「けがで立ち会えなかった…」実況見分をやり直すことはできるのか?
実況見分は、事故当時の当事者や車の位置関係、目撃者の証言など、事故状況を明らかにする目的で警察または検察が事故現場で実施するもので、事故の内容を証明する証拠として後の損害賠償手続きに大きな影響を及ぼします。
交通事故に突然遭遇したら、その精神的ショックで誰でも冷静ではいられません。
そんな事故直後の実況見分では、正確な説明ができなかったり、警察の説明を聞き間違えたりして、事実と異なる実況見分調書が作成されてしまうことも実際にあるようです。
また、けがの治療を優先して、実況見分に立ち会えない場合もあるでしょう。
では、実況見分はやり直してもらうことが可能なのでしょうか?
今回は、実況見分に納得がいかない場合にどのように対処すればいいのかを解説します。
1.実況見分をやり直してもらうことができるか
(1) 原則、実況見分のやり直しはない
実況見分そのものは、一度行われ実況見分調書が作成された時点で終了します。
実況見分調書は、事故直後の実況見分で収集された情報を記録する書類です。たとえ被害者が実況見分に立ち会えずにやり直しを請求しても、警察や検察が応じることはなく、基本的にやり直しはできないのです。
ですから、実況見分調書の内容に納得がいかないときには、署名捺印をしてはいけません。実況見分調書が有効なものになるには、事故当事者の署名捺印が必要だからです。
求められるままに署名捺印してしまうと、その実況見分調書が有効な証拠となり、事実と異なる不利な内容であっても取り消すことができなくなります。
(2) 実況見分は捜査機関の証拠収集活動である
交通事故における実況見分は、事故当時の当事者や車の位置関係、目撃者の証言など、事故状況を明らかにする目的で警察または検察が事故現場で実施するものです。
原則、当事者立会いのもとで行われますが、けがの状態によっては当事者抜きで行われることもあります。
実況見分調書は実況見分で得た情報を文章で記述しますが、図面や現場の写真等を添付して作成されます。
これらは事故の状況を証明するものですから、事実が正確に記載されていなければなりません。
2.実況見分のやり直しが可能な場合があるのか?
(1) 警察が認めた場合は、実況見分やり直し
先ほども述べたように、実況見分に被害者が立ち会わなくてもやり直しの請求が認められることはほとんどありません。
唯一やり直しの可能性があるのは、実況見分調書に明らかな問題点がある場合や、被疑者が事故の発生状況の供述を変更した場合など、警察が必要性を認めた場合です。
この場合の被疑者とは、一般に交通事故の加害者と言われる当事者なかでも、道路交通法に重大な違反があり刑事訴追の可能性がある加害者のことです。
被疑者は警察や検察の取り調べを受けますから、そこでの供述が後述する供述調書として証拠採用されるのです。
(2) やり直しの可能性があるケース
被害者のけがが重大で救急搬送された場合、相手方当事者と警察とで実況見分が行われます。その後日、実況見分の内容について被害者の確認が求められるのです。
そこで、実況見分調書と異なる事故状況を被害者が主張し齟齬が生じた場合に、両当事者を含めた警察による実況見分が再度行われることがあります。
ただし、交通事故の現場処理においてこのようなケースはごくまれです。被害者のけがが長期的に回復しない場合を予測して、警察は被害者の立ち会いを不要と判断するからです。
自身が主張する事故状況をきちんと認めさせたい、調書の内容を訂正したいと考える被害者は、警察にけがが回復したあとの再見分を希望し、粘り強く交渉することが大切です。
3.実況見分調書を確認しよう
実況見分が終了したら、実況見分調書を取得し内容をきちんと再確認して、どこがどのように事実と異なるのかを明らかにしましょう。
実況見分調書に明確な問題点を発見したら、署名捺印を拒否しその理由もきちんと警察に伝えましょう。
では、肝心の実況見分調書を取得するにはどうすればいいのでしょうか?
