異時共同不法行為-治療が終わっていない間に別事故が起きてしまった
泉総合法律事務所の弁護士が担当したいくつかの案件の中で、治療が終わっていない間に別事故が起きてしまった、というケースがありました。
これは、「異時共同不法行為」と呼ばれるものです。
異時共同不法行為とは、例えば、交通事故において、1事故目の通院中に2事故目が発生してしまい、その結果1事故目と同じ個所を負傷してしまった場合のことをいいます。
この場合、各事故や受傷をどのように扱っていけば良いのでしょうか。
今回のコラムでは、異時共同不法行為の場合の損害賠償はどうなるのか、そして、異時共同不法行為となってしまった場合、被害者としてどのような点に気を付けなければならないかという点をお伝えいたします。
1.異時共同不法行為とは
異時共同不法行為については、抽象的には、「1事故目の通院中に、2事故目が発生してしまい、その結果1事故目と同じ個所を負傷してしまった場合」です。
仮に、1事故目については頚椎(首)のみ、2事故目については足の打撲ということであれば、ここでいう異時共同不法行為の話にはならないと思われます。
損害が共通している部位があると、1事故目としては強制的に対応終了となり、2事故目の治療が開始します。
2.裁判での考え方
「異時共同不法行為」というのは、法律上出てくる用語ではありません。
法律上は、共同不法行為(民法719条)というものがありますが、「異時共同不法行為」と言えるような様態の場合、必ずしも法律上の共同不法行為と認定されないのです。
法律上の共同不法行為が認められるのであれば、共同不法行為者である1事故目・2事故目の加害者は、被害者に対し、連帯して損害賠償をする義務を負います。ですから、被害者は、どちらの加害者に対しても入通院慰謝料などの損害賠償を満額請求することができます(二重払いを受けられるわけではありません。)。
しかし、現在の裁判実務では、全く別の日時場所であって、時間的や場所的に接着していない場合、共同不法行為と認定しないことが多いです(客観的関連共同性という共同不法行為の要件が満たされないため)。
となると、被害者の不利益となるのではないかという懸念が出てくるかもしれませんが、この点について、裁判所は「寄与分」という概念を持ち出してきます。
つまり、異時共同不法行為の場合、1事故目の保険会社と2事故目の保険会社との間で、2事故目以降の損害に与えた影響を考慮の上、割合に按分して損害額を認定するということが通常なのです。
例えば、以下のような場合で考えてみます。
【1事故目 平成29年1月1日】
頸椎捻挫
場所:北海道 保険会社:A社治療費:25万円
休業損害等:25万円
慰謝料:50万円損害賠償額計:100万円
【2事故目 平成29年4月1日】
頸椎捻挫・腰椎捻挫
場所:東京都 保険会社:B社治療費:50万円
休業損害等:50万円
慰謝料:100万円
後遺障害部分:200万円(頚椎捻挫の神経症状で14級)損害賠償額計:400万円
1事故目と2事故目の寄与分が3:7だったとしたら、2事故目(損害賠償額計:400万円)の損害について、A社120万円:B社280万円であり、1事故目と合計してA社220万円(100万円+120万円)、B社は2事故目のみ280万円ということになります。
3.保険会社の扱い
(1) 自賠責での考え方
ややこしいことに、自賠責保険においては、1事故目と2事故目それぞれ一枠ずつ使えます。
具体的には、例えば先述の事例の14級の後遺障害により、自賠責保険からは74万円×2の150万円が支給されることになります。
もっとも、自賠責保険から下りる金額は、既払い金扱い(損益相殺の対象)になり、加害者らへの損害から控除されることになります。
ただし、2事故目に関し、当方の過失割合が大きい際は、2枠使えたことにより、裁判基準の損害全て賄える可能性もあります。
この辺りの計算は複雑ですので、気になる方は保険会社に確認をすると良いでしょう。
[参考記事]
後遺障害14級の慰謝料相場と逸失利益の計算方法
(2) 任意保険会社の扱い
先述の通り、通常は、2事故目発生に伴い、1事故目は強制的に対応終了となることが多いです。
そして、2事故目の任意保険会社が、2事故目以降の部分について、すべて担当することになります。
そうすると、2事故目以降の部分については、2事故目の損保とのやり取り・示談だけですべて終了します。
その後は、任意保険会社間での寄与分のやり取りになります。交通事故の被害者が何か特別な手続き申請や交渉を行う必要はありません。
1事故目と2事故目の保険会社が別であるという場合には、それぞれの保険会社が、自社で扱っている事故以外の事故については把握していないというケースもあります。
その時は、必ず各保険会社に事情や事故様態を伝え、間違っても重複請求をしないようにしてください。
重複通院などが判明してしまうと、モラルハザード案件として、訴訟でしか解決できなくなってしまうということもあり得ます。過剰診療等をしている場合には、請求認容額が相当減ってしまうこともありますし、治療費や休業損害等の既払い金額によっては不当利得返還請求をされることもあり得るところです。さらに、態様によっては詐欺になってしまうこともあり得ます。
危険性が高いので、「よくわからない」といった場合には、専門家に聞いてから行動した方が良いでしょう。
4.まとめ
異時共同不法行為は、示談で終わる場合には保険会社間の処理で済んでいます。
それ故に、情報が少なく、悪意がなくても、後から見て間違った行動をしてしまうということもあり得ます。
このような場合には、早めに専門家に相談しておいた方が望ましいでしょう。
交通事故で何かお困りの方は、泉総合法律事務所の無料相談をぜひご利用ください。