むち打ちで後遺障害認定を受ける場合のポイント|後遺障害等級14級、12級
交通事故で怪我をしてから首の痛みがとれない、頭痛が続いているなど、むち打ちの後遺症に苦しむ被害者は非常に多く、年間3万件以上とも言われています。
また、むち打ちによる後遺症の種類も多様で、神経への損傷による痛みや痺れは周囲からはわかりづらいため、理解を得られにくいケースも少なくありません。
むち打ちに苦しむ交通事故被害者が将来的な補償をきちんと受けるためには、「後遺障害認定」の申請をして、正しい等級の認定を受けることが重要です。
今回は、むち打ちの後遺症の種類とその症状を確認し、後遺障害等級認定を受けるためのポイントについて解説します。
1.むち打ちの後遺症とは?
(1) むち打ちは首の捻挫
むち打ちは、追突などの交通事故で首に不自然な力が加わり、首がむち(鞭)のようにしなることが原因で起こります。この頸部(首)に損傷を受けることによって起こる痛みや痺れなどの症状を「むち打ち症」といいます。
むち打ちの場合、痛みや痺れ以外にも頭痛や吐き気、めまい、肩こりなどの様々な症状に悩まされます。
また、症状が事故直後から出る場合もありますが、むち打ちの厄介なところは、事故後数日、または数週間先に症状を自覚することがあることです。
レントゲンやMRIなどで確認できないことも多いので、自覚症状が出たらすぐに医師に申し出るようにしましょう。
(2) むち打ちの後遺症の種類と症状
交通事故によるむち打ち症には多くの種類と症状がありますが、全体の約7~8割は、「頚椎捻挫型」だと言われています。
- 頸椎捻挫(けいついねんざ)…頚椎(頭を支える首の骨)の周りの筋肉や靭帯、軟部組織の損傷。首・肩・背中のコリや痛みなどのほか、首が動かないなどの症状が現れます。
- バレー・ルー症状…後頸部交感神経症候群とも呼ばれ、事故による衝撃によって神経が傷つき発症するものです。首の神経が傷ついたことで、めまい・耳鳴り・息苦しさ・頭痛・吐き気・後頭部の痛みなどの症状が現れます。場合によっては、目のかすみや動悸、発汗などの症状も見られるため、事故との因果関係が立証しづらく診断が難しいとされています。
- 神経根症状(しんけいこんしょうじょう)…首の脊髄から出る神経を支える根元である神経根が引き伸ばされたり、圧迫されるなどして負荷がかかったケース。身体機能の一部に痺れや力が入らないなどの症状が出て、首・後頭部・腕・顔面の痛みのほか、倦怠感が続くこともあります。
- 脊髄損傷(せきずいそんしょう)…脊髄は脳から連続する中枢神経で、身体機能を司る重要な神経です。脊髄が損傷すると身体の麻痺、知覚障害、歩行障害が起こることがあり、むち打ち症の後遺障害の中でも最も深刻なケースとなります。
- 脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)…事故の衝撃によって一時的に脊髄内の髄液圧が上昇して硬膜が損傷し、脳髄液が漏れだしてしまったケース。主な症状には、全身の痛み、聴力・視力・味覚への障害、倦怠感や自律神経症などがあります。ほかにも、頭が重い、イライラする、体がだるい、よく眠れないなどの不定愁訴が多く、診断が非常に難しいものです。
(3) むち打ちの後遺症の治療方法
交通事故のあと、上記のような症状を確認したら必ず整形外科などの病院を受診してください。
むち打ちの患者さんのなかには、痛みや症状の緩和のために手軽に通院できる整骨院や接骨院、鍼灸院での施術を好む方もいらっしゃるでしょう。
しかし、その際にも並行して必ず病院の整形外科を受診し、検査や診察を受けておくべきです。後に後遺障害認定を申請しようとする際、認定に必要な診断書を作成できるのは病院の医師だけだからです。
また、レントゲンやMRIなどの検査結果を証拠として提出するので、きちんと病院で検査を受けましょう。
2.後遺障害等級の認定について
(1) 「後遺症」と「後遺障害」は違う
治療の甲斐もなく痛みや痺れなどの症状が残ってしまう場合は、残念ながら「後遺症」が残ったということになります。
