができます。
人身傷害保険は利用しても「ノーカウント事故」として取り扱われるので、保険料は上がりません。
先に紹介した損害保険協会の統計調査によれば、2018年での人身傷害保険の加入率は69.8%と、約7割が加入していますが、対人賠償保険の加入率よりは低くなっています。
心配な方はご自身の契約内容を確認しておくとよいでしょう。
②無保険車傷害保険
対人賠償保険に加入していれば、「無保険車傷害保険」が「自動的に付帯」されています。
ただし、無保険車傷害保険は、「後遺障害や死亡した場合」しか利用できません
後遺症のないケガや車の修理代、休業損害には使えないので注意が必要です。
③物損は車両保険でカバーする
物損事故で役に立つのが車両保険です。
車両保険は他の保険に比べて加入率は高くありませんが、万が一のもらい事故にも利用できる心強い味方です。車両保険には、「無過失事故に関する特約」が自動的にセットされています。
次の条件を満たしていれば、自分の車両保険で修理しても保険料が上がることはありません。
- 契約車以外の自動車(原付を含む)との接触または衝突事故(車対車事故)であること
- 契約車の運転者に過失がないこと
- 事故の相手自動車の登録番号等および事故発生時の相手自動車の運転者または所有者の住所・氏名が確認できること
(2) 仕事中の事故であれば労災も利用できる
就業中の事故はもちろんですが、通勤中の事故も労働災害なので、労災保険が使えます。
正社員でなくても、「労働基準法による労働者(労働基準法9条)」であれば、アルバイト、パート、日雇い労働者でも労災を利用できます。
自賠責保険と労災保険では、診療報酬や補償額が異なります。自賠責保険では、自由診療・上限額120万円ですが、労災保険を適用した場合には、1点12円、治療費上限額なしであるため、両者には大きな違いがあります。
特に無保険車が相手の場合には、先に自賠責保険を利用すれば、治療途中に補償上限に達してしまうこともあり、労災保険を上手に使うことで十分な補償を受けられることがあります。
労災保険はすべての会社に加入義務がありますが、もし万が一働いている会社が未加入であったとしても、病院には労災である旨を告げるべきです。
会社に相談しても埒が明かない場合は、労働基準監督署に相談してみてください。
[参考記事]
交通事故で労災は使うべき?任意保険との比較とメリット・デメリット
(3) 加害者が自賠責保険にも未加入なら政府補償事業
無保険車を相手にする場合には、任意保険だけでなく自賠責保険にも加入していなというケースがあります。
自賠責保険は強制保険なので、本来は100%の加入でなければなりません。しかし、自動車では約1割弱、原付では3割程が自賠責保険にも加入していない(期限切れ含む)と言われています。
自賠責保険にも加入していない加害者による事故の場合は、政府保障事業による補償を受けることができます。
政府保障事業とは、政府(国土交通省)が実施している自賠責保険から補償を受けられない無保険車やひき逃げなどの被害者に対する救済制度です。
(4) 相手(加害者)に直接請求する
事故の加害者には、当然損害を賠償する責任があるので、加害者に直接請求することもできます。
この場合には、加害者と連絡をとり示談を進めるのが一般的な方法です。
しかし、任意保険に未加入の加害者は、資力が不足していることが少なくありません。つまり、保険料が支払えないために未加入であることが多いのです。
交通事故による損害賠償は、一括で支払ってもらうのが原則ですが、加害者へ直接の請求の場合には、実際には分割で支払ってもらうほかないことが多いのが実情です(無理に交渉して、相手に自己破産されれば賠償義務が免責されることもあります)。
仮に、示談が成立したとしても、補償額が多いときには、長期の分割となります。
そのため、支払いに延滞が起きる可能性も少なくありません。
このように、未保険車の事故で加害者に直接請求することは、難しいケースが少なくないです。
3.まとめ
自賠責保険の支払い基準は、任意保険よりもかなり厳しく、満足な賠償を受けられないことがあります。
そのために、人身傷害保険や車両保険といった「もらい事故」を補償する保険があります。
交通事故は、自分に非がなくても被害に遭ってしまうものです。相手が常に任意保険に加入しているとはかぎりません。
万が一に備えて、ご自身の保険内容を見直してみてはいかがでしょうか。