整骨院・接骨院に通院している被害者が後遺障害診断書を入手する方法
交通事故により怪我を負った被害者は、具体的症状の改善する見込みのある限り、治療することができます。
逆に言えば、治療の継続により具体的症状の改善の見込みのなくなった段階(これを「症状固定」といいます)に至れば、そこで治療は終了となります。
そして、治療終了時点において、なお重い症状の残存する場合(後遺症が残った場合)には、後遺障害等級認定の申請を行います。
その結果、後遺障害が認定されれば、その等級に応じて、後遺障害による損害の賠償を請求することができます。
この後遺障害等級認定の申請を行う際には、「後遺障害診断書」を一緒に提出する必要があります。
この後遺障害診断書を作成できるのは、病院の医師だけであり、整骨院・接骨院の施術師は作成できません。
それでは、交通事故によるケガの治療のため整骨院・接骨院に通院している被害者は、後遺障害診断書を入手できないのでしょうか?後遺障害等級の申請のため、診断書を入手する方法はあるのでしょうか?
1.整骨院・接骨院と整形外科の違い
整骨院・接骨院の施術師は後遺障害診断書を作成できない!
整形外科と整骨院・接骨院の決定的な違いは、症状改善のための措置を実施する者の資格にあります。
具体的には、整形外科の先生は医師免許を取得している者であるのに対して、整骨院・接骨院の先生は柔道整復師の免許を取得している者です。両者は、ともに国家資格ではあるものの、資格に基づいて行える措置には大きな違いがあります。
現在、日本において医業に従事できるのは、医師免許を取得した者だけです(医師法17条)。
そのため、整骨院・接骨院の柔道整復師は、事故による外傷について応急的・医療補助的方法によりその回復を図るための措置は行うことができますが、医師だけに許される治療行為(診断、レントゲン・MRIなどの画像診断、投薬の指示、手術など)はできません。
そして、整骨院・接骨院の柔道整復師は、治療行為の1つである「診断」ができないため、後遺障害診断書を作成することはできないのです。
これが、後遺障害診断書を作成できるのは医師だけである理由です。
【整形外科と整骨院・接骨院の比較】
免許 | できること | 後遺障害診断書の作成 | |
---|---|---|---|
整形外科 | 医師 | 治療行為(診断、画像診断、投薬、手術) | できる |
整骨院・接骨院 | 柔道整復師 | 施術行為(外傷に対する応急的、医療補助的方法による回復措置) | できない |
上記のような理由から、交通事故による怪我に関して整骨院・接骨院をメインに通院することは、後遺障害の認定において不利に働く可能性があることに注意しましょう。
特に、むち打ちなど症状を裏づける客観的所見の乏しいケースや、整形外科での通院の日数の少ないケースでは、後遺障害の認定はかなり難しくなります。
これは、後遺障害の認定において考慮される治療実績はあくまでも整形外科の医師による治療であり、整骨院・接骨院における施術ではないことが理由です。
どうしても整骨院・接骨院をメインに通院したい場合には、整形外科の医師に整骨院・接骨院に通院することの承諾を得た上、さらに、そこでの施術につき症状改善のための治療の一環として認めてもらえるよう話をしておくべきです。
2.整骨院・接骨院が作成できる証明書(記録)
整骨院・接骨院の柔道整復師は、後遺障害診断書を作成することはできません。しかし、施術証明書や施術録を作成することはできます。
柔道整復師は、傷病に対する治療行為はできないものの、骨や筋肉などの損傷に対して整復・固定の施術を行うことはできますから、そのような施術の事実を証明するための施術証明書の発行、あるいは施術の経過を記録する施術録を作成することはできるのです。
ただし、施術証明書は「診断書」ではなく、単に施術した事実を証明するものに過ぎません。
そのため、後遺障害認定申請において、後遺障害診断書の代わりとして施術証明書や施術録を提出することはできないのです。
とはいえ、施術証明書や施術録が無意味なのかといえば、決してそうではありません。施術証明書や施術録により、整骨院・接骨院における施術の有無・内容について証明することができ、被害者の自覚症状の訴えの有無・内容の証明、病院の医師の診断の一材料として使うことが可能です。
3.整骨院・接骨院通いで後遺障害認定を受けるポイント
(1) 整形外科に通院歴のあるケース
整形外科と整骨院・接骨院を併用している場合
まず、整形外科に通院しながら、並行して接骨院・整骨院に通院している場合には、通院先の整形外科の医師に後遺障害診断書を作成してもらうことになります。
ちなみに、整形外科と整骨院・接骨院を併用することは、整形外科の医師の許可のある限り可能です。ただし保険会社は、このような併用の必要性を否定して施術費用の負担を拒否することがありますから注意しましょう。
また、医師の中には、整骨院・接骨院の併用を禁止したり、あるいは、併用は認めるものの施術による症状改善に対する効果等については積極的に認めなかったりすることがあります。
そのため、接骨院・整骨院を併用した場合には、医師から後遺障害診断書の作成を拒否されることもあるようです。
整形外科から整骨院・接骨院に切り替えた場合
当初は整形外科に通院していたものの、諸事情により整骨院・接骨院の通院に切り替えた場合には、できる限り早めに整形外科を受診して治療を再開するようにしましょう。
なお、整形外科の通院に1ヶ月以上の空白のある場合には、治療終了と判断されてしまうことがあります。ですから、できれば整骨院・接骨院に通院する場合でも、1月に1回以上は整形外科に通院するようにしましょう。
どうしても整形外科との併用の難しい場合には、必ず整形外科の担当医に整骨院・接骨院に通院する旨を伝えた上、承諾を得るようにしましょう。
(2) 整形外科に通院歴のないケース
整形外科に通院歴のない場合、そのまま接骨院・整骨院に通院したまま、後遺障害診断書だけ整形外科の医師に作成してもらうことは不可能です。
その際、整骨院・接骨院での施術証明書・施術録を入手して、これまでの施術の経過を整形外科の医師に伝えた上、一定期間通院すれば、後遺障害診断書を作成してもらえる可能性があります。
ただし、事故直後に整形外科を受診していない場合、途中から整形外科に通院しようとしても拒否されることがあるので注意しましょう。
このように、整形外科に通院することなく、整骨院・接骨院に通院しているだけでは、後遺障害診断書を入手することはできないため、結果として後遺障害の認定を受けることはできません。
4.まとめ
後遺障害等級認定の申請の際に提出する後遺障害診断書を作成できるのは、病院の医師だけです。
整骨院・接骨院をメインに治療している場合、後遺障害診断書を入手するためには、とにかく早目に、できるだけ多く整形外科での通院実績を作り、医師に後遺障害診断書を作成してもらいましょう。
このように、交通事故の被害について適正な賠償金を得るためには、治療中の行動が大切になることもあります。
ですから、治療が終わり、保険会社からの賠償金の提示の出る前に、なるべく早めに専門家である弁護士に相談するようにしましょう。
泉総合法律事務所は、交通事故の解決実績が大変豊富であり、後遺障害認定につきましても専門的な知識を有する弁護士が多数在籍しております。初回のご相談は無料となっておりますので、交通事故の被害者となってしまいお困りの方は、是非一度、お早めにご相談ください。