T字路で起きた事故|過失割合について詳しく解説
交通事故が頻発するのは交差点です。それゆえ、事故の争点となるのも交差点事故の過失割合が多いのは当然です。
もっとも、一般的な十字路だけでなく、三叉路、五叉路など、交差点にも様々な形があり、過失割合も交差点の形ごとに考えなくてはなりません。
この記事では、交差点事故の例としてT字路交差点での自動車同士の事故をとりあげ、その過失割合について解説します。
1.過失割合について
交通事故の被害者にも何らかの落ち度がある場合には、被害者にも、その落ち度の程度に応じて、事故から発生した損害を負担させることが公平です。
これを過失相殺と呼び、加害者と被害者が、それぞれ損害を負担する割合を過失割合と呼びます。
例えば被害者が怪我の治療費で100万円の損害を被った場合、被害者対加害者の過失割合が「4対6」であれば、被害者は100万円のうち40万円は自腹で負担し、加害者に請求できるのは60万円となるのです。
過失相殺をするか否か、その過失割合をいくらとするかは、最終的には裁判官の裁量で決まるものですが、もちろん、争いを裁判所に持ち込む前に、当事者の話合い、具体的には、加害者側の保険会社と被害者の示談交渉を行って双方納得のうえ、決めることができます。
過失割合の数値を検討する際の目安となる基準が公表されています。もっとも実務に用いられているのは、東京地裁民事交通部の裁判官の意見を示している「別冊判例タイムズ38・民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」という刊行物です。
しかし、上記の基準は一応の目安であって、参考にするべきものではあっても「絶対にこれに依らなくてはならない」ものではありません。
したがって、保険会社から過失割合を示されてもこれを鵜呑みにするべきではなく、その事故類型において、何故、そのような過失割合の数字となっているのか、その理由を理解し、保険会社の主張が不当な場合にはこれに反論することが大切です。
[参考記事]
交通事故の過失割合|もめる・ごねる相手に納得いかない場合の対処法
以下では一例として「四輪車同士の『T字路交差点』における事故」の過失割合について説明し、過失割合の考え方を知っていただきたいと考えます。
2.T字路交差点における事故の過失割合
前記の本に従うと、T字路交差点は、「ー」の道路を「直線路」、「|」の道路を「突き当たり路」と呼びます。
一口にT字路交差点での事故と言っても様々なパターンがあり、その全てを説明する紙幅はありませんから、ここでは「直線路を直進する車(直線路直進車)」と「突き当たり路から右折車してきた車(突き当たり路右折車)」の事故に限定して解説します。
(1) パターン1:直線路と突き当たり路の幅員が同じとき
基本の過失割合
A(直線路直進車)30:B(突き当たり路右折車)70
この場合、B車は直進車妨害(道路交通法37条)と左方進行車妨害(同36条1項1号)という違反があり、この点は、この交差点がT字路ではなく、一般的な十字路交差点の場合と同じです。
しかも、T字路交差点では、B車には直進してくる対向車はなく、直線路を走る車両に注意を払い易くなっています。
さらに、直線路を走る側からすれば、突き当たり路から進入して来る車は、当然に徐行してくると期待するし、通常は直線路の方が主要道路で交通量も多いはずです。
そこで、B車の過失は重く、これを7割とされています。
修正要素
Bの明らかな先入
例えば、B車が先にT字路交差点に進入しており、A車の通常の速度(制限速度内)であれば、直ちにブレーキまたはハンドルで、容易にB車を回避できたはずという場合、これはB車に有利な事情ですから、「B車の明らかな先入」として、Aの過失割合を「10」加算します。
AまたはBの著しい過失
著しい過失とは、その事故態様に通常想定される程度を越えた過失です。著しい過失があった方に「10」加算されます。
具体例(ただし、事故との因果関係があるものに限る)
①脇見運転など著しい前方不注視
②著しいブレーキ、ハンドルの不適切操作
③携帯、スマホの通話や操作による「ながら運転」
④時速15キロ以上~30キロ未満の速度違反
⑤酒気帯び運転
AまたはBの重過失
重過失とは故意に比肩する重大な過失です。重過失があった方に「20」加算されます。
具体例(ただし、事故との因果関係があるものに限る)
①酒酔い運転
②居眠り運転
③無免許運転
④時速30キロ以上の速度違反
⑤過労、病気、薬物などを原因とする正常な運転ができない状態での運転
(2) パターン2:直線路が明らかに広い道路のとき
基本の過失割合
A(直線路直進車)20:B(突き当たり路右折車)80
T字路交差点の入り口において、運転者が、直線路の幅員のほうが客観的に明らかに広いと一見して見分けられる場合には、より狭い突き当たり路から交差点に進入するB車は、直線路を走行する車両を妨害してはならない義務(道路交通法36条2項)があるだけでなく、徐行する義務もあります(同36条3項)。
そこでパターン1よりもB車の割合を加算しています。
修正要素
修正要素として「Bの明らかな先入」、「AまたはBの著しい過失」、「AまたはBの重過失」があることは、パターン1と同じです。
(3) パターン3:突き当たり路に一時停止の規制があるとき
基本の過失割合
A(直線路直進車)15:B(突き当たり路右折車)85
B車に一時停止義務違反があることが前提であって、その違反は重大なので、道路幅による優劣関係がある場合(パターン2)よりも、さらにB車の過失を「5」加算しています。
修正要素
修正要素として「AまたはBの著しい過失」、「AまたはBの重過失」があることは、パターン1及び2と同じです。
Bは一時停止義務に違反しており、「Bの明らかな先入」はむしろ停止義務違反の結果ですから、パターン1及び2と異なり、B車に有利な修正要素とはなりません。
「Bの一時停止後進入」
基本割合はB車が一時停止義務に違反していることを前提としますので、一時停止をしていた場合は、B車の過失を減ずる必要があり「15」減算します。
具体的には、B車が一時停止をして左右を見て、A車の接近を確認したものの、速度と距離の判断を誤って交差点に進入したために衝突したというケースです。
(4) パターン4:直線路が優先道路のとき
基本の過失割合
A(直線路直進車)10:B(突き当たり路右折車)90
優先道路とは、道路標識などにより優先道路として指定されているもの、及び、当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識などによる中央線又は車両通行帯が設けられている道路(道路交通法36条2項)を指します。
この優先道路を走行する場合は、左右の見とおしがきかない交差点を通行する場合でも徐行する義務が課せられていないので(同42条1号括弧書き)、A車の過失は低いものとされています。
修正要素
修正要素として「Bの明らかな先入」、「AまたはBの著しい過失」、「AまたはBの重過失」があることは、パターン1と同じです。
3.まとめ
自動車同士のT字路交差点での事故について過失割合を説明しましたが、理解するには、なかなか骨が折れることがお分かりいただけたと思います。
過失割合で保険会社と争いになっている場合は、どうぞ専門家である弁護士にご相談ください。