休業損害はいつまでもらえるの?交通事故後に仕事ができず不安な方へ
【この記事を読んでわかる事】
- 交通事故被害者が受け取れる「休業損害」とは?
- 休業損害を受け取るための条件はあるのか?
- 休業損害はいつからいつまで貰えるのか?
「交通事故被害に遭ってしまい、治療の日々。会社も休まなければならず、収入が絶たれてしまう…」
人身事故の被害者の方は、事故の怪我による直接的な損害だけでなく、収入のストップなど派生的な損害も被ることになります。
事故がなければ得られたであろう収入については、「休業損害」として保障してもらえます。しかし、その休業損害をいつまで支払ってもらえるのか、どのくらい受け取れるのか、不安になる方も多いはずです。
今回は、休業損害の概要、支払期間、その他に知っておくべきことを解説いたします。
1.休業損害の基本
(1) 休業損害とは
休業損害とは、事故で休業せざるをえなくなった分の収入保障のことを指します。
交通事故被害に遭い怪我をすると、治療に専念しなければならず、入院や治療のため働くことができません。そのため、この間の生活費を保障する制度が必要ということで、休業補償という概念が生まれました。
強制加入である自賠責保険はもちろん、任意保険に加入していればプラスの補償が得られます。具体的な金額としては、原則として1日あたり6,100円がもらえます。
「休業損害」と「休業補償」を同じものと考えている方も多くいらっしゃいますが、この2つは内容が異なり、全く違うものです。
「休業補償」とは、業務災害によるけが、病気の治療のために働くことができなかった日に対し、平均賃金の6割を保障する制度です。休業損害と似ているように思いますが、休業損害は自賠責法で定められた制度であり、休業補償は労働基準法で定められた制度であるという違いがあります。
この2つの制度は国が定めた法律によって支給されることになっていますが、原則として二重に支給されないようになっています。
(2) 休業損害の対象者
休業損害の対象者は、「収入の減少」が想定できる人となります。
そうすると、サラリーマンや自営業者などはこれに含まれそうですが、主婦や学生は対象とならないとも考えられます。
しかし、自賠責保険の支払基準(金融庁・国土交通省)によると、「家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなす。 」(第2の2(1))と規定されています。
そのため、専業主婦についても休業損害が支払われます。家事労働については、金銭に換算できるとものとして最高裁でも認められているのです。
また、長期的に継続してアルバイトをして収入を得ていた場合には、学生でも例外的に休業損害の補償が受けられることになっています。
さらに、無職の方でも、内定先が決まっていた場合など、収入が得られることが確定していた場合には、休業損害が保障される可能性があります。
この点は、一度専門家にご相談してみてください。
無職や、学生でも短期的にアルバイトをしていただけの方、年金受給者、生活保護受給者、不動産オーナーなどは収入源が観念できないとされています。
年金受給者や生活保護受給者は国から給付されるものですので、収入とみなされません。また、不動産オーナーの場合は、休んでいても家賃収入等があり、収入が減少しないと考えられているためです。
(3) 休業補償の受給要件
では、休業補償の受給要件はどのようになっているのでしょうか。
自賠責の支払規定をみてみると、「休業損害は、休業による収入の減少があった場合」に休業補償が得られることのみ規定されており、具体的にどのようなケースで受給が行われるのかについては定かではありません。
しかし、実際上は「必要性」と「相当性」が要件とされています。
必要性とは、怪我が休業を必要とする程度の状態であること、相当性とは、休業として相当な期間であるものであることを指します。つまり、無制限に認められるわけではありません。
これらについては、治療状況や怪我の程度から医師の所見をもって判断していくことになります。
つまり、休業補償における必要性と相当性は、医師による判断が決め手となります。
病状や怪我の内容によっても、どの怪我の治療にどのくらいの期間が相当なのかは異なります。
したがって、実際の医師の診断を参考に休業補償が得られるのか、休業がどのくらいの期間になるのかを明らかにしていくのが適切です。
[参考記事]
休業損害証明書の書き方と嘘を書いてはいけない理由
2.いつまで休業補償がもらえるのか
(1) 一般的な休業補償の期間
では、一般的にいつまで休業損害をもらうことができるのでしょうか。
休業損害は、先にお話した通り、必要性と相当性がある間は休業損害を請求できることになります。
そして、休業損害の期間については、一般的に怪我の状態や種類ごとに必要性・相当性の判断が変わってくるともいえるのです。
そのため、ここでは①傷害の程度、②怪我の種類別に分けて考えていきたいと思います。
傷害の程度からみる保障期間
まず、完治を前提に考えると、交通事故の日〜仕事に復帰するまでの期間の休業損害が保障される可能性があります。
次に、治療をしても怪我が完治せず、後遺症が残ったケースでは、交通事故の受傷日〜症状固定までの日数の休業損害が支給される可能性があります。
