人身事故 [公開日]2018年6月4日

交通事故治療中の医療過誤について-責任はどうなる?

交通事故治療中の医療過誤について-責任はどうなる?

交通事故に遭って怪我をした場合、病院に搬送され、入院か通院ということになるケースが多いと思います。

病院で治療を受ければ、必ず回復するはずと誰もが信じて疑わないでしょう。

しかし、医療機関での治療中、まれに医療過誤が発生することがあり、思いもよらない二次被害が起こることもあります。

ここでは、交通事故治療中の医療過誤は、法律的にはどうなるのかを解説します。

1.共同不法行為としてとらえた場合

(1) 共同不法行為とは

①不法行為と共同不法行為の違い

故意または過失により他人の権利や利益を違法に侵害する行為は、民法上「不法行為」と呼ばれます(709条)。

不法行為により他人に損害を与えた場合には、損害賠償責任が発生します。

交通事故は、民法上の不法行為に該当しますので、加害者は被害者に対する損害賠償責任を負うことになります。

ところで、1つの不法行為に関与しているのは必ずしも1人とは限りません。複数の人が不法行為に関与し、他人に損害を与えてしまうことがあります。

このように、複数の人が関与する場合には、「共同不法行為」と呼ばれることがあります。

②共同不法行為の加害者は連帯責任を負う

民法では、共同不法行為により他人に損害を与えた場合には、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う旨が定められています(719条)。

共同不法行為の加害者は、被害者に対して連帯債務を負うということです。

連帯債務とは、どの人も独立して全責任を負う形の債務です。

たとえば、共同不法行為の加害者がA及びBの2名で、被害者がC1名、損害額が1000万円の場合、CはAに対してもBに対しても1000万円を請求することができます。

③加害者の間では相互に求償権がある

共同不法行為の加害者の1人が被害者に対して損害の全額を賠償した場合、他の加害者はお金を払わなくてすむわけではありません。

連帯債務者の間では、各自の「負担部分」が決まっており、負担部分を超えて払った分については、他の連帯債務者に支払いを請求する権利(求償権)があります。

つまり、被害者に対して加害者の1人がまとめて賠償金を支払っても、その後に加害者間で清算できるということです。

(2) 交通事故と医療過誤の競合は共同不法行為になるか

①共同不法行為ならどちらにでも全額賠償請求できる

交通事故の治療中に医療過誤に遭い、損害を被った場合、交通事故の直接の加害者と医療過誤を行った病院は、共同不法行為を行ったと考えることができます。

この場合、交通事故の加害者と病院は連帯債務を負いますから、被害者は加害者か病院のいずれか一方に、損害の全額の賠償を請求することができます。

②共同不法行為とした判例

交通事故の治療中に医療過誤に遭ったケースで、加害者と病院の責任を共同不法行為責任とする下級審判例は、昭和40年代頃からいくつか存在しています。

たとえば、道路運転中に車に跳ねられて後頭部を強打し打撲傷等を負った被害者が、事故後に入院した病院で医療過誤に遭い、健康状態を悪化させたあげく、事故から1年4か月後に死亡したケースで、東京地裁は「右症状の悪化については、交通事故も診療事故もその一因をなしており…両者はいわゆる共同不法行為の関係」であると判示しています(東京地判昭和42年6月7日判決)。

(3) 寄与度による責任の軽減は認められる?

交通事故と医療過誤が共同不法行為になる場合でも、発生した結果に対してどれくらいの責任があるかという「寄与度」を判断し、各加害者は寄与度に応じた賠償額を払うべきという考え方もあります。

というのも、交通事故と医療過誤は時間的にも場所的にも全く別のところで起こり、行為の態様も異質のものですから、連帯責任とするのは妥当でないこともあるからです。

過去の裁判例には、寄与度による責任の軽減を認めるものと認めないものの両方が存在しています。

2.競合的不法行為としてとらえた場合

(1) 交通事故と医療過誤は競合的不法行為?

