後遺障害 [公開日]2018年5月16日[更新日]2018年9月12日

事前認定(加害者請求)とは?被害者請求との違い、メリットなど

後遺障害の事前認定とは?被害者請求との違い、メリットなどを解説

【この記事を読んでわかる事】

  • 後遺障害の等級認定方法には、事前認定と被害者請求がある
  • 事前認定は、手続を加害者の保険会社に任せてしまうので、被害者に手間や負担がかからない
  • 後遺障害の内容に争いがあったり、照明資料が明確でなかったりする場合は被害者請求をするべき

交通事故で後遺症が残った場合には、後遺障害等級認定を受ける必要がありますが、そのとき、2通りの手続があることをご存知でしょうか?

1つは保険会社に手続を任せてしまう「事前認定(加害者請求)」、もう1つは被害者自身が手続を行う「被害者請求」です。
うっかり相手方保険会社に事前認定を「お任せします」などと返事をしたために、将来、等級認定を受けられるかどうかが変わってくることもあります。

そこで今回は、後遺障害の事前認定やそのメリット・デメリットなどにつき、弁護士が解説します。

1.事前認定

(1) 事前認定(加害者請求)とは

事前認定とは、後遺障害の等級認定の手続を、加害者の保険会社に任せてしまう方法です。

交通事故で何らかの後遺症が残った場合、自賠責保険に申請をして、後遺障害等級認定を受ける必要があります。きちんと等級認定されないと、後遺障害慰謝料や逸失利益を受けとることができないからです。

後遺障害認定を受けられなければ、後遺症を前提とした賠償金を受けることができません。

相手の自賠責保険に後遺障害等級認定を申請する方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2種類があります。

事前認定では、加害者の保険会社が自賠責保険への後遺障害等級認定申請を代行します。自賠責法15条を根拠とする方法です。加害者側が自賠責保険に保険金を請求するので「加害者請求」とも言われます。

被害者が加害者の保険会社と示談交渉をするケースでは、相手の保険会社から「事前認定をすすめましょうか?」と聞かれることがよくありますが、このときに「すすめてください」と言うと、事前認定の方法により、後遺障害の認定手続が開始されることになります。

これに対し、被害者請求では、被害者のかたご自身が相手の自賠責保険に対して後遺障害等級認定の申請を出します。自賠責法16条を根拠とする手続です。

被害者請求をするときには、被害者の方ご自身がいろいろな必要書類を集めて、直接相手の自賠責保険に申請をして保険金請求を行う必要があります。

(2) 事前認定と被害者請求の違い

事前認定と被害者請求のもっとも大きな違いは、間に「加害者の任意保険会社を介するか」という点です。

加害者の任意保険会社を介する場合には「事前認定」となり、介さない場合には「被害者請求」となります。

弁護士に示談交渉や後遺障害等級認定手続を依頼する場合には「被害者請求」を利用することがほとんどですが、被害者の方ご自身で後遺障害認定をするときには、「事前認定」を利用することが多いです。

被害者請求については「被害者請求とは?事前認定との違いと適切な後遺障害認定」の記事をご覧ください。

2.事前認定手続の流れ

事前認定によって後遺障害の等級認定を受けたいときには、どのようにして手続をすすめることになるのでしょうか?

(1) 症状固定するまで通院する

後遺障害の等級認定を受けるには、症状固定の診断を受けて治療を終了することが必要です。交通事故の後遺障害は、ケガの治療が終わり「症状固定」したタイミングで残っている症状について、審査されるためです。

症状固定したかどうかは、医師が判断するので、基本的には、医師が症状固定と判断するまで通院を継続する必要があります。

ただ、実際には、ある程度の治療期間が経過してくると、加害者の保険会社が、「治療は終了しましょう」と言って、事前認定の提案をしてくることが多いです。

本来、症状固定していないのであれば治療を止めるべきではないのですが、被害者の方が自分で対応している場合には、相手方保険会社の言うままに治療を止めてしまうことも少なくありません。

相手方保険会社が事前認定の提案をしてきても、まずは、担当のお医者様と症状固定の合意ができるまでは治療を続けましょう。事前認定を受けるか否かはそれからの話です。

症状固定について更に詳しく知りたいという方は「交通事故の症状固定=治療費打ち切り。正当な慰謝料獲得のための知識」をご覧ください。

(2) 相手から事前認定の提案を受ける

被害者が治療を終了したら、相手の保険会社の担当者が「後遺障害について、事前認定をすすめましょう」と言ってきます。

事前認定を了承するかどうかは、その後の後遺障害認定に大きく作用する場合があります。後悔しないためにも後述するポイントを参考に慎重に行いましょう。

いったん、被害者が事前認定をすることを了承すると、手続をすすめていくことになります。

(3) 後遺障害診断書を取得する

事前認定をすすめるためには「後遺障害診断書」が必要です。後遺障害診断書とは、後遺障害に関する内容に特化している診断書のことです。

自賠責専用の書式があるので、その書式を保険会社から入手して医師に渡し、作成してもらう必要があります。
自賠責保険は、後遺障害診断書の内容に基づいて、後遺障害等級に該当するかどうかを判断しますので、後遺障害診断書は非常に重要なカギとなります。

