自賠責保険における高次脳機能障害認定のポイント
後遺障害の等級認定のためにしなければならない自賠責保険への請求ですが、正当な等級認定を受けるためには高度な医学的知識が必要です。
特に、高次脳機能障害の案件においては、等級の該当性を判断してもらうためのポイントがいくつかあります。
今回は、交通事故で高次脳機能障害となってしまった方に向けて、後遺障害等級認定のポイントを解説いたします。
1.高次脳機能障害を自賠責で認定してもらうポイント
自賠責保険において高次脳機能障害の認定が本格的にスタートしたのは、平成23年3月4日「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)という題名の報告書が出てからです。
この平成23年報告によると、高次脳機能障害の認定にとっては、まずは画像判断が重要とされています。仮に画像所見が無い場合には、意識障害が重要とされています。
もっとも、CTやMRI等の画像における所見が無くても、現実に症状がでているのであるから、被害者救済の観点から高次脳機能障害を認定すべしという声も出ています。
また、最近では軽度外傷性脳損傷(MTBI)というものも注目されています。
なお、最近出た平成30年5月31日付の報告書は、それらを適切に判断する手法はあるのか?という趣旨で、見直し作業が行われた結果出されたものです。
(1) 画像所見について
CT画像、MRI画像
平成30年報告においても、やはりCTやMRI画像といった脳の形態を撮影する形態画像が極めて重要になっています。
特に有効な画像としては、(CT画像で画像所見が得られない場合には)MRIのうちT2強調画像やT2スター、DWI、FLAIR画像を取ることが望ましいという記載があります。
したがって、事故からそれほど日が経っていない段階から数回にわたって撮影していき、「この段階ではこのような画像所見があった」ということを示せるようにすると良いでしょう。
その他の画像(PET/SPECT画像など)
一方で、現在ではCTやMRI以外の他の画像もしばしば提出されているところです。
しかしながら、これ以外の画像、特にPET/SPECT画像など、脳の形態ではなく脳の機能(例えばPETであればブドウ糖や酸素の消費量)の状況を撮影する機能画像についてはまだ研究中の段階であり、事故による受傷や受傷結果から後遺障害の症状が出ていることについて単独で立証するレベルには至っていないようです。
たとえば、PET/SPECT画像などは、その日の気分や感情などでも画像が変化するタイプのものです。撮影中にドキドキすることがあっただけで画像が変化してしまいます。
PETであれば、脳損傷が無くても、ドキドキしてブドウ糖利用量が変化すれば、画像は変化してしまいます。
このため、事故による受傷や、受傷結果から後遺障害の症状が出ていることについて「単独では」立証するレベルには至っていないと言われています。
もっとも、全く意味がないというわけではありません。
例えば、事故直後にCTやMRI画像にて検査してみたところ明らかに受傷していた部位について、PET/SPECT画像にて何度も検査した結果、異常が残っていたという場合を考えてみましょう。
この場合には、事故直後のCTやMRI画像を補完する働きがあると言えます。
(2) 意識障害について
意識障害は、やはり「脳の機能的障害が生じていることを示す1つの指標」として重視されています。
そして、画像所見がなく、かつ意識障害が無いか経度の場合には、後遺障害はなかなか認められにくいです。
一方で、急性期から亜急性期の時期の画像が無くても、意識障害が中程度~重度であれば、症状の経過などにより認められる可能性があります。
例えば、びまん性軸索損傷については、脳が揺さぶられた結果、広範囲に損傷・出血が生じます。この場合、特に重い意識障害が生じてしまいやすいです。
意識障害が中程度~重度であるとは具体的にどのようなことかについて、平成23年報告では、以下のような目安がありました。
初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過診断書において、当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼、応答しない状態)が少なくとも6時間以上、もしくは健忘あるいは軽度意識障害が少なくとも一週間以上続いていることが確認できる症例については、慎重な検討対象にする
もちろん、これが脳外傷による障害の要件というわけではなく、あくまで慎重な検討対象にするというだけで、直ぐに認定されるわけではない点に注意が必要です。
(3) MTBI
MTBIは、物理的外力による力学的エネルギーが頭部に作用した結果起こる急性脳外傷のことです。その臨床運用上の基準としては以下の通りです。
- 混乱や失見当識、30分あるいはそれ以下の意識喪失、24時間以下の外傷後健忘期間、一過性の神経学的異常のうち一つ以上に当てはまること
- 外傷後30分の時点あるいはそれ以上経過している場合は急患室到着時点で、グラスゴー昏睡尺度(GCS)得点13-15であること
- 薬物や酒、内服薬、他の外傷や他の外傷治療などの他の問題あるいは穿通性脳外傷などによって起きたものではないこと
しかしながら、MTBIについては要件ではなく、臨床上の基準であり、これに該当するから等級が獲得できるというものでもありません。あくまで検討するためのものであり、明確な認定基準ではありません。
やはり、意識障害や画像所見が最終的には強い武器になってしまうでしょう。
したがって、事故直後に怪しいと思ったら、後回しにせずにすぐに検査をした方が良いということです。
なお、裁判でも「MTBIの診断要件を満たすから」という理由で高次脳機能障害を認定した例はほとんどありません。逆に、意識障害が無いということは、MTBIの要件さえ充足していないという理由で否定する例が多くあるようです。
2.高次脳機能障害の症状固定について
高次脳機能障害の症状固定時期については、成人の場合、急性期後に症状の急激な回復があり、その後は回復が認められにくくなることが多いので、1年以上経てから症状固定の診断書が作成されることが妥当です。
ただ、子供や高齢者の場合には、年齢に応じた柔軟性の違い等の問題点があるので、必ずしもこれに拘束されずに考えていく必要があります。
詳しくは、高次脳機能障害などの後遺障害認定に強い弁護士にご相談ください。
3.まとめ
自賠責保険においては、やはり画像所見や重い意識障害が重要なポイントになります。特に、事故直後の画像所見というものが極めて大事になります。
しかし、これらの画像は後で撮影することはできないので、仮にこのような事態が起きてしまったら速やかに撮影すべきといえます。
そして、撮影すべき画像は形態画像、つまり脳の形態を撮影する画像です。
また、少し経って、患者様の様子が若干おかしいとしたら、早い段階で再度撮影してもらった方が良いと思われます。あくまで、事故から起きた損傷によってという繋がりが重要なので、患者様のご家族におかれましては意識して撮影していってください。
交通事故で高次脳機能障害認定になってしまったという方は、泉総合法律事務所にご相談ください。正当な慰謝料の請求のため、弁護士が尽力致します。