後遺障害4級の慰謝料相場と逸失利益の算定
交通事故で後遺障害4級と認定された場合、かなり重度の障害といえます。
被害者は事故後、社会生活や日常生活に多くの支障を生じることになり、場合によっては事故前の仕事を続けられなくなる可能性も考えられます。
そのため、示談交渉では、慰謝料や逸失利益がどのくらい補償されるのかをきちんと知っておくことが必要でしょう。
ここでは、後遺障害認定4級の交通事故被害者の方が受け取れる慰謝料の相場とはどれくらいなのか、交通事故による逸失利益とは何なのかを、裁判例を参考にご説明します。
1.後遺障害4級への補償額とは
(1) 示談金(損害賠償金)の内訳
示談金、つまり交通事故によるけがに対する損害賠償金の内訳は以下の通りです。
①入通院などのけがにかかった実際の費用
- 入通院費…治療費
- 通院交通費…通院に要した交通機関の運賃や駐車場代
- 装具費用…義肢などの装具代
②入通院による補償
- 休業損害…けがで休業した減収分
- 入通院慰謝料…けがによる精神的負担
③後遺障害に関する補償
- 後遺障害逸失利益…得られたはずの将来の減収分
- 後遺障害慰謝料…後遺障害による精神的負担
これらの中で後遺障害が生じた場合の障害の程度によって大きく異なるのが③の後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料です。
(2) 後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、交通事故で腕や足を失ったり、事故前にはなかった障害が生じたりしたことによって労働能力が低下し、将来の収入が減少する損害のことです。
これは、交通事故に遭わなければ本来もらえたはずの収入を加害者側に補償してもらうという考えのもと、一定の計算式に基づいて算出されます。
<基礎収入× 後遺症による労働能力喪失率× ライプニッツ係数>
- 基礎収入…原則、交通事故に遭う前の収入が基準とされます。多くのケースで賃金センサス(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」により算出した労働者の雇用形態、就業形態、勤続年数等を示した数値)を用いて計算されています。
- 労働能力喪失率…交通事故による後遺障害によってどのくらい労働能力が喪失したかをパーセンテージで表したもので、後遺障害等級別に作表されています。後遺障害の最重度1級~3級は100%、最低等級の14級で5%です。後遺障害4級と認定された場合は92%の喪失とされていますから、第4級が非常に重症の後遺障害であることがわかります。
- ライプニッツ係数…将来的な収入は長期間で得るはずのものですから、賠償金として一括で取得するため中間利息は控除します。その調整に用いられる係数で、収入の喪失期間によって決まっています。一般的に労働可能年齢は67歳ぐらいまでと考えられていますが、障害や被害者の年齢によって稼働可能期間は異なります。
例:基礎収入400万円 症状固定時35歳/会社員の場合
<基礎収入 × 後遺症による労働能力喪失率 × ライプニッツ係数>
400万円 × 92%(0.92:4級の喪失率)× 15.8027(35-67歳の労働喪失期間32年)
=58,153,936円
つまりこのケースの概算で、5,800万円超の逸失利益が補償されることになります。
このように、逸失利益を適正に受け取るかどうかは、事故後の被害者の方の経済的側面を大きく左右するといえるでしょう。
(3) 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料を計算するうえでは異なる3つの基準があります。
- 自賠責基準…法律で定められた自賠責保険の支払い基準です。3つの中で最も低い額です。
- 任意保険基準…各保険会社が定めた基準です。支払金はできるだけ低額に抑えたいわけですから、自賠責基準に多少上乗せられた額と考えたほうがよいでしょう。
- 弁護士基準…過去の裁判例の賠償金をもとに算出した基準です。裁判実務でも用いられているため、裁判基準とも呼ばれています。3つの基準の中で最も高額です。
交通事故で後遺障害4級と認定された場合の後遺障害慰謝料は、自賠責基準で712万円、任意保険基準ではおよそ800万円です。最も高額な弁護士基準の場合は、1,500~1,800万円が相場とされその平均額は1,670万円となります。
このように、各基準によって慰謝料の金額には大きな差が生じます。
被害者にとっては重度の後遺症を抱えた精神的負担への補償ですから、示談交渉の場合でも弁護士の助力を得て、最も高額な弁護士基準による慰謝料を獲得することが重要です。
2.後遺障害4級とは
【自賠法施行令別表二より】 | |
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第4級 | 1 両眼の視力が0.06以下になったもの |
2 咀嚼ソシヤク及び言語の機能に著しい障害を残すもの | |
3 両耳の聴力を全く失ったもの | |
4 一上肢をひじ関節以上で失ったもの | |
5 一下肢をひざ関節以上で失ったもの | |
6 両手の手指の全部の用を廃したもの | |
7 両足をリスフラン関節以上で失つたもの |
後遺障害4級は1~14級ある等級のうち重度上位の4番目ですから、かなり重症な後遺障害です。4級に認定される障害は1号から7号までの7種類が定められています。
1号:両眼の視力が0.06以下になったもの
0.02以下は2級2号に等級が上がりますので、0.06~0.02までの間の視力が該当します。
2号:咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
咀嚼機能に「著しい障害を残す」とは、おかゆやうどんなどの柔らかいもの以外は摂取できない状態のことです。
