自賠責保険「120万円」の壁|超えた場合はどうなる?
交通事故の被害者になってしまった場合、加害者が加入している自賠責保険から、保険金の支払いを受けることができます。
その自賠責保険には、「120万円」の壁があるということがよく指摘されています。
この記事では、実際に交通事故によって発生した損害が120万円を超えてしまったらどうなるのか、できるだけ120万円の範囲内で治療を行う必要があるのかなど、被害者の方のよくある疑問にお答えいたします。
1.「120万円」は傷害部分に対する保障限度額
自賠責保険についてよく言われている「120万円」という数字は、傷害部分に対する保障限度額を意味しています。
自賠責保険によって保障される損害の種類は、大きく「①傷害に関するもの」「②後遺障害に関するもの」「③死亡に関するもの」の3つに分かれています。
このうち、傷害に関するものに限って適用される補償限度額が120万円なのです。
「傷害部分」に含まれる損害は、①治療関係費、②休業損害、③慰謝料、④文書料の4つに分類されます。
①治療関係費
治療関係費には、むち打ちなどの怪我の治療にかかった費用の実費が含まれます。
たとえば、以下のような費用が治療関係費に分類されます。
<治療関係費の例>
応急手当の費用・診察料・入院費・投薬料・手術料・処置料・通院費・看護料・入院雑費・柔道整復等の費用・義肢等の費用・診断書等の費用
②休業損害
怪我が原因で仕事を休まなければならなくなった場合に、休業日に稼げなかった収入金額を補填するのが休業損害の保障です。
自賠責保険からは、令和2年4月1日以降の事故の場合、原則として休業1日あたり6,100円が支給されます。
③慰謝料
慰謝料は、交通事故によってケガをしてしまったことについての精神的損害を補填する性質を持ちます。
自賠責保険からは、令和2年4月1日以降の事故の場合、入通院1日あたり4,300円が支給されます。
[参考記事]
自賠責保険でもらえる慰謝料金額と計算方法
④文書料
交通事故証明書や印鑑証明書、住民票などの発行手数料が、文書料として保障の対象になります。
文書料については、基本的には実費が保障されます。
120万円の制限は、あくまでも上記の傷害部分に該当する損害保障に関してのみ適用されます。そのため、後遺障害に関する保障や、死亡に関する保障については、保障金額が120万円を超えることも認められます。
なお、後遺障害による損害の保障限度額は4,000万円(常時介護を要し、かつ後遺障害第1級が認定された場合)が上限であり、死亡による損害の補償限度額は3,000万円となっています。
2.傷害部分の損害が120万円を超えたら?
交通事故による怪我の程度がひどい場合や、治療が思いがけず長引いてしまった場合などには、治療関係費を中心に費用が膨らみ、保障限度額の120万円を超えるケースもあります。
このように、損害が自賠責保険から支払われる保険金の最低限の補償を超えたら、不足分はどのように取り扱われるのでしょうか。
(1) 不足分は加害者の加入する任意保険から支払われる
自賠責保険からの保険金が被害者の被った損害額に不足している場合、その残額については、被害者から加害者に対する損害賠償請求権が残ることになります。
多くの場合、加害者は自賠責保険に加えて、上乗せ的に任意加入の自動車保険(任意保険)にも加入しています。
そのため、超過分については、加害者の加入している任意保険から支払われるのが通常です。
なお、自賠責保険の満額を超えて任意保険になった場合、被害者としては、任意保険会社との間で保険金の支払いに関する交渉を行えば足ります。ご自身で計算や、二重の交渉などをする必要はありません。
任意保険会社は、被害者に対して保険金を一括で支払った後、自賠責保険の保険会社から求償的に保険金を支払ってもらうことにより調整を図ることになります。
(2) 加害者に直接損害賠償請求
加害者が任意保険に加入していないなどには、不足分が任意保険から支払われることはありません。
この場合は、被害者は加害者に対して、損害を補填するのに不足している金額について、直接損害賠償請求をすることができます。
しかし、加害者の資力に問題がある場合、十分な補償を受けることができません。
この場合の対処方法については、以下のコラムで説明しています。
[参考記事]
任意保険未加入事故の被害者に…。損害賠償は受けられるか?
