後遺障害の併合で等級はどうなる?慰謝料の計算方法とは
【この記事を読んでわかる事】
- 2つ以上の複数の後遺障害が残ってしまう場合「後遺障害の併合」として認定される
- 後遺障害の併合では、複数の症状について等級が重いほど、それに伴って等級が上昇する
- 併合が適用外になるケースもある
交通事故で後遺症が残ってしまった場合、後遺障害認定を受けることで被害者の方は後遺障害に関する慰謝料を請求できるようになります。
しかし、後遺症については1つの症状だけが残るのではなく、2つ以上の複数の症状が残ってしまうことがあります。
この場合は、「後遺障害の併合」として認定されることが、正当な後遺障害慰謝料や逸失利益を受け取るために重要です。
今回は、この後遺障害の併合について、ルールや認められる基準、認定方法まで解説いたします。
1.後遺障害の併合とは?
後遺障害の併合とは、交通事故による後遺症が複数残ってしまったケースで、それぞれの等級認定につきまとめて1つの等級として認定することを指します。
たとえば、大きな事故では複数の部位で後遺症が残ってしまうケースがあります。この場合、慰謝料や逸失利益を個別に請求することはできません。
そこで、「併合」という法律上の規定に従って、複数の等級を1つにまとめ、損害賠償請求をする必要が出てきます。
それゆえ、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求において、併合認定はとても重要なものとなります。
では、併合認定は、どのように行われるのでしょうか。
2.後遺障害の併合の認定方法
後遺障害の併合認定については、自動車損害賠償保障法に基づき調節されます。具体的には、同法の施行令第二条三号ロ~ホにおいて基準が定められています。
第二条柱書きでは、「法第一三条の第一項の保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次のとおりとする。」と規定されており、これを受けた三号において、以下のように規定されています。
三 傷害を受けた者(前号に掲げる者を除く。)
ロ 別表第二に定める第五級以上の等級に該当する後遺障害が二以上存する場合における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級の三級上位の等級に応ずる同表に定める金額
ハ 別表第二に定める第八級以上の等級に該当する後遺障害が二以上存する場合(ロに掲げる場合を除く。)における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級の二級上位の等級に応ずる同表に定める金額
ニ 別表第二に定める第十三級以上の等級に該当する後遺障害が二以上存する場合(ロ及びハに掲げる場合を除く。)における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級の一級上位の等級に応ずる同表に定める金額(その金額がそれぞれの後遺障害の該当する等級に応ずる同表に定める金額を合算した金額を超えるときは、その合算した金額)
ホ 別表第二に定める等級に該当する後遺障害が二以上存する場合(ロからニまでに掲げる場合を除く。)における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級に応ずる同表に定める金額
次の章で具体的な事例を含めてご説明いたします。
3.後遺障害の併合基準の適用方法
まず、併合基準の適用方法や具体的な加重の事例についてみていきましょう。
(1) 併合基準のルール
4つの条文は以下のようにまとめることができます。
- 5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、そのうち最も重い等級を「3つ」繰り上げる
- 8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、そのうち最も重い等級を「2つ」繰り上げる
- 13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、そのうち最も重い等級を「1つ」繰り上げる
- 14級の後遺障害が2つ以上ある場合は、等級が上がることはない(※いくつ障害があっても14級のまま)
このように、複数の症状について等級が重いほど、等級は上昇します。
これは、重い症状については損害賠償基準についてもしっかりと反映すべきことから定められているものと考えられます。
(2) 併合の具体的ケース
次に、具体的な事例にあてはめて考えてみましょう。
《ルール1について》
併合前の等級:4級、5級の2つの等級認定 → 併合後の等級:1級
最も重い等級である4級から数えて3つ上昇させます。
《ルール2について》
併合前の等級:5級と8級の認定 → 併合後の等級:3級
最も重い症状である5級から2つ上がります。
《ルール3について》
併合前の等級:12級と13級の認定 → 併合後の等級:11級
上記と同様に、最も重い症状である12級から、1つ上がります。
《ルール4について》
併合前の等級:14級を2つの認定 → 併合後の等級:14級
この場合は、例外的に等級が上がりません。そのまま14等級となります。
併合が行われた場合、併合14等級というように名前が変わりますが、等級が上がったり、損害賠償額の基準が上がったりすることはありません。
神経症などを含める14等級は最下位に位置する等級となりますので、最も軽い症状である点が考慮されているのです。
[参考記事]
後遺障害14級の慰謝料相場と逸失利益の計算方法
以上をまとめると、以下のチャートになります。
併合基準のルール | 複数の後遺障害のうち最も重い等級* | ||||
