「赤い本」入通院慰謝料計算【2020年版】
交通事故で最も問題となるのは、損害賠償金、いわゆる慰謝料を含む示談金です。
その損害賠償金の一定の基準を示した本が通称「赤い本」と呼ばれるものです。
ここでは、「赤い本」それ自体と、最新版である2020年版を使用し、損害賠償金の中でも特に慰謝料にスポットを当てて、その計算方法・決まり方を説明します。
1.赤い本とは
正式名称「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」は、交通事故の損害賠償金の計算方法を詳細に解説した本であり、冊子の装丁が赤いため通称「赤い本」と呼ばれています。
「公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部」が編集・発行しており、様々な裁判例などを基に交通事故の損害賠償金について詳解しています。
(1) 青い本との違い
同様の本に、「青い本」と呼ばれるものもあります。
正式名称を「交通事故損害額算定基準」というこの本は、公益財団法人日弁連交通事故相談センターの研究研修委員会が編集しており、同センターの本部が発行しています(赤い本が毎年発行されるのに対して、青い本は、2年に1回の発行です)。
赤い本に対して、こちらは装丁が青いため、「青い本」、「青本」と呼ばれています。
編集者の違いからお分かりの通り、赤い本が東京地方裁判所での運用を想定した内容、青い本は日本全国を想定した汎用性のある内容になりますが、現状では、地方で赤い本を使用してもほとんど問題ないでしょう。
いずれの本に記されている慰謝料の算定基準も「弁護士基準」です。
ただし、慰謝料について、赤い本は、東京地方裁判所での運用を前提としているため、具体的な金額を提示しているのに対して、青い本は、全国を対象とした編集となっているため、額に幅を持たせているのが大きな特徴です。
では、「弁護士基準」とはどのような基準なのでしょうか?
(2) 赤い本での慰謝料算定基準(弁護士基準)
慰謝料の算定には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準があります。自賠責基準から順に額が大きくなります。
- 自賠責基準
自賠責保険が、保険金を支払う額を決めるための基準です。人身事故における最低限の補償を定めた自賠責保険の基準であるため、3つのうちで最も低額になります。 - 任意保険基準
任意保険会社が保険金を提示する際の基準であり、あくまで任意保険会社内部での基準です。被害者が、自分で加害者側の保険会社と交渉する際に使用される基準です。 - 弁護士基準
裁判例などに基づいて作成された基準であり、裁判所でも用いられる基準です。弁護士は、この基準をもとに保険会社と交渉することになります。
[参考記事]
交通事故の慰謝料は、弁護士基準の計算で大きく増額!
では、実際に、赤い本の弁護士基準を用いて、入通院に対する慰謝料の計算をしてみましょう。
ただし、ここで挙げる慰謝料の額は、すべて相場であり、個別の事故の慰謝料額については、事故態様など様々な事情を勘案して決せられます。
2.赤い本による入通院慰謝料の計算方法
下表は、赤い本の入通院慰謝料別表のⅠとⅡになります。
他覚所見のないむち打ちや、軽い打撲、軽い挫創などについては、別表Ⅱを使用して計算し、それ以外の傷害については、原則として別表Ⅰを使って計算するとしています。
(1) 軽い打撲を負い1ヶ月間通院した場合の慰謝料
軽い打撲で通院した場合に通院慰謝料を計算する際には、別表Ⅱを使用します。
別表Ⅱの入院の列と通院の「1月」の行が交わる数字が、「19」です。
したがって、軽い打撲で1ヶ月通院した場合の通院慰謝料の弁護士基準の相場は、19万円となります。
(2) 骨折で1ヶ月間入院・3ヶ月間通院したときの慰謝料
骨折で1ヶ月入院・3ヶ月通院した場合の入通院慰謝料を計算するには、別表Ⅰを使用します。
入院の1月の列と通院の3月の行が交差する数字が115なので、骨折で1ヶ月入院、3ヶ月通院したときの入通院慰謝料は、115万円となります。
(3) 骨折で1ヶ月7日間入院し、3ヶ月14日間通院した場合の入通院慰謝料
しかし、入院や通院は、1ヶ月や3ヶ月といった、ちょうどときりのよい日数で終了するわけではありません。
入院・通院期間に、1ヶ月に満たない日数が含まれる場合にはどのように計算するのでしょうか?
