加害者・保険会社に示談を急かされた!どう対応するのが正しいのか?

【この記事を読んでわかる事】
- 加害者や加害者側の保険会社は何故示談を急かすのか?
- 示談を急かされた場合、どうするのが最善策なのか?
- 示談交渉が不安な時に弁護士に依頼するメリット
交通事故の示談交渉において、被害者としてはもう少しじっくり話し合いたいのに、「示談成立を急がされる」と感じることは少なくありません。
弁護士が「加害者側が示談交渉を急いでいませんでしたか?」と被害者の方に質問してみても、多くの被害者が「急がされたと感じる」と答えるようです。
「問題が早く解決するのは良いことではないか」と考える人もいるかもしれませんが、交通事故の早期示談は被害者にとって不利となることもあるので注意が必要です。
そこで、今回は、加害者や保険会社が示談を急ぐ理由や、示談を急がされた際の正しい対応について解説します。
1.加害者側が示談交渉を急ぐ理由
交通事故の示談の成立を急かされるときには、加害者本人や加害者側の保険会社の思惑が背景にあることが少なくありません。
(1) 加害者の事情
人身事故では、加害者が刑事処分に問われる場合があります。
事故の状況にもよりますが、交通事故の加害者が問われうる罪には次のものがあります。
- 過失運転致傷罪
- 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免除罪
- 緊急措置義務違反
- 危険運転致死傷罪
- 殺人罪
- 傷害罪
示談の成立は加害者の刑事処分の有無や程度に大きく影響します。
被害の程度が重大でない場合には、示談成立によって不起訴の可能性が高くなり、起訴された場合であっても量刑が軽くなる可能性が高くなるからです。
そのため、人身事故の加害者には示談を急ぐニーズが一般的にあるといえます。
(2) 保険会社の事情
交通事故の示談交渉においては、加害者本人だけでなく、損害賠償金の支払いを実際に負担する保険会社の存在を忘れるわけにはいきません。
保険会社にとっては、示談交渉を急ぐことで次のようなメリットが生じます。
- 治療費が少なくなる
- 慰謝料が少なくなる
- 被害者よりも交通事故についての知識経験が豊富な保険会社にとっては、早期示談が有利であることが多い
営利企業である保険会社にとっては、示談金(損害賠償)はできるだけ低く抑えたいと考えるのが通常です。
早期示談が成立すれば、治療費の負担額は少なく済みます。
示談(治療)が長引くことで後遺障害の発覚前に示談金の額を確定させられる可能性も高くなります。
また、示談が早く成立すれば、被害者側に援軍(法律に詳しい友人や弁護士)が付く前に案件を処理でき、加害者側にとって不利な事情を指摘されるリスクも軽減することができます。
さらには、示談成立の早さが保険会社の担当者の業務成績に直結している場合もあるでしょう。
2.早期示談で被害者に生じるデメリット
交通事故の示談交渉は、被害者にとっては煩わしいと感じることがあります。
被害状況によっては「早く処理して静かな生活に戻りたい」と考える人も少なくないかもしれません。
しかし、性急な示談成立は、次のようなデメリットが生じる可能性があるので、注意が必要です。
- 入通院慰謝料が下がる
- 適切な治療が受けられなくなる
- 後遺障害認定を受けにくくなる
- 示談の条件が不利になるおそれ
早期示談で生じる被害者のデメリットは、簡単にいえば、早期示談による保険会社のメリットの裏返しといえます。
早期示談は、被害者にとって「十分な治療を受ける機会」や「適切な損害賠償金を受け取る機会」を失ってしまうリスクをはらんでいます。
交通事故の損害賠償として支払われる入通院慰謝料は、ケガの状態ではなく入通院の日数に応じて算出されます。
早期に示談が成立すれば、それだけ入通院慰謝料の額は減額されてしまいます。
また、被害者としては「もう少し治療を受けたい」と感じているのにもかかわらず、保険会社から「症状固定」を求められる場合もあるでしょう。
示談交渉は症状固定の時期にまとめられるのが一般的な実務です。
示談交渉の実務において症状固定は「治療費(積極部分)の確定(打ち切り)」を意味するので、症状固定後も治療を継続するときには、被害者自身で負担する必要があります。
さらには、示談交渉を急いだことで、後遺障害の認定(後遺障害慰謝料の請求)で不利になる場合もあり得ます。