後遺障害診断書は、医師が作成するものなので、患者がその内容についてあまり口出しできるものではないのですが、最低限、①どのようなことが書かれているのか、②記入漏れや明らかな間違いがないか、③自分の主張する自覚症状が正しく書かれているかなどは確認しておくとよいでしょう。

【参考】交通事故で後遺障害診断書を作成してもらう際の書き方・費用

(4) 加害者の任意保険会社に送付する

入手した後遺障害診断書を加害者の保険会社に送付すると、それだけで、被害者の方がなすべき事前認定の手続は終了となります。

他に必要な書類や資料を集める必要はありませんし、誰かに連絡を入れる必要もありません。必要な資料はすべて加害者の任意保険会社が集めて自賠責保険へ送付するからです。被害者の方は、結果を待っているだけの状態となります。

(5) 加害者の任意保険会社から結果の通知を受ける

後遺障害診断書を提出して1~2ヶ月が経過すると、後遺障害等級認定の結果が出ます。
結果については、加害者の保険会社宛に送付されるので、被害者の方は加害者の保険会社を通じて通知を受け取ります。

3.事前認定手続のメリット・デメリット

(1) メリット

①被害者に手間・負担がかからない

事前認定のメリットは、被害者の方に手間や負担がかからないことです。

後遺障害診断書さえ取得して加害者の保険会社に送付すれば、後は何もする必要がありません。
普段忙しくしている方や、面倒な手続が嫌な方でも、簡単に後遺障害等級認定の申請をすることができます。

②損害賠償が一括で支払われる

事前認定の場合は、後遺障害が認められると、損害賠償が保険会社から一括で支払われるというメリットもあります。

本来、損害賠償額のうち、自賠責保険の限度額までは自賠責保険から、それ以上の賠償額については任意保険会社から支払われることになりますが、事前請求の場合は、任意保険会社が自賠責保険分の支払いの立替をしてくれるからです。

(2) デメリット

ただし、事前認定には、以下のようなさまざまなデメリットがあるので、注意が必要です。

①手続に透明性がない

1つは、後遺障害等級認定申請の手続に透明性がなくなることです。

後遺障害が認定されるのか、また何級になるのか、ということは、被害者にとって非常に重要なポイントです。

しかし、事前認定を行う場合には、被害者の方ご自身が手続に関わることができません。加害者の保険会社がどのような方法で手続をすすめているのか、被害者の方には全く分からないのです。

結果として、期待していたよりも低い等級であったり非該当になったりした場合、事前認定の場合ですと、納得できない結果となるケースが多いかもしれません。

また、そもそも加害者の保険会社は、被害者の方と相対する立場にあります。被害者の方に後遺障害が認定されると、賠償金額が上がることになりますから、その相手に重要な後遺障害認定手続を任せることには大きな不安があると言えます。

②被害者の裁量がきかない

一般に事前認定では、高い等級の後遺障害認定を目指すケースでは、被害者に不利になってしまう可能性があります。

被害者請求の場合は、自分に有利な資料を集め追加提出が可能ですが、事前認定では、被害者に知識がないと、こうした方法を採ることができないからです。

③示談まで損害賠償が支払われない

加害者請求であれば、後遺障害と認定されれば、示談成立前であっても自賠責保険からまとまった金額の損害賠償金を受け取ることが可能です。

一方事前認定の場合は、示談後でなければ、受け取ることができません。

4.事前認定と被害者請求のどちらを選ぶべきか

事前認定手続のメリット・デメリット

後遺障害等級認定の方法としては、事前認定と被害者請求がありますが、結局どちらがよいのでしょうか?

これについては、ケースにもよりますので、以下では、事前認定を利用すべきケースとそうでないケースをご紹介します。

(1) 事前認定を利用すべきケース

事前認定を利用すべきケースは、以下のような場合です。

①画像検査結果などから、後遺障害の内容が明らか

後遺障害の内容がはっきりと証明されていて、誰が見ても明らかであれば、事前認定をしても不都合は少ないです。

②より高い等級の後遺障害認定を目指す必要がない

より高い等級獲得を目指すためには、高度な証明が必要とされる場合があります。この場合には、被害者請求が有効でしょう。

逆にそのようなことがなく、現在の証拠だけで、明らかに認められる後遺障害等級を目指すのであれば、事前認定でも問題ないと言えます。

③既往症など、争点になりそうなところがない

既往症がある場合には、交通事故と症状との因果関係が否定されて、後遺障害等級認定が行われないことがあります。

そこで、被害者側としては、既往症を否定したり、既往症があってもなお交通事故によって悪化していることなどを主張したりして、後遺障害の等級認定を目指さなければなりません。

そのような積極的な主張立証活動を行うためには、事前認定では対応できません。既往症がある場合に事前認定を利用すると、後遺障害が否定される確率は高くなるでしょう。

④事故発生状況や治療経緯も明らかで、争われる余地がない

交通事故の発生状況によっては、そもそもその交通事故によって後遺障害が残るようなケガを負う可能性が本当にあるのかについて、争われることがあります。

また、治療経過において、被害者の自覚症状についての主張が変遷していたり、病院への通院日数が少なかったりしますと、後遺障害認定を受けるうえで不利になることもあります。

