身体障害者が交通事故に遭った場合、後遺障害認定は受けられる?
大きな交通事故に遭った場合、傷の程度が重く後遺症として残ってしまうことがあります。
この場合は、通常の慰謝料だけでなく、後遺障害を負ったことに対する慰謝料も請求することが可能です。
もっとも、事故被害に遭う前に何らかの身体障害が既にあった(既往症があった)場合は、後遺障害における慰謝料の計算方法が通常の場合と異なってきます。
今回は、身体障害者が交通事故で後遺障害認定を受ける場合の慰謝料について解説します。
1.身体障害認定と後遺障害認定の違い
身体障害認定とは、先天性の障害や事故等による障害が残ったケースで、当該障害が身体障害者福祉法に定める障害である場合には、各市町村に申請をすることで各種助成やサービスを受けることができるものです。
申請をすることで、身体障害手帳の交付を受け、医療費の助成や税金控除、介護ケア、その他支援などを受けることができます。
後遺障害認定とは、交通事故で怪我を負った場合に完治せず、後遺症が残った場合に後遺障害等級認定申請を受けることを指します。
後遺障害とは、自賠責保険等に対し後遺障害等級の申請をした後遺症のうち、等級が認定されたもののことです。
後遺障害認定を受けることで、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できるようになるため、交通事故被害者にとっては重要な認定となります。
この2つの認定は、交通事故に関して言うと「交通事故にて後遺障害が残った方を支援するための制度」であることには変わりません。
しかし、身体障害申請をすると行政からの各種助成等が受けられるのに対し、後遺障害認定を受けると加害者側から慰謝料を受け取ることができるという点で違いがあります。
2.身体障害と後遺障害の部位が無関係なら問題にならない
結論から言って、もともとある身体障害については慰謝料に影響しません。
具体的には、身体障害の部位が事故による後遺障害のある部位と全く別といえる場合には、健常者が交通事故に遭ったと同じように慰謝料が計算されます。
そのため、この場合は通常の後遺障害に関する慰謝料請求方法をご覧になっていただければ大丈夫です。
もっとも、身体障害の部位と交通事故による後遺障害の部位が全く別の箇所である場合であっても、相互関連性があるケースもあります。
この場合には、もともとある障害が影響しているとして、慰謝料が減額される可能性もあります。
実際に減額されるかどうかは、医師による医学的判断と弁護士による法律的判断が必要です。不安がある場合は、医師や弁護士にご相談することをおすすめします。
3.身体障害と後遺障害が同一部位であった場合
(1) 後遺障害の加重となる
身体障害と交通事故による後遺障害が同一部位であった場合、慰謝料額にも影響が出ます。
身体障害が既にある場合で同一部位に後遺障害が残ってしまった場合は、後遺障害の程度が重くなることが通常です。このようなケースを「後遺障害の加重」と呼んでいます。
具体的には、既存の障害と同じ部位に同じ系列の後遺障害(神経障害、機能障害など)が認定される場合は、後遺障害の加重(加重障害)として認定されることになります。
加重障害となったケースでは、交通事故による後遺障害の慰謝料から、既存の障害による影響部分が差し引かれて慰謝料が計算されます。
(2) 加重障害の具体例
両目の障害があり、事故で失明した場合
もともと目の障害があり、両目の視力が0.05で障害者認定を受けていたケースを想定します。この場合、後遺障害等級では第4級に該当します。
そして、交通事故後に両目を失明してしまった場合は、後遺障害等級は第1級となります。
このケースでは、4級から1級に等級が上がり加重障害として認定されるため、1級の3000万円から4級の1889万円を差し引き、1111万円を慰謝料として請求することができます。
両目の障害があり、視力が落ちた場合
次に、両目の視力が0.05で障害者認定を受けていたが、交通事故の後遺障害により0.03になった場合です。
このケースでは、後遺障害認定上、どちらも4級となります。
この場合、既存の障害よりも等級があがったとはいえないため、後遺障害等級認定申請を受けても、「非該当」という結果になります。つまり、自賠責保険から慰謝料は支払われない結果となってしまいます。
このように、既存の障害と事故による後遺障害が同一部位である場合は、後遺障害認定等級が上がらない限り後遺障害慰謝料が自賠責保険から支払われないという結果になります。
4.交通事故被害後は身体障害者手帳の申請も考える
交通事故被害で後遺障害が残ってしまった場合、加害者側に対し後遺障害慰謝料、逸失利益等を請求することも確かに大切です。
しかし、行政から生活補助のサービスを受けるためには、身体障害手帳の申請をする必要があります。
では、身体障害手帳をもらうためにはどのような条件が必要なのでしょうか。
まず、身体障害手帳を申請するためには、当該障害が①身体障害者福祉法に規定されている障害に該当する必要があります。具体的には、以下のような障害となります。
視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、音声機能・言語機能・そしゃく機能障害、肢体不自由、心臓・じん臓・呼吸器機能障害、ぼうこう・直腸・小腸の機能障害、免疫機能障害
※障害者手帳制度の概要参照
また、身体障害者福祉法施行規則別表第5号の②身体障害者障害程度等級表にて1級〜6級の等級であることも必要です。
これらの条件を満たした場合には、障害者手当や年金の受給、公共交通機関の割引、医療費の助成、公共料金の減免、介護サービス等のさまざまな制度が利用できることになります。
身体障害者手帳は、病院にて①身体障害診断書と②意見書を医師に作成してもらいます。病院では、問診や検査を受けることになります。
ちなみに、病院は、身体障害者福祉法15条の認定を受けている医師・病院である必要があります。
これらを作成してもらった後は、①、②の書類を持って、お住いの市町村の福祉事務所窓口にて申請します。①、②の書類と③交付申請書、④写真を提出します。提出の際は、個人番号カードや身分証明書など、印鑑も必要です。
行政側にて身体障害者認定を行い、条件が満たされると判断した場合には身体障害者手帳が交付されます。申請書の提出から判断が出されるまでは1ヶ月程度です。
5.身体障害者が交通事故で後遺障害を受けた場合は弁護士へ
既存の障害がある場合には、交通事故での後遺障害の慰謝料計算が複雑になります。
医学的知識や法律の知識が必要なため、同系列の障害と認定すべきか、加重障害と認定すべきかなど、被害者の判断だけでは難しいこともあるでしょう。
損害賠償でしっかりと補償をしてもらうためには、後遺障害認定等級の結果が非常に重要です。認定に不安がある場合や、認定結果に納得できない場合は、弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所では、交通事故被害について経験豊富な弁護士が最後までしっかりとサポートいたします。