言語の機能に「著しい障害を残す」とは、子音を発音する「口唇音」、「歯舌音」、「口蓋音」、「咽頭音」という4種類の発音方法のうち2種の発音が不能、または綴音(二つ以上の単音が互いに結合してなる言語)機能に障害があるため、言語のみを用いて意思の疎通ができないことです。
3号:両耳の聴力を全く失ったもの
両耳の平均純音聴力レベルが90dB以上、または80dB以上かつ最高明瞭度が30%以下の場合に該当します。
4号:一上肢をひじ関節以上で失つたもの
左右一方の腕が肩からひじまでの間で失われた場合に該当します。
5号:一下肢をひざ関節以上で失つたもの
片足を股の付け根からひざ上の間で失くした場合に認定されます。
6号:両手の手指の全部の用を廃したもの
神経が切れて麻痺した状態を指します。基準としてはおや指なら第一関節より根元、他の指なら第二関節より根元の可動域が1/2以下になった場合に認定されます。
「手指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または中手指節間関節もしくは近位指節間関節(おや指の場合は指節間関節)に著しい運動障害を残すものとされています。具体的には、次の場合が該当します。
(ア) 手指の末節骨(爪のついた部分の骨)の長さの1/2以上を失ったもの
(イ) 中手指節間関節または近位指節間関節(おや指の場合は指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
(ウ) おや指については、橈側外転(立てること)または掌側外転(手のひら側につけること)のいずれかが健側の1/2以下に制限されているもの
(エ) 手指の末節の指腹部および側部の深部感覚および表在感覚が完全に脱失したもの
7号:両足をリスフラン関節以上で失ったもの
リスフラン関節とは、足の甲のほぼ中央にある関節のことです。リスフラン関節以上の両足先部分を失ったケースが該当します。
これら7種類の障害が交通事故によるものと認められると後遺障害4級が認定されます。また、4級よりも軽度の障害等級に該当する障害が複数認められる場合にも後遺障害併合として4級が認定される場合があります。
3.後遺障害4級の慰謝料が認められた裁判例
裁判では、日弁連交通事故相談センター東京支部編の「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称 赤い本)などに基づいた弁護士基準で慰謝料が算定されます。
ただ、ケースごとに個別具体的な事情が多方面から斟酌されるため、細かな金額の違いが生じます。
4級の後遺障害を負って事故後の生活をすることを考えても、受け取るべき適正な慰謝料を弁護士基準で算定してもらうことが大切です。
以下は、4級の後遺障害が裁判で認められたケースです。
事例1<名古屋地裁判平11.2.19>
59歳/男性/不動産会社営業職
後遺障害
・左下肢短縮
・脊髄損傷による両上肢麻痺
・骨盤骨変形(12級)
⇒後遺障害の併合により後遺障害等級第4級と認定
慰謝料額 合計1,839万円
内訳:傷害慰謝料289万円/後遺症慰謝料1,550万円
事例<札幌地判平21.10.20>
被害者:19歳/女性
後遺障害
・左上下肢の片麻痺、高次脳機能障害など(5級)
・視野欠損(9級)
⇒後遺障害の併合により後遺障害等級第4級と認定
後遺症慰謝料1,840万円
損害賠償金の合計:1億4,216万5,340円
4.逸失利益を増額する方法
(1) 労働能力喪失率92%を堅持する
後遺障害4級として認定された場合の逸失利益は、正しく認定してもらう必要があります。
そのためには、自賠責が労働能力喪失率の基準とする92%を下回ることがないように注意すべきです。
裁判でも諸般の事情によって喪失率が多少下げられることはありますが、示談交渉の場では相手方の保険会社がより低いパーセンテージで計算してくることがあります。
ましてや被害者個人だけで交渉を進めていると、示談での逸失利益は保険会社の提示する低額のまま交渉が終結することも少なくありません。
弁護士が介入すれば基本的に弁護士基準で保険会社と交渉します。
その結果、保険会社の内部基準で算出した提示額よりも高い金額で逸失利益を獲得できる可能性がでてきます。
(2) 収入の喪失期間は最大限に
ライプニッツ係数を確定するために必要な収入の喪失期間についても、安易に縮められることがないように注意しましょう。
通常は労働可能年齢の上限を67歳と設定して症状固定時の年齢との差を喪失期間としていますが、保険会社によっては後遺障害の種類や程度、職業との兼ね合いを理由に喪失期間を短縮してくる場合があります。
症状固定時35歳の場合、労働可能年齢67歳までの収入喪失期間は32年でライプニッツ係数は15.803です。
しかし、喪失期間を10年に設定されるとライプニッツ係数は7.722となります。
前掲の例では、収入喪失期間32年での逸失利益は58,153,936円でしたが、これを10年で計算すると、
400万円 × 92%(0.92:4級の喪失率)× 7.722(労働喪失期間10年)
=28,416,960円
となり、2,900万円以上の差が生じます。
このように、逸失利益をどのような基準で獲得するかは事故後の生活に大きな影響を及ぼします。
後遺障害4級の場合には労働能力喪失率も92%と高いので、逸失利益が5,000万円以上の高額になるケースもめずらしくないのです。
5.まとめ
後遺障害4級と認定された場合の裁判実務での慰謝料額は、弁護士が示談交渉に臨む際にも基準となるものです。
また、後遺障害逸失利益は、交渉次第で事故後の生活を支える高額なものにすることができます。
示談の交渉内容に疑問を持ったら、まず弁護士に相談しましょう。
交通事故に関する専門的なことは、泉総合法律事務所の弁護士にお任せください。無料相談へのご連絡をお待ちしています。