4.実況見分調書を確認する方法
実況見分調書は警察署で作成された後、検察庁へ送られます。検察官が加害者を起訴するかどうかを判断するための資料だからです。
(1) 状況によって変わる実況見分調書の請求先
事故の捜査段階によって、実況見分調書を取得できるかどうかや、その請求先が変わります。
事故の捜査段階 | 実況見分調書の取得 | 請求先 | |
捜査中 | 原則非公開であるため、取得できない | ||
---|---|---|---|
捜査が終了し被疑者が不起訴 | 取得できる | 所轄検察庁 | |
被疑者が起訴 | 起訴後、裁判までの間 | 管轄の検察庁 | |
裁判中 | 公判中の裁判所 | ||
裁判の判決が確定した後 | 検察庁 |
(2) 弁護士による取得方法
上記のような手続きを踏むことで実況見分調書を取得できる場合があるのですが、そもそも警察署が被害者本人からの問合せに応えてくれないケースもあります。
その場合は、弁護士でなければできない手続き(弁護士法の23条照会)で実況見分調書を取得することになります。
また、取得できたとしても、一度作成された実況見分調書を作成し直してもらうことはとても難しいと言わざるを得ません。
そのようなときは、弁護士に相談してみることをおすすめします。
5. 供述調書はもう一つの重要な証拠となる
(1) 供述調書とは
実況見分では、実況見分調書に記載する情報のほか、供述調書が作成されることもあります。
交通事故における供述調書も事故の状況を記録する書類ですが、実況見分調書が事故現場における検証結果であるのに対し、供述調書は、事故の当事者と目撃者から聞き取りを行いその供述内容をまとめたものです。
立会いができなかった当事者には、あとから警察署で聞き取りを行うこともあります。
供述調書は、裁判などで実況見分調書だけでは過失割合の認定が難しい場合や、示談交渉において互いの主張の齟齬があった場合に、重要な証拠となり得ます。
このように、実況見分調書と供述調書は、事故の内容を証明する証拠として後の損害賠償手続きに大きな影響を及ぼします。
(2) 実況見分調書と供述調書は過失割合を決める基準となる
実況見分調書と供述調書は、損害賠償額を決める指標となる過失割合を決定する基準となります。どちらにどれくらいの非があったか、責任の重さを分配して損害賠償額に反映させるのです。
ですから、事実に基づいていない、あるいは、事実が捻じ曲げられている、供述した内容と異なるなど、記録されたものがおかしいと感じたら、実況見分調書と供述調書の記載内容を承諾してはいけないのです。
6.供述調書を変更したい場合
(1) 原則、供述調書は修正されない
既に作成された供述調書は原則、修正されません。事故の証拠が簡単に書き換え可能となることの方が問題だからです。
修正を希望する場合、通常は新たな供述調書を作成し、要求する修正箇所と修正する理由が録取されますが、調書の内容そのものが書き換えられることはありません。
(2) 重要な供述には変更の可能性がある
ただし、事故の核心となる供述の重要な部分を変更する場合には、供述調書の取り直しが可能となり新たに作成されることがあります。
例えば、被疑者調書で事故の発生状況の供述を変更した場合です。「青信号で直進した」と供述していたのが「信号は黄色から赤色に変わるときだった」に変更するようなことです。
それでも供述調書の取り直しができない場合には、被害者自身で供述書や上申書を作成して提出することを考えましょう。
上申書は法的な手続きを不要とし、警察や公安委員会などに申し立てを行う際に提出する文書のことです。弁護士などに専門的なアドバイスを受けるとよいでしょう。
(3) 実況見分に立ち会えなかった場合は特に注意
被害者がけがを負い緊急搬送されすぐに供述が取れない場合には、加害者や目撃者の供述を先に聴取します。被害者の供述調書は後日警察が取りにくるのです。
被害者ご自身の認識通りに正しい供述調書を作成してもらうことが理想ですが、他の供述との食い違いがあると警察は聴取済の供述で押し切ろうとすることも少なくないのです。
供述調書の内容に納得がいかない場合は署名押印をせず、納得がいくまで供述調書の訂正に応じてもらうように働きかけましょう。
7.適正な過失割合にするために何ができるか?
(1) 虚偽の調書を作らせない
実況見分調書や供述調書はその内容をしっかりチェックし、事実と異なる内容が記載されていたら署名捺印を拒否し、実況見分のやり直しを要求しましょう。
事故から時間が経過すると事故現場での実況見分をやり直すことは現実的に難しくなりますが、これら調書に虚偽の内容を記載させないことは、自身の過失割合を納得のいくものにするうえで非常に重要です。
(2) 弁護士の助力も必要
実況見分調書や供述調書は警察が作成しますが、警察は被害者による実況見分のやり直しの要求を拒否することができます。
実況見分調書や供述調書を取り寄せ内容を精査しても実況見分をやり直してもらえなければ、過失割合が変更されることはありません。
そのため、相手方の保険会社との交渉も示談が決裂し裁判となってしまうこともあるでしょう。
そのような場合には、交通事故に詳しい弁護士などに相談することをお薦めします。
8.まとめ
実況見分は当時者双方の立ち会いのもと行われるのが原則ですが、けがのため立ち会えない当事者に不利な調書が作成される可能性は高まります。
また、実況見分のやり直しを警察に認めさせることが容易ではないのも事実です。
しかし、実況見分調書や供述調書に不満がある場合はきちんと訂正を求め、適正な過失割合で示談するようにしましょう。
交通事故の調書に関する問題でお困りならば、弁護士に相談してみてください。泉総合法律事務所であれば、交通事故に強い弁護士が責任もって最後までサポートさせていただきます。