玉突き事故における過失割合と修正要素
玉突き事故とは、ある追突事故の結果として、更に追突事故が発生するような事故を言います。
たとえば、赤信号で停車していたA車とB車の後方を走行していたC車の運転手が、前方不注視のためB車に追突してしまい、その結果、B車がA車に追突してしまうような事故です。
このように、玉突き事故は、3台以上の車が関与する追突事故といえます。
こうした玉突き事故における責任の所在は、事故の当事者が3人以上となるため、複雑になることがあります。
そこで、今回は、玉突き事故における過失割合の判断について、詳しく解説します。
1.追突事故における過失割合の判断
玉突き事故というのは、どのような態様でも、つまるところ、2つ以上の追突事故が発生しているわけですから、その過失割合について考えるには、まず2台の車両の追突事故における過失割合について知っておく必要があります。
以下、四輪車の追突事故を念頭に解説します。
(1) 一般道における追突事故の過失割合
一般道における追突事故の場合には、基本的には、100%追突車の前方不注視による事故であるとして、追突された側の車両の過失は0%です。
ただし、追突された側の車両について、理由のない急ブレーキがあった場合には、30%の過失を、さらにブレーキランプの整備不良などの問題のある場合には、10%~20%の過失を問われることになります。
そのうえ、追突された側に酒気帯び運転、著しく不適切なハンドル・ブレーキ操作といった著しい過失があれば、10%の過失が、酒酔い運転や居眠り運転などの重過失があれば、20%の過失が加算される可能性があります。
追突された側の車両の態様 | 追突された側の車両の過失割合 |
---|---|
停車中 | 原則として0% |
理由のない急ブレーキ | 30% |
ブレーキランプの整備不良 | 10%~20% |
著しい過失 | 10% |
重過失 | 20% |
(2) 高速道路における追突事故の過失割合
高速道路は、一般道とは異なり、高速度での走行は許容されていること、最低速度維持義務のあること、駐停車は原則として禁止されていることなどから、追突をされた側の車両に整備不良によるガス欠やエンジントラブルといった落ち度を認めるべき事情によって本線車道などに駐停車をした場合、60%(追突した側の車両):40%(追突された側の車両)の過失割合を目安とします。
ただし、先行事故などで高速道路上において停車することになった場合には、被追突車両には落ち度は認められずこの時点では過失はありません。
しかし、停車後に停止表示機器の設置や適切な退避などを怠った場合には落ち度として、追突された車両に20%の過失が問われることになります。
追突された側の車両の態様 | 追突された側の車両の過失割合 |
---|---|
落ち度があって駐停車した | 40% |
駐停車に落ち度はないが、駐停車後に落ち度がある | 20% |
駐停車にも、駐停車後も落ち度がない | 0% |
[参考記事]
追突事故で慰謝料はいくら|計算方法と相場
2.玉突き事故における過失割合
玉突き事故における各当事者の過失割合を判断するには、まずは、事故発生について主たる責任のある車両を特定しなければなりません。
そして、主たる責任のある車両以外の車両について、事故の発生を回避するために講じるべき義務の違反の有無・程度を考慮して、その過失割合を判断することになります。
以下、具体例に即して解説します。
(1) 典型的な玉突き事故では最初に追突した最後尾の車両に過失100%
冒頭で挙げた、信号待ちで停車中の車両に追突したことにより発生した玉突き事故の場合、事故発生について主たる責任のある車両は、最初に追突を起こした最後尾の車両であることは明らかです。
一方で、他の2台の車両は、赤信号のため停車していただけで、事故を回避するために講じるべき義務の違反はないので、過失は0%です。
結局のところ、このような典型的な玉突き事故では、最後尾の車両の100%の過失により生じたものとして処理されることになるのです。
