人身事故 [公開日]2018年2月1日[更新日]2020年6月18日

物損事故から人身事故への切り替え注意点!手続方法・期限など

交通事故の被害者となってしまった場合、現場に来た警察官に「痛みがあるようでしたら人身事故になりますが、どうですか?」「怪我がないようなので物損事故で処理します」などと言われることがあるかもしれません。

「人身事故」と「物損事故」では、補償内容が大きく異なります。
加害者側の「点数が足りないから免許取り消しになってしまう」、「罰金は困る」といった理由から、物損事故から人身事故へと変更しなければ、後々大きな不利益を被ることになるでしょう。

本コラムでは、物損事故と人身事故の違いと、物損から人身への変更の流れ・方法、その際の注意点について、弁護士が詳しく解説します。

1.物損事故と人身事故の違い

物損事故とは、車や建物などの「物」のみが損傷した交通事故で、怪我した人がいないケースであり、人身事故とは、交通事故で人が死傷したケースです。

交通事故には「物損事故」と「人身事故」の2種類があり、どちらになるかによって取り扱いが大きく変わってきます。

以下では、刑事手続と民事手続に分けて、それぞれ、「物損事故」と「人身事故」の違いについて解説します。

(1) 刑事手続上の違い

物損事故(正式には「物件事故」)

警察に届け出をする必要はありますが、刑事手続上、物損事故は、起きてしまったことだけならばそもそも犯罪にはなりません。また、「実況見分」と呼ばれるいわゆる現場検証も行われません。ただし、警察は、事故の状況について「物件事故報告書」という簡易な報告書を作成します。

交通事故証明書の右下には「物件」と書かれます。

人身事故

刑事手続上、人身事故は、加害者に過失運転致死傷などの罪が成立します。また、事故後に警察官による実況見分が実施されて、事故現場の状況が詳しく証拠化されます。

交通事故証明書の右下には「人身」と書かれます。

当事者が怪我をしていることが明らかな場合は、当然に人身事故として処理されますが、軽微な事故でほとんど外傷がないような場合は、被害者の申告次第で、人身事故扱いになったり、物損事故扱いになったりします。

(2) 民事手続上の違い

物損事故の場合に、被害者に支払われるのは、車の修理費用などの物的損害についての賠償金のみです。基本的に、慰謝料は発生しません。

一方、人身事故の場合には、被害者に対して、治療費が払われるほか、怪我の程度に応じた慰謝料などの賠償金も払われます。

また、仮に後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害慰謝料や、後遺障害逸失利益なども払われます。

(3) 刑事手続上は物損事故、民事手続上は人身事故扱いというケース

このように、人身事故と物損事故では、刑事手続上も民事手続上も法律上の扱いに違いがあります。

ただし、ここでご注意いただきたいのは、刑事手続上は「物損事故」扱いでありながら、民事手続上は「人身事故」扱いというケースが存在するということです。

たとえば、事故で少し怪我はしたものの、治療費などを払ってもらえれば、加害者の処罰などは求めないという場合は、警察には「物損事故」として届け出て(刑事手続上は「物損事故」)、保険会社には「人身事故」として届け出る(民事手続上は「人身事故」)という処理をする場合があります。

2.物損事故から人身事故に変更しないデメリット

しかし、刑事手続上は「物損事故」扱いのままで、民事手続上は「人身事故」として処理することは、やはり不自然であり、被害者にとってデメリットとなる可能性があります。

その結果、訴訟が不利に推移する可能性があります。

(1) 後遺障害が認められ難くなる

治療を続けてもなかなか治らず、後遺障害が残ったという場合なども、刑事手続上は「物損事故」扱いであるということが、後遺障害認定の場面などで、不利に作用する可能性があります。

少なくとも、人身事故証明書入手不能理由書という書類を添付して提出する必要があります。

(2) 過失割合の主張に必要な実況見分調書が作成されない

追突事故の場合など事故の状況について互いに争いがなければ問題ありませんが、過失割合は、物損事故でも争点となることが数多くあります。

一般的に、物損事故で作成される簡易な報告書である物件事故報告書では、主張を裏付ける資料としては弱く、他方、人身事故で作成される実況見分調書であれば、たとえ裁判となっても、極めて重要な役割を果たします。

