飲酒運転の車の交通事故の被害者に…受けられる補償・損害賠償は?
【この記事を読んでわかる事】
- 「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の違い
- 飲酒運転の被害者となったらどんな補償を受けられるか
- 飲酒運転事故で弁護士に相談・依頼した方がよいケースとは
加害者が飲酒運転しているようなケースでは、被害者がきちんと交通ルールを守っているときでも、交通事故に巻き込まれてしまうことがあります。
飲酒運転の交通事故では、被害者死亡や、被害者に重篤な傷害・後遺症が残るような重大事故となることも珍しくありません。
飲酒事故に巻き込まれてしまったときには、どのように対応すればよいのでしょうか。また、その後の補償はきちんとしてもらえるのでしょうか。
今回は、飲酒運転の被害者の方向けに、損害賠償について詳しく解説いたします。
1.飲酒運転の種類と責任
飲酒事故は、文字通り飲酒運転による交通事故のことを言います。
飲酒運転には、「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の2種類があります。
(1) 酒気帯び運転
飲酒運転の多くは、「酒気帯び運転」と呼ばれるものです。
「血液1ミリリットル中のアルコール濃度が0.3mg以上」、または、「呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上」の状態で自動車などを運転すると、酒気帯び運転として罰せられます(道路交通法117条の2の2第3号、道路交通法施行令44条の3)。
(2) 酒酔い運転
酒酔い運転とは、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」を言います(道路交通法117条2項1号)。
酒酔い運転は、「正常な運転ができない」状態であれば、「体内のアルコール濃度に関係なく」罰せられます。
(3) 飲酒運転をするとどうなるか
飲酒運転(事故)に限らず、交通違反した場合や、交通事故を起こしたときには、次の3つの責任を負う可能性があります。
- 刑事責任:罰金や禁固・懲役刑など
- 行政責任:反則金・免許取消・免許停止
- 民事責任:損害賠償責任
下の表は、飲酒運転の際の刑事責任・行政責任について簡単にまとめたものです。民事責任(損害賠償責任)については、別に説明します。
飲酒運転の種類 | 呼気1リットルあたりのアルコール濃度 | 刑事責任 | 行政責任 |
---|---|---|---|
酒酔い運転 | 正常な運転ができないおそれのあるとき | 5年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 免許取消(欠格期間3年) |
酒気帯び運転 | 0.25mg以上 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 免許取消(欠格期間2年) |
0.15mg以上 | 免許停止90日 | ||
0.15mg未満 | なし(注意のみ) |
2.飲酒事故に遭ったときにはどうしたらよいか
飲酒事故に限らず、交通事故に遭ったときには、初期対応が非常に重要です。必ず速やかに警察へ連絡(110番通報)するようにしましょう。
また、次の点について注意しておくことも大切です。
- 事故状況をできるだけ正確に記憶・記録しておく
- 目撃者を探し、証言なども得ておく
- 加害者の情報を収集・記録(記憶に頼らず記録することが大切)
- 加害者が自動車保険に加入していれば、保険会社に連絡
3.交通事故被害の補償について
交通事故の被害者は、交通事故によって生じた損害を加害者に請求することができます。
交通事故の損害賠償として請求できる項目には、次のようなものがあります。
- 治療費
- 通院に必要な交通費(公共交通機関利用が原則)
- 入院雑費および付き添い介護費
- 休業損害
- 傷害慰謝料(ケガした場合)
- 後遺障害慰謝料(後遺障害が残った場合)
- 後遺障害逸失利益(後遺障害が残った場合)
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
(1) 損害賠償額の3つの算定基準
交通事故による損害賠償の多くは、加害者が加入している保険から支払われます。保険会社の担当者との示談交渉で支払われる賠償額が決まることが一般的でしょう。
しかし、保険会社との交渉が難航した場合や、加害者が保険に未加入であったときには、「損害賠償請求訴訟」を提起する必要が生じる場合もあります。
実際の損害賠償額を算定する基準には、「自賠責基準」、「任意保険基準」、「弁護士(裁判)基準」の3つがあります。
算出される損害賠償額は、自賠責基準による場合が最も低く、弁護士基準による場合が最も高くなります。
①自賠責基準
自賠責保険は、「最低限度の補償を確保する」ための公の仕組み(強制保険)です。したがって、算出額も低くなります。
自賠責基準による損害賠償額はあらかじめ決まっていて、休業補償は1日5,700円、傷害慰謝料は1日4,300円、傷害時の補償額は治療費込みで120万円までとなっています。
②任意保険基準
損害額が自賠責保険の上限額を超えたときには、加害者が加入する任意保険(対人賠償保険)から損害賠償が支払われます。