ちなみに、死亡事故の場合は、交通事故〜死亡までの期間までを休業損害として請求できます。重症で運ばれ、しばらく闘病生活をした後に亡くなった場合が代表例です。
怪我の種類別からみる保障期間
怪我の種類ごとに、一般的な治療期間から休業損害の期間を考えることもできます。
怪我から症状固定時までが休業損害の保障期間となります。
まず、交通事故に多いむち打ち症です。むち打ち症については、一般的に3ヶ月〜6ヶ月程度が治療期間と考えられています。
状態にもよりますが、これが休業損害を得られる可能性のある期間と考えることができます。
次に、骨折の場合、完治までは一般的に事故から6ヶ月以上はかかります。
手術を行う場合は1年程度かかる場合もあり、骨の癒合時を症状固定として診断されることが多いようです。
最後に、大きな事故で脳に損傷が出てしまった場合(高次脳機能傷害)は、事故から1年半〜2年程度で症状固定とされることが多いようです。
この期間が休業損害の保障されうる期間と考えられます。
(2) 症状固定後に休業損害は支給されない
症状固定とは、治療してもこれ以上は良くならない状態のことを指します。
医師の判断によって症状固定と診断された場合には、後遺傷害認定等級認定を受けることになります。
そして、この時点で、完全に休業損害も打ち切られてしまいます。
症状固定後に示談交渉が長期化すると、休業損害がもらえないため、生活が苦しくなってしまうケースも見受けられます。
しかし、症状固定後は一切の休業等に関する保障がなくなってしまうわけではありません。後遺障害等級認定が行われると、逸失利益の損害賠償請求が認められます。
逸失利益とは、交通事故がなければ得られたであろう利益のことを指します。
つまり、後遺傷害の影響でこれまで通りの働き方ができなくなった場合、不便を感じるようになった場合に対する保障です。
[参考記事]
後遺障害・死亡事故の逸失利益の計算例|もらえない原因を解説
(3) 打ち切りへの対抗策
保険会社から治療期間がある一定程度経つと、打ち切りの打診をされることがあります。むち打ちの場合だと、3ヶ月くらいを目安に打診が行われるといわれています。
では、休業損害の打ち切りの打診に対し、被害者ができることはあるのでしょうか。
休業損害の打ち切りが打診された場合は、保険会社と交渉し、治療継続が必要であること、休業補償が必要であることを説明していかなければいけません。
しかし、打ち切りが検討されている場合は、被害者が保険会社の担当者と交渉しても、応じてくれないケースもあります。
そのため、できるだけ早く専門家である弁護士に相談すべきです。
弁護士が介入した場合は、弁護士から主治医に診断書の作成を依頼し、休業期間の延長を含めた交渉を任意保険会社と行います。
弁護士が介入しても打ち切りをされてしまうことはありますが、弁護士はその後の逸失利益を正当な額で受け取るためのサポートについても行うことができます。
3.その他、休業損害について知っておくべきこと
(1) 有給消化でも休業損害をもらうことはできる
よくある質問として、「有給で給料は入っているけど、休業損害ももらえるの?」というものがあります。
この点は安心してください。有給を消化中で、給料が入ってきている場合でも休業損害は受け取れます。
なぜなら、有給には財産的価値があるからです。
有給は労働者に与えられた正当な権利であり、これを事故の怪我による治療で消化せざるをえなくなったことは「損害」といえます。
実際に自賠責の支払規定でも、「休業による収入の減少があった場合又は有給休暇を使用した場合に」との規定があります。
(2) 休業補償と慰謝料は別々に請求可能
交通事故被害では、交通事故により入通院をしなければいけなくなったことに対する「慰謝料」を請求することができます。
これは、あくまで精神的苦痛に対する慰謝料であり、財産的損害に関するものではありません。そのため、実際に収入が得られなくなったことに対する保障である休業損害とは別物です。
この点を一緒に考えてしまい、休業補償をもらうと慰謝料を請求できなくなってしまうのでは?と考えてしまう人がいますが、これは間違いです。
休業損害と慰謝料はそれぞれ請求することができます。
[参考記事]
交通事故の慰謝料はいつ振り込まれるのか?
4.治療費・休業損害打ち切りを打診されたら弁護士に相談を
休業損害は、治療で休んでいる間の生活補償になるもなるため、被害者にとっては大変重要な保障の1つです。休業損害や治療費の支給があるからこそ、なんとか生活を続けていけているという方も多いはずです。
そのため、打ち切りが打診されてしまった場合には、「これからどうしよう…」と不安になってしまうこともあると思います。
しかし、打ち切りが打診されても諦めないでください。弁護士に依頼し、治療の延長が受け入れてもらえることもあります。
また、打ち切られてしまった場合でも、法的措置をとってできる限り治療と生活を続けていけるような対策をとりましょう。
休業損害についてお悩みの方は、できるだけ早く、泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。