このことは、高速道路上において、渋滞のためハザードランプを点灯させて停車あるいは徐行している車両に追突して玉突き事故の起きた場合でも同様であり、このケースでは、最初に追突した最後尾の車両に100%の過失を問うことになるでしょう。
(2) 3台のうち真ん中の車が玉突き事故の責任を問われたケース
しかし、最初に追突した一番後ろの車両だけでなく、真ん中の車両に玉突き事故の責任が認められることもあります。
一般道において、車線変更開始直後、前方に停止車両(A車)を発見して急ブレーキを掛けたB車にその後方を走行していたC車が追突し、今度はB車がA車に追突した玉突き事故について、事故の発生の主たる要因は、B車の急ブレーキにあり、C車の前方注視義務違反の程度は小さいとして、その過失割合につき、B車90%、C車10%とした裁判例があります(東京地裁平成21年7月13日判決)。
このように、先行車両の急ブレーキにより発生した玉突き事故の場合には、事故発生の主たる責任のある車両はケースバイケースで異なります。
この裁判例以外にも、玉突き事故において最後尾以外の車両について過失が認められるケースはあります。
その場合には、事故の具体的発生状況、特に急ブレーキの有無、車間距離の適切性、前方の安全確認の有無などの事情を中心に具体的過失割合が判断されることになります。
(3) 複数の玉突き事故が存在するケース
より複雑になるのは、複数の玉突き事故が絡むケースです。
ここでは、過去、実際に発生した複数の玉突き事故の絡むケースにおいて過失割合が問題となった裁判例を紹介します。
この事例では、まず前方注意義務と適正な車間距離を保つ義務を怠り、ハザードランプを点灯させて減速しているA車に衝突したB車による第1の玉突き事故が起きました。
そして、この第1の玉突き事故の発生によりB車の後方を走行していたC車とD車が停車したところ、E車がD車に追突してしまい、その勢いからD車は前方のC車に追突するという第2の玉突き事故が発生しました。
この事例において、第2の玉突き事故の責任につき、第1の玉突き事故発生後、後続のC車とD車は追突することなく停止できているのに、E車は追突していることから第2の玉突き事故は専らE車の責任であるとのB車の主張を退け、裁判所は、第1の玉突き事故と第2の玉突き事故とは、極めて短時間に連続して発生しており、第1の玉突き事故により第2の玉突き事故が誘発されたことは言うまでもないとして、B車の50%の過失割合を認めました(東京地裁平成19年10月31日判決)。
(4) 玉突き事故の賠償金額と請求先
玉突き事故により人身損害が発生すれば、他の事故と同じように、治療費、交通費、慰謝料などの損害の賠償を請求できます。
典型的な玉突き事故の場合には、最後尾の車両は100%の過失により、被害者の損害の全責任を負いますから、賠償請求先は、当然、最後尾の車両の運転手(その保険会社)になります。
他方、玉突き事故の各当事者につき過失のあるケースではどうでしょう。
たとえば、当事者A、BおよびCのいる玉突き事故において、過失割合は、A:B:C=70%:10%:20%であるとします。このときBに生じた損害額が500万円とすれば、Bは、自分の過失割合の部分である500万円×10%=50万円を除いた450万円について全額CまたはAに請求できます。
このとき、CがBに450万円を支払った場合には、CはAからAの負担すべき部分である350万円を取り戻すことになります。
3.まとめ
玉突き事故では、基本的には、最後尾の車両に100%の過失があるため、玉突き事故に巻き込まれた被害者は、加害者である最後尾の車両(その保険会社)に対して、全損害の賠償を請求することになります。
他方、先行車両の急ブレーキ、適正車間距離保持義務違反、前方注意義務違反などにより、最後尾以外の車両について過失が認められるケースもあります。
この場合の具体的過失割合は、個別の事故の状況に応じて決められることになり、その判断は容易ではありません。また、複数の玉突き事故が絡む問題になると過失割合の判断は更に複雑になります。
そのため、玉突き事故に巻き込まれた場合には、ご自分の過失の有無およびその割合、あるいは賠償の請求先などについて、適切に判断できないことがあります。
そのような場合には、一度弁護士に相談することをお勧めいたします。