---|---|---|---|---|---|
1~5級 | 6~8級 | 9~13級 | 14級 | ||
2番目に重い等級 | 1~5級 | 1級⇒1級 2級⇒1級 3級⇒1級 4級⇒1級 5級⇒2級 |
|||
6~8級 | 1級⇒1級 2級⇒1級 3級⇒1級 4級⇒2級 5級⇒3級 |
6級⇒4級 7級⇒5級 8級⇒6級 |
|||
9~13級 | 1級⇒1級 2級⇒1級 3級⇒2級 4級⇒3級 5級⇒4級 |
6級⇒5級 7級⇒6級 8級⇒7級 |
9級⇒8級 10級⇒9級 11級⇒10級 12級⇒11級 13級⇒12級 |
||
14級 | 1級⇒1級 2級⇒2級 3級⇒3級 4級⇒4級 5級⇒5級 |
6級⇒6級 7級⇒7級 8級⇒8級 |
9級⇒9級 10級⇒10級 11級⇒11級 12級⇒12級 13級⇒13級 |
併合14級 |
*複数の後遺障害のうち、最も重い等級を等級が上昇する際の基準とします。
仮に、3つ以上の等級認定を受けた場合でも、同じようにルールを適用していくことになります。
4.後遺障害の併合が適用外になるケース
次に、併合が適用外となるケースについて見ていきましょう。
障害等級の併合には、いくつかの例外事例があります。併合にあたるかどうかを見極める際には、これらに注意して判断を行う必要があります。
(1) 要介護の等級と後遺障害等級との違い
まず、これらの併合基準は、介護の必要がない後遺障害等級について適用され、要介護認定の1級、2級については適用されることがありません。
要介護の1級の基準が「常に介護が必要」、2級が「随時介護が必要」と、この2つの基準が併存することがあり得ないからです。
(2) 適用外の具体的事例
適用外の事例としては、以下の3つがあります。以下、順番にご説明いたします。
①併合により等級の順列を乱すケース
法令に定められた併合基準にのっとって併合を行った場合、単独の条件と比較して不適当な結果となってしまうことがあります。
たとえば、併合によって、5級から2級に等級が上がった場合でも、3級の単独症状と比較して3級の症状の方がどう考えても重く、この併合2級を認めると等級の順列に矛盾が発生すると判断される場合は、直近下位である4級として認定するケースがあるのです。
等級の序列を乱すことがあっては、不公平となってしまいますので、不適当である場合は併合基準が適用されないことがあります。
②組み合わせ等級が定められているケース
具体的には、両足や両腕に障害が残ってしまったケースを指します。
この場合、右足に関する等級と左足に関する等級を併合するのではなく、あらかじめ定められた両足の等級をそのまま適用するということです。
これは両腕でも同じです。
③複数の症状が派生関係にあるケース
1つの後遺障害に関連して、他の後遺障害が派生していると認定できる場合、併合はできません。
具体的には、腕を骨折したが完治せず、関節のように不安定な状態に成ってしまった場合、知覚異常や疼痛が残るケースがあります。
この場合、知覚異常などは、腕の骨折が完治できないことによる派生的症状と考えることができ、併合が適用されず、これらの症状の最も重い等級で認定されます。
5.後遺障害の併合があった場合の慰謝料
最後に、後遺障害の併合があった場合の慰謝料について触れておきます。
自賠責保険は、交通事故による後遺障害に関して支払われる保険金の限度額を等級ごとに定めています。
後遺障害の併合が認められると、併合後の等級による後遺障害慰謝料を請求することが可能になります。
ただし、併合前の個別の等級の限度額を合算した額が、併合後の等級に対する支払限度額を超えない場合は、併合前の個別の等級の限度額の合算額がその限度額となります。
具体的にいくつか例示してみましょう。
(1) 4級と6級の併合の場合
併合後の等級は2級となります。4級と6級の合算額が3,185万円となり併合2級の限度額を超えるため、併合2級の2,590万円が支払限度額となります。
併合前の等級 | 併合後の等級 | ||
---|---|---|---|
4級 | 6級 | 2級 | |
保険額 | 1,889万円 | 1,296万円 | 2,590万円 |
合計額 | 3,185万円 | ||
支払限度額 | 2,590万円 |
※数字は、後遺障害等級表「別表2」による。
(2) 8級と13級の併合の場合
併合後の等級は、7級となります。8級と13級の合算額が958万円で、併合7級の限度額1,051万円を超えないことになり、支払限度額は958万円となります。
併合前の等級 | 併合後の等級 | ||
---|---|---|---|
8級 | 13級 | 7級 | |
保険額 | 819万円 | 139万円 | 1,051万円 |
合計額 | 958万円 | ||
支払限度額 | 958万円 |
※数字は、後遺障害等級表「別表2」による。
6.後遺障害併合の判断は弁護士に相談を
後遺障害等級は、慰謝料算定の基礎となるものです。
交通事故に遭って後遺障害が残り、複数の症状が残ってしまったという場合は、併合を行うことで等級を上げることできます。
もっとも、実際に併合認定を行うには、医師による医学的判断を証明する資料が必要になります。
また、基準に照らして併合にあたるのか、例外にあたらないのかの判断には、法律的知識も必要になります。
そのため、実際に併合認定を行う場合には、医師・弁護士など専門家のサポートが必要不可欠です。
自己判断のみで手続を行う方もいらっしゃいますが、これはあまりおすめできません。「自己判断で併合できると判断し申請したが、却下されてしまった」という事例もあるためです。
後遺症状の併合の可能性がある場合には、医師・弁護士に相談の上、手続を進めましょう。
後遺障害の併合につき疑問がある方は、お気軽に泉総合法律事務所にご相談ください。