しかし、後遺症の自覚があるというだけでは、正式に後遺障害認定を受けて賠償金を受け取ることはできません。あくまで、法律に定められた後遺障害の定義に当てはまる場合、申請が通れば各症状に応じた後遺障害等級が決せられるのです。
ですから、きちんと病院に通院し治療を継続したのち、医師と相談のうえ後遺障害の診断を受けましょう。
そして、治療の終了を意味する症状固定の状態でなければ、後遺障害等級は認定されませんので注意が必要です。
治療途中だと認定の申請ができませんので覚えておきましょう。
後遺障害の認定には、損害保険料率算出機構という機関内の自賠責調査事務所が調査を行います。むち打ちの場合は原則、書面審査になります。
(2) 認定等級と賠償金額の関係
後遺障害認定が下りると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができます。
- 後遺障害慰謝料…後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料のこと
- 逸失利益…後遺障害が残ったことによって労働能力が低下し、本来得られたはずが得られなくなる将来の収入や利益
後遺障害等級ごとに慰謝料の金額や逸失利益の算定基準が異なります(重症の等級が認められれば、それだけ慰謝料や逸失利益は高額になります)。よって、後遺障害の等級が正しく認定されることが、適正な賠償金を受け取る必須の条件となるのです。
ただし、むち打ちは後遺障害認定を受けること自体が非常に難しいケースが多いのです。
なぜなら、むち打ちは症状が外部から分かりにくく、他の後遺障害の症状に比べて軽いと考えられがちだからです。
とはいっても、後遺障害等級は症状がきちんと規定されていますから、該当する症状がある限り認定申請をして正当な認定を得るべきです。
認定については、事故後十分に治療をおこなったこと、それでも症状の改善の見込みがなく症状固定となったことを裏付ける医師の診断書や診療報酬明細書等で総合的に判断されますので、治療を担当した医師とは十分にコミュニケーションをとり、良好な関係を築いて協力を仰ぎましょう。
3.むち打ちで認定される可能性がある後遺障害等級
後遺障害認定の判断をする際、調査機関は、被害者が主張する自覚症状よりも医師などの第三者が客観的に確認できる他覚症状の方を重視します。
よって、後遺障害認定を受けるためには、症状を裏付けるためのMRIなどの検査を行い、その結果によって他覚的所見が認められることが非常に重要になります。
賠償額を適正な額までアップさせ、事故後の生活の不安を軽減するためにも、過少に認定されることがないように注意しましょう。
(1) むち打ちの認定等級は通常は14~12級
むち打ちに最も多い痛みや痺れといった神経症状で認定を受けられる可能性のある後遺障害の等級は、12級13号か14級9号です。
実際は、14級9号に認定されることがほとんどです。
- 12級13号…局部に頑固な神経症状を残すもの
- 14級9号…局部に神経症状を残すもの
どちらに該当するかは「頑固な」神経症状か否かの違いだけですが、12級と14級では自賠責の慰謝料で60万円ほどの差があり、労働能力喪失率(※1)も14級は9%であるのに対し12級になると20%となります。
※1交通事故によるけがの後遺症のために、仕事に従事する能力が事故前に比べてどのくらい衰えたかを示す比率。事故前を100として、後遺障害等級1~14級毎に喪失率が決められている。
14級に認定されるケース
後遺障害等級14級は、認定等級の中では最も軽度の後遺障害に当たります。14級に認定されなければ非該当として認定が受けられないことになりますから、認定の可否は非常に重要です。
14級に認定されるためには他覚的所見は不要ですが、自覚症状を訴えるだけでは該当とは認定されません。腱反射テストやジャクソンテスト、スパークリングテスト、筋電図といった検査での証明を必要とします。
- 腱反射テスト…膝の下をゴム製のハンマーで叩いて反応を見る検査
- ジャクソンテスト…頸部の痛みや腕のしびれや放散痛を調べる検査