特に頸部などに傷害を受けたケースでは慎重に対応する必要があるでしょう。
これと同様に、事故状況(過失割合)の認識について食い違いがあるとき等にも、早期示談が被害者にとって不利に働く場合が少なくありません。
早期示談の多くは、被害者本人と保険会社(の担当者)とで行われることがほとんどなので、保険会社の言い分に近い形でまとまる場合が多いからです。
3.示談を急かされたときの対応
加害者や保険会社から示談を急がされていると感じたときには、どのように対応すれば良いのでしょうか。
早期示談のすべてが常に不利な示談というわけではありません。相手方から提示されている示談内容や、ご自身のケガの状況などに応じて、慎重に判断することが大切です。
(1) 加害者が急がしてくるケース
加害者本人の意向で示談成立を急がされるときの多くは、加害者の刑事処分をできるだけ軽くしたいという思惑による場合でしょう。
たとえば、示談成立によって不起訴や量刑軽減(執行猶予が得られる、罰金刑で済む)が期待されるときには、相場とされる金額よりも高い示談金が提示されている場合もあるかもしれません。
そのようなときには、早期に示談を成立させても問題ないでしょう。
また、早期示談成立を条件に、被害者にとって有利な条件を引き出せる可能性も高くなります。
他方で、示談が長引きすぎて加害者の刑事処分が確定してしまうと、加害者側が態度を硬化させる可能性もあります。
加害者本人にとっては、刑事処分が決まってしまえば、不利な条件を示談する必要がなくなるからです。
(2) 保険会社が急がしてくるケース
保険会社が示談成立を急かしてくる典型的な場合は「早期の症状固定(治療費打ち切り)」を求めてくるケースです。
交通事故による怪我の治療は、数ヶ月に及ぶ場合もあります。症状固定とは「これ以上治療を続けても大幅な症状改善が見込めない状態」のことをいいます。
たとえば、頸部損傷(むち打ちなど)のときには、治療後に「良くも悪くもならない状態」となった場合に「症状固定」の状態になったといえます。
示談交渉において「症状固定」は、積極損害部分(治療費や入通院慰謝料)の確定を意味します。
つまり、症状固定以後の治療費の保険会社からの支払いは打ち切られることになります。
この場合、症状が残ったときには、後遺障害への賠償として別に賠償金の有無や金額を取り決めます。
症状固定後も治療を継続したいというときには、治療費を被害者本人が負担しなければなりません。この場合には、健康保険や労災保険を利用することが考えられます。
ところで、交通事故による外傷の治療は、三角巾やバンドなどによる外固定での保存治療だけという場合も少なくありません。
そのため、治療費打ち切りをきっかけに、通院・治療が面倒になって疎かにしてしまう人も少なくありませんが、注意が必要です。
万が一、骨の奇形接合や関節の可動域制限といった後遺障害が残ったときに、「適切かつ十分な治療を受けていない」ことが後遺障害慰謝料の請求で不利に働くこともあり得るからです。
(3) 不安なときには弁護士に相談
交通事故の示談では、「正当で適正な補償を受ける」ことが大切です。早期の示談であっても、適切で十分な示談内容であれば、全く問題はありません。
むしろ、公平な内容の示談が早期に成立することは、被害者にとっても加害者にとっても好ましいことでしょう。
他方で、交通事故の示談内容は、算出根拠が実務的・専門的であるものが多く、一般の方が「適正な示談内容」であるかどうかを判断することは簡単とはいえません。
示談成立の時期や内容についてお困りのときや、不安に感じたときには、できるだけ早く交通事故事件の経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
4.まとめ
この記事で解説してきたように、加害者や保険会社が示談交渉を急ぐのは、さまざまな理由を背景にしています。
被害者にとっては、早期示談に応じるべき場合もあれば、提示されている内容で早期に示談した方がよい場合もあり、それぞれのケースに応じて正しく対応する必要があります。
しかし、交通事故の専門家ではない被害者の方が、示談について正しく判断することは難しい場合が少なくありません。
示談交渉についてお困りのとき、不安を感じたときには、泉総合法律事務所にご相談ください。交通事故に強い弁護士が、解決まで誠心誠意サポートさせていただきます。