骨折で、1ヶ月と7日入院し、3ヶ月と14日通院した場合(入院・通院合計4ヶ月21日間)について計算してみましょう。
1ヶ月7日分の入院に対する慰謝料の計算
37日分の入院に対する慰謝料は、次の計算式で求めることができます。
入院1ヶ月の慰謝料額 53万円
入院2ヶ月の慰謝料額 101万円
53万円 + (101万円 ― 53万円)× 7日/30日= 642,000円
3ヶ月14日分の通院に対する慰謝料の計算
次に、通院に対する慰謝料を計算します。
通院に対する慰謝料は、まず、入院当初から通院が終了するまでの通算4ヶ月21日分の通院慰謝料を計算し、そこから、入院期間1ヶ月7日分を日割り計算し、差し引くことで計算します。
通院1ヶ月の慰謝料額 28万円
通院2ヶ月の慰謝料額 52万円
通院4ヶ月の慰謝料額 90万円
通院5ヶ月の慰謝料額 105万円
入院当初からの4ヶ月21日日分の通院に対する慰謝料額
90万円 + (105万円 ― 90万円)× 21日/30日 = 1,005,000円
入院期間中1ヶ月7日分の通院に対する慰謝料額
28万円 +(52万円 ― 28万円)× 7/30日 =336,000円
4ヶ月21日分の通院に対する慰謝額から入院期間中の1ヶ月7日分を差し引く
1,005,000円 ― 336,000円 = 669,000円
入通院慰謝料額合計
642,000円 + 669,000円 = 1,311,000円
(4) 入通院慰謝料を計算するうえで注意すべきポイント
入通院慰謝料を計算するにあたり注意すべきは、次の事項を考慮する場合があることを赤い本は明記していることです。
- 通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ、実通院日数の3.5倍程度、むち打ち症で他覚所見のない場合等は、実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。
- 被害者が幼児を持つ母親であったり、仕事等の都合など被害者側の事情により特に入院期間を短縮したと認められる場合には、金額を増額することがある。
- 傷害の部位、程度によっては、別表Ⅰの金額を20%~30%程度増額する。
- 生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰り返したときなどは、入通院期間の長短にかかわらず、別途増額を考慮する。
3.赤い本の弁護士基準で計算する後遺障害慰謝料
交通事故で、それ以上治療しても症状が改善しなければ、医師は、症状固定と判断します。
後遺障害等級の認定を受けることで、その後の損害賠償を請求することが可能になります。
後遺障害慰謝料の額は、等級に応じた額が定められており、等級が1つ違うだけで、額も大きく変わります。
後遺障害等級 | 赤い本の後遺障害慰額 |
1級 | 2800万円 |
---|---|
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
泉総合法律事務所では、後遺障害慰謝料についても、多くの解決事例があります。
是非、こちらもご覧ください。
【参考】解決事例
4.赤い本の死亡慰謝料
赤い本による死亡慰謝料の相場は、以下の通りです(受け取るのは被害者の遺族となります)。
事故により死亡した人 | 赤い本の死亡慰謝料額 |
一家の支柱 | 2800万円 |
---|---|
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万円~2500万円 |
死亡慰謝料は、死亡した方の属性により金額が異なります。
一家の支柱とは、被害者の収入によって、被害者の家族が生計を維持していた場合です。
母親・配偶者は、家族の家事を行っていた主婦、子を持つ母親などです。
3番目のその他には、独身の男女、子供、幼児、高齢者などが含まれます。
5.まとめ
ここまで、赤い本と赤い本の弁護士基準の慰謝料額について解説しました。
弁護士基準での慰謝料は、弁護士が、裁判までを見据えて保険会社と交渉するからこそ獲得できるものであり、被害者ご本人が、保険会社と交渉して、弁護士基準の慰謝料を手に入れるのは、残念ながらとても難しいのが現状です。
泉総合法律事務所には、保険会社との交渉以外にも、後遺障害認定の手続きなどについても経験豊富な弁護士が勢揃いしています。
もし交通事故でお悩みなら、是非一度、ご相談ください。