- スパーリングテスト…頸部の神経根障害を調べる検査
- 筋電図…筋肉に電気を流して神経の異常を調べる検査
また、自覚症状を医師に伝える際にも、「昨日は首が痛かったが、今日は頭が痛い」「雨の日だけ痛むことがある」など、主張が二転三転するなど一貫性に欠けると信憑性が疑われます。
認定申請を行う前に、検査や自覚症状について担当の医師に相談するなど、綿密に準備することが大切です。
12級に認定されるケース
12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」という障害の定義を満たすには、他覚的所見が不可欠です。
レントゲンやMRIなどの画像によって異常をはっきり確認できることが、12級に該当する症状の証明となるからです。
たびたび問題になるのが、MRI画像の精度によって症状が映らない場合があることです。よって、できるだけ精度の高い最新のMRI機器のある病院で検査することが理想です。
そうはいっても通院する病院は決まっていることが多いでしょうから、症状が重いのに「MRI画像で確認できない」と言われたような場合には、他の病院で検査することも考えなければなりません。
病院との交渉が難しいときは、弁護士に相談して必要な書類を揃える手助けをしてもらいましょう。
(2) 重い症状では単体で7級の可能性
後遺障害7級は重度の後遺障害に分類され、なかには要介護となるケースもあります。
後遺障害7級が認定されるには、主に高次脳機能障害や外傷性てんかん、反射性交感神経ジストロフィーなど、日常生活に支障をもたらすような重い症状が残ることが必要です。
7級は、単独の症状で認定される場合と、複数の後遺障害を併合して認定される場合があります。
単体では、7級4号に該当するものが重度のむち打ち症で、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」と定義されています。
つまり、むち打ちの後遺症に見られる神経系統の機能障害、または精神障害が残っていて、簡単な労働以外の仕事はできなくなった状態を指します。
7級4号の「軽易な労働」とは、「就労は不可能ではないが、身体の麻痺や発作がある、作業手順が悪い、意思の疎通が悪くミスが多い、約束を忘れるなど、一般人と同等の労務には就けない状態」などとされています。
また、7級未満の等級の後遺障害が複数残存した場合に、併合7級と認定されることがあります。
たとえば、13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合には、重い方の後遺症を1級繰り上げた等級にするというルールがあります。これにより、14級や12級のむち打ちの症状がある場合に併合7級と認定されるケースもあるでしょう。
4.交通事故でむち打ちになったら泉総合法律事務所の弁護士へ
後遺障害認定の申請に必要な書類を準備することは、多くの手間と労力を要するものです。
その負担を減らし、かつ認定をより確実なものにするには、交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
むち打ちに限らず、後遺障害認定を受けるには、被害者が受けた怪我に回復の見込みがないこと、交通事故と怪我の間には因果関係が認められ医学的証明が可能であること、労働能力を喪失すると認められることなどが求められます。
しかし、これらを一般の方が書類から証明するのは難しいと言わざるを得ません。資料が不十分で等級が変われば、慰謝料なども大幅に変わってきます。
等級認定が非該当となったり実際よりも低い等級に認定されたりした場合には、自賠責保険会社に対する異議申立てができますが、これも専門家のサポートがなければ失敗に終わってしまうことがほとんどです。
泉総合法律事務所では、交通事故被害者の方はどなたでも無料で弁護士にご相談頂けます。交通事故案件に強い弁護士にご相談いただければ、専任の弁護士が責任もってサポートさせていただきますので、是非一度無料相談をご利用ください。