以上で解説したように、120万円の保障限度額を超えた場合であっても、不足額が被害者の自腹になるわけではなく、加害者または加害者の加入している任意保険会社からの支払いを受けることができます。
そのため、傷害部分に属する治療関連費などの費用の合計金額が120万円を超えないようにしようと気を遣う必要はありません。
3.自賠責保険の保障限度額と過失割合の関係
実は、被害者に一定割合以上の過失がある事故の場合には、自賠責保険から支払われる保険金額が減額されてしまいます。
この場合、保険金額の減額に伴い、保障限度額も割り引かれてしまうので注意が必要です。
- 被害者の過失が7割未満の場合は、120万円全額の保障
傷害による損害については、被害者の過失割合が7割未満である場合には、保険金額の減額は行われません。 - 被害者の過失が7割以上の場合は、保障限度額が2割減額
これに対して、被害者の過失割合が7割以上の場合は、原則として保険金額が2割減額されます。そして保険金額の減額に伴い、保障限度額も2割減の96万円となります。
なお、傷害部分の損害が20万円未満の場合には、被害者の過失割合に応じた保険金の減額は行われません。
また、2割減額を適用した結果として、傷害部分の損害が20万円を下回る場合には、一律20万円の保険金が支払われます。
4.超過分の加害者側への請求手続き
傷害部分の損害が120万円を超えてしまった場合、加害者または加害者側の任意保険会社に対して、不足分の損害について補償するよう請求しなければなりません。
(なお、後遺障害が残った場合や、被害者が死亡してしまった場合についても、自賠責保険の保障限度額いっぱいの保険金支払いを受けても損害補填に不足するケースがほとんどですので、加害者または加害者側の任意保険会社に対する請求が必要となります。)
最後に、交通事故の被害者が、自賠責保険を超える損害を被ってしまった場合に、損害の補填を加害者側に請求する際の手続きについて解説します。
(1) 加害者側の任意保険会社と示談交渉を行う
加害者が任意保険に加入しているケースであれば、被害者は、任意保険から保険金の支払いを受けることになります。
そこで必要となるのが、加害者側の任意保険会社との間で行われる示談交渉(保険金支払い交渉)です。
被害者側としては、自らが被った損害について証拠により立証し、任意保険会社に対して十分な保険金の支払いを求めなければなりません。
しかし任意保険会社は、交通事故に関する保険金支払い事務を日常的に取り扱っているプロフェッショナルです。
被害者が自分だけで任意保険会社との交渉に立ち向かうのはハードルが高いでしょう。
任意保険会社との示談交渉は、弁護士に依頼することが推奨されます。
被害者が法律の専門家である弁護士を伴うことによって、被害者と任意保険会社との間に存在する経験と知識に関する差を埋めることができます。
また、被害者が弁護士を伴って任意保険会社との示談交渉(保険金支払い交渉)に臨むと、受け取れる賠償金額を大きく増額できる可能性があります。
[参考記事]
交通事故の慰謝料は、弁護士基準の計算で大きく増額!
(2) 後遺障害がある場合は、後遺障害等級認定が必要
通常の傷害に加えて、治療後に後遺症が残存してしまった場合には、任意保険会社に対して、後遺障害による損害についても保険金支払いの対象に含めるよう請求する必要があります。
その際に必要となるのが自賠責の「後遺障害等級認定」の手続きです。
後遺障害等級認定に向けて、被害者は残った後遺症の内容についての証拠を集める必要があります。
特に重要となるのは、後遺障害の内容や経過を記録した「後遺障害診断書」です。
通院治療先の医師と連携をして、適切に後遺障害診断書を作成してもらいましょう。
また、どういった内容を後遺障害診断書に書いてもらえばよいかについては、弁護士に相談をすれば、保険金請求を見据えたアドバイスをもらうことができます。依頼すれば、自賠責への「後遺障害等級認定」の手続きを代わりに行ってもらうこともできます。
[参考記事]
後遺障害等級とは?認定機関による認定方法とその流れ
5.まとめ
自賠責保険についてよく言われる「120万円」という金額は、傷害による損害についての保障限度額を意味しています。
傷害による損害が120万円を超過してしまった場合、自賠責保険からは120万円しか保険金が支払われませんが、不足額は加害者側の任意保険会社または加害者本人に対して請求可能です。
そのため、被害者が気を遣って、傷害による損害が120万円を超えないようにしようとする必要はありません。
ただし、任意保険会社による保険金支払いが生じるケースでは、被害者は任意保険会社との示談交渉(保険金支払い交渉)に臨む必要があります。
任意保険会社との示談交渉(保険金支払い交渉)では、弁護士を伴って交渉に臨むかどうかで、任意保険会社の交渉姿勢や提示金額が大きく変わってきます。
そのため、弁護士に事前に依頼をしてから交渉に臨むことをおすすめいたします。
泉総合法律事務所の弁護士は、交通事故の案件を取り扱った経験を豊富に有していますので、交通事故被害者の方はどうぞお気軽にご相談ください。