①競合的不法行為とは

複数人の不法行為が競合している場合、不法行為の競合もしくは競合的不法行為と呼ばれることがあります。

競合的不法行為は、共同不法行為とは区別されます。共同不法行為と言うためには、それぞれの加害者の行為が客観的に関連共同していなければならないというのが通説です。

客観的関連共同性がない場合には、共同不法行為とは言えないということです。

②交通事故と医療過誤は共同的不法行為と言いにくいケースもある

交通事故の治療中に医療過誤が起こった場合、共同不法行為ではなく、競合的不法行為としてとらえる見解があります。

たとえば、交通事故の後、かなりの時間が経過してから医療過誤が起こった場合には、加害者と病院の行為に客観的関連共同性があるとは言いにくいことがあります。

また、医療過誤が事故によるケガの治療とは直接関係ない患者への指示のミスなどから起こった場合などにも、客観的関連共同性がないと考えられます。

③競合的不法行為の加害者の責任

競合的不法行為の加害者の行為は、それぞれ別個の不法行為となり、各加害者は連帯責任ではなく、寄与度に応じた責任のみを負担します。

交通事故と医療過誤が競合的不法行為となる場合には、事故の直接の加害者と病院は、因果関係の範囲内で、損害に対する寄与度に応じて責任を負うことになります。

(2) 競合的不法行為とした判例

交通事故治療中の医療過誤で、事故の加害者の行為と病院の行為を競合的不法行為とした判例もいくつかあります。

たとえば、自転車で交差点を横断中にトラックと衝突してケガをした被害者が、搬送された病院で医療過誤に遭い大量出血による心不全で死亡した事案で、裁判所は交通事故と医療過誤を独立した不法行為の競合とし、病院に1割の責任を認めています(名古屋地裁平成4年12月21日判決)。

3.最高裁判例

交通事故治療中の医療過誤のケースで、平成13年3月13日、最高裁が判断を示しました。具体的には、以下のような内容になります。

(1) 事件の概要

自転車で交差点に進入し、タクシーと接触して転倒した被害者(6歳男児)は、搬送された病院で左頭部打撲挫傷、顔面打撲とのみ診断され、頭部CT検査は行わず、病院内での経過観察等もなしで帰宅。

その後、被害者は自宅で容体が急変し、深夜に死亡した。

(2) 最高裁の判断

①交通事故と医療過誤は共同的不法行為

原審(東京地裁平成10年4月28日判決)では、交通事故と医療過誤は競合的不法行為とされ、それぞれの寄与度は5割と認定されました。

しかし、最高裁は交通事故と医療過誤は共同的不法行為として、直接の加害者と病院は連帯責任を負うものとしました。

②共同不法行為が成立する場合の過失相殺の方法

被害者側に過失がある場合には、過失相殺が行われ、損害賠償額が減額します。

共同不法行為では加害者が複数存在しますから、加害者ごとに過失割合が変わるのかという問題があります。

本判決では、共同不法行為が成立する場合の過失相殺について、「過失相殺は、各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしんしゃくしてすることは許されない」と判示しています。

つまり、共同不法行為でも、過失相殺については、加害者ごとに過失割合が変わる「相対的過失相殺」の方法によるべきということです。

4.まとめ

交通事故のケガの治療中に医療過誤に遭った場合には、個別の事案により、共同的不法行為になるか競合的不法行為になるかの判断が異なることがあります。

法律的な判断は難しいため、専門家である弁護士に相談するのがベストです。

泉総合法律事務所では、交通事故における豊富な解決実績があります。交通事故の被害でお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。

ご依頼をお悩みの方も、一度ご相談ください。
初回のご相談は無料です。
まずはお気軽にお問い合わせください。
0120-260-105
【通話無料】電話でのご相談はこちら
平日 9:3021:00 / 土日祝 9:3018:30
お問い合わせは全国から受け付けております。