このように、交通事故の発生状況や治療経過が争点になると予測される場合には、先回りをしてしっかりと対策を練り、自分に有利な資料を集めたり、説明内容を工夫したりして、自賠責損害調査事務所を説得する努力が被害者の方には必要とされます。

事前認定では、加害者の保険会社に任せきりになるため、このような対応は不可能です。

つまり、事前認定を利用すべきケースとは、交通事故状況や治療経過、後遺障害の内容などにも一切問題がなく、後遺障害の存在が証拠上明らかであるような、「問題がほとんどない事案」の場合に利用するのが適切と言えます。

それ以外の、何らかの問題や争点がある場合に事前認定を利用すると、本来認定されるべき後遺障害等級を獲得するための努力が望めないため、不本意な結果が発生するおそれがあります。

(2) 事前認定を利用すべきではないケース

以下のようなケースでは、事前認定ではなく、「被害者請求」を利用すべきでしょう。

後遺障害の証明資料が完璧ではない
②既往症と主張されそうな要因がある
③治療経過において、相手の保険会社から被害者にとって不利な指摘を受けそうな部分がある
④後遺障害が認定されるかどうか不安があるが、やるだけのことはやっておきたい
⑤自分の後遺障害認定の手続は、自分で行いたい
⑥加害者側の保険会社を信用できない

上記のようなケースでは、被害者の方ご自身が手続をすすめ、被害者側にも裁量が認められる「被害者請求」を利用すべきです。

また、事前認定か被害者請求か、どちらがよいのかを迷ったときには、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談すれば、さまざまな事情を考慮したうえで、どちらが適切なのかを判断してもらえるからです。

実際に弁護士が被害者の方からご相談をお受けするときには、被害者請求が適切な事案が多いです。

被害者請求は、確かに手間がかかります。しかし、弁護士が手続を代行することもできますし、弁護士にお任せいただければ、事前認定をするのと同じくらい、被害者の方の手間は軽減されます(なお、自賠責損害調査事務所からレントゲンなどの画像提出の要請があった場合には、被害者の方に病院から入手をしていただきます)。

適切に、且つより高い等級を得るためには、事前認定を利用する前に、まずは一度、交通事故に強い弁護士にご相談ください。

5.事前認定で期待した結果が出なかった場合の対処方法

事前認定を利用すると、思ったような等級が認定されないことや、そもそも後遺障害が認められず、「非該当」になってしまうこともあります。

(1) 異議申立を行う

その場合には、後遺障害認定結果に対し、「異議申立」をすることができます。
異議申立の申請先は、もともと等級認定を行った加害者の自賠責保険です。そこで、異議申立をするときにも、事前認定か被害者請求かを選ぶことができます。

ただ、認定機関が同じなので、一度目と同じ方法で手続をすすめても、結果を変えることは難しいです。一度目の請求の際に事前認定を利用して失敗したのであれば、異議申立の際には被害者請求を利用しましょう。そして、新たな立証資料を加えることが必要です。

具体的には、医師に医療照会などを依頼して、前回問題となった部分を補強しましょう。そして、不足している検査がないか確認し、そういったものがあれば適切な検査を受け資料を集め、万全の対処をとりましょう。

医師に依頼して、被害者に有利な内容の意見書を作成してもらうことなども考えられます。

被害者の方ご自身ではどのような資料を集めたらよいのか、もしくは、どのような主張を行ったらよいのかが分からない場合には、弁護士が適切なアドバイスと指示を行います。

ご自身で事前認定を利用して請求していたケースでも、異議申立の手続からは、弁護士が代行して被害者請求に切り替えて、手続をすすめることも可能です。

(2) 異議申立が認められなかった場合の対処方法

異議申立をしても、後遺障害が認定されなかったときには、自賠責保険・共済紛争処理機構というADR(裁判外の紛争解決機関)を利用して等級認定を目指すこともできます。

それでも認められない場合、最終的に訴訟をすると、裁判所に後遺障害の認定をしてもらえる可能性はあるので、諦める必要はありません。

泉総合法律事務所では、被害者請求や異議申立、裁判などのさまざまな方法により、高い等級の後遺障害認定を受けてきた実績が豊富にありますので、是非ともご相談ください。

6.まとめ

後遺障害認定手続きの際、当然のように事前認定を利用される被害者の方もたくさんいらっしゃいますが、事前認定を利用すると、上で述べたとおり、適切に後遺障害等級が認定されない可能性も高くなります。

よほど確実に等級認定を見込めるケース以外では、あまりおすすめの方法ではありません。

より確実に後遺障害の認定を受けたいのであれば、被害者請求が適していることが多いです。

事前認定か被害者請求かを迷っていらっしゃる方や、ご自身で事前認定を利用したが認定を受けられず異議申立をしたいという方は、是非とも泉総合法律事務所にご相談ください。ご相談内容に応じた適切なアドバイスをさせていただきます。

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