この際には、それぞれの保険会社が定める基準(任意保険基準)に基づいて損害賠償額(休業補償や慰謝料)が算出されます。
任意保険基準は公表されていませんが、「弁護士(裁判)基準よりも安い」とされています。
そのため、被害者が自分で保険会社と示談交渉した際には、満足のいく補償が受けられない場合も少なくありません。
③弁護士基準
弁護士基準は、まさに弁護士が保険会社(加害者)と交渉する際に用いる損害賠償額の算出基準のことです。
弁護士は、過去の裁判例などを参考に、「裁判になればどれだけの損害賠償が認められるか」ということをベースに損害賠償額を算出します。
そのため、弁護士基準を裁判(所)基準と呼ぶこともあります。
弁護士基準によって算出された損害賠償額は、任意保険基準によるものよりも高額となります。
したがって、保険会社との示談交渉で解決するケースであっても、弁護士に依頼することで十分な補償を受けられる場合があります。
任意保険基準と弁護士基準の違いについては、「慰謝料が2倍、3倍、1000万円差!?弁護士基準と任意保険基準は大違い」で詳しく解説しています。
4.弁護士に相談・依頼した方がよいケース
交通事故被害に遭ったときには、十分な補償を受けることが何よりも大切です。
飲酒事故の場合に限らず、次のようなケースでは、弁護士に相談・依頼されることが、より満足いく補償を得られることにつながります。
- 保険会社との示談交渉の負担が重く感じるとき(無過失事故の場合)
- 相手方も同じ保険会社に加入していたとき
- 保険会社の交渉に誠意を感じないとき
- 保険会社が提示してきた損害賠償額(特に慰謝料額)が適正かどうか分からないとき
- もう少し時間をかけて治療をしたいのに、治療費の打ち切り(症状固定)を宣告されたとき
- 保険会社が提示してきた過失割合に納得できないとき
- 後遺障害の等級認定を申請するとき
飲酒事故の場合の多くは、無過失事故のケースが多いと思います。無過失事故ではこちらからの支払いが発生しないため、保険会社の示談代行を利用できません。そのため、加害者側保険会社とは自分で交渉する必要があります。
他方で、こちらにも一定の過失があるときには(飲酒事故のすべてが無過失事故とは限りません)、保険会社に示談を代行してもらえます。
この場合でも加害者が加入している保険会社と自分の保険会社が同じということもありえます。必ずしも不適正な賠償額になるとは限りませんが、「同じ保険会社で不安」というときにも、弁護士にご相談ください。
(1) 飲酒運転による死亡事故・重傷事故の場合
飲酒事故は、重大事故となることも少なくありません。
飲酒事故によって重篤な傷害を受けた場合や、家族が亡くなってしまった(死亡事故)の場合には、弁護士に相談・依頼された方がよいことが少なくありません。
飲酒運転は、非常に悪質な行為です。飲酒運転には、刑事責任・行政責任ともに厳重なペナルティが科せられます。
これと同様に、民事責任においても飲酒事故の場合には、通常の交通事故の慰謝料相場よりも「高額な慰謝料」が認められる傾向があります。
また、飲酒事故の場合には、「飲酒運転の発覚を恐れて」加害者が逃亡するなどして、救護活動をしないケースもあります。
この場合には、さらに高額の慰謝料が認められます。
(2) 実際の裁判例
法律雑誌などで紹介される裁判例などを確認してみても、飲酒事故の場合には、慰謝料額が相場額よりも多く認められることが少なくありません。
下の表は、その一部をまとめたものです。
被害者の態様 | 飲酒事故の状況 | 弁護士基準による死亡慰謝料の相場額 | 実際に認定された死亡慰謝料の額 |
---|---|---|---|
54歳男性 | 酒酔い運転・センターラインオーバー・救護活動なし | 2,800万円(一家の支柱) | 本人分2,600万円、遺族分1,000万円
合計3,600万円 |
9歳小学生 | 酒酔い運転・背後からの衝突・救護措置なし | 2,000~2,500万円(子どもなど) | 本人分2,750万円、遺族分500万円
合計3,250万円 |
43歳女性 (パート主婦) |
飲酒による居眠り運転、歩行中の被害者に衝突 | 2,500万円(配偶者・母親) | 本人分2,700万円、遺族分500万円
合計3,200万円 |
実際の慰謝料額は、飲酒運転の有無だけでなく、その後の示談交渉の経緯や、加害者の反省の状況などの種々の事情を加味して総合的に判断されます。
実際に被害に遭われてしまったときに、どれくらいの請求が可能かということについては、弁護士に直接ご相談ください。
慰謝料によって家族を亡くした悲しみが治癒されるわけではありませんが、納得できる補償を受けることは、今後の生活のためにも非常に重要です。
5.まとめ
交通事故の損害賠償請求では、弁護士が介入することで、「きちんとした補償」が確保できるケースがたくさんあります。
特に、飲酒事故の場合には、高額な慰謝料が発生することが多いので、慎重に対応することが重要です。
また、死亡事故や重篤な傷害を受けたケースでは、保険会社(加害者本人)との示談交渉に伴う精神的な負担・苦痛もはかりしれません。
十分な補償をうけて、1日も早く平穏な生活を取り戻すためにも、交通事故被害でお困りの際には、泉総合法律事務所の交通事故に強い弁護士に是非ともご相談ください。