物損事故のまま放置すれば、実況見分調書作成のチャンスをみすみす見逃すことになります。

実のところ、この点が一番の問題です。過失割合の争点があるときに、簡易な物件事故報告書しかないのでは、相手方の過失の立証をすることができないことが多いので、過失の争点については不利な裁判なります。

3.物損事故から人身事故への変更の流れ・手続

「事故直後は怪我がないと思って物損で届け出たけど、その後身体が痛くなってきた…」
このように、交通事故による痛みや怪我は、特にむち打ちなどの場合には、事故直後から現れるとは限らず、事故から2,3日してから痛みやしびれなどの症状が現われることもあります。

そんなときは、その怪我を加害者に嘘呼ばわりされたとしても、物損事故から人身事故への変更をすべきです。

具体的には、以下の手続により変更を行います。

(1) 病院へ行く

まず、病院で治療を受ける必要があります。そのためには、加害者側の保険会社に対し、「●●日に、事故にあった。痛みが出てきたので治療をしたい」旨を伝え、治療を開始することになります(民事手続上の、「人身事故」への変更)。

保険会社に連絡せずに病院に行くと、治療費や慰謝料、休業損害などの人身損害に関する賠償金を支払ってもらえない可能性があります。少なくとも一括対応をしてもらうまでの期間、替え払いをする必要が出てしまうでしょう。

なお、事故からあまりにも時間が経ってから病院で受診しようとすると(たとえば事故から10日~2週間後)、保険会社は、症状と事故とは無関係であると判断し、治療費等を払ってくれないことがあります。
したがって、人身事故に切り替えるかの判断はともかく、早期のうちに病院に受診しましょう。

診察では、必ず、医者に、事故に遭ったこと、事故の内容・衝撃、いつから痛いか、どこが痛いのか等を詳しく知らせてください。

一番つらいところだけでなく、その他の部位についても多少気になるぐらいの点も伝えてください。当初に伝えていないと、後でその部位の症状が残った際に、「因果関係が無い」と言われてしまうこともあります。

そして、「受傷日」「初診日」「予定される治療期間」「交通事故により受傷」等の記載がある診断書を発行してもらいます。

(2) 警察署へ行く

診断書を入手したら、警察に対しても、痛みが出てきたと申告し、刑事手続上も、「人身事故」への変更をしておきましょう。
しかし、いきなり警察署に行っても、対応してもらえないことがあります。そのため、事前に担当警察官に連絡して、アポイントメントをとっておくべきです。

その際、必要書類(診断書、車検証、運転免許証等)について案内があると思いますので、忘れずに持っていきましょう。

なお、警察署のホームページ等には、「事故の相手方と一緒に来るように」などと書かれていることがあります。
これは、事故の当事者双方から、同時に聴き取りをして、実況見分調書や供述調書を一度に作成するためです。別々に来られると、それだけ手間がかかるので、そのような記載がなされています。

しかし、これは法律上の要請ではなく、事故の相手方の協力が得られない場合には、必ずしも一緒に行く必要はありません。

その後は、警察による実況見分等が実施されます。
実況見分や事情聴取では、事故の内容を詳しく正確に警察官に伝えましょう。

あとになってから、実況見分調書の内容と異なる事実を主張しても、相手方保険会社や裁判所がその主張を認めてくれる可能性は低いため、実況見分調書の内容には誤りが含まれていないか、よく注意してください。

[参考記事]

交通事故の供述調書・実況見分書とは?裁判の証拠にもなる!

(3) 切り替えの実施

警察が人身事故への切り替えを行いしばらくすると、自動車安全運転センターは「人身」の記載がある新しい事故証明書を発行します。

4.物損事故から人身事故への切り替え期限

法律上は、人身事故への切り替えをいつまでにしなければならないといった期限はありません。だからといって、何カ月も放置した後でも、切り替えをしてかまわないというわけではありません。

事故からかなりの時間が経過してから切り替えを行おうとしても、本当に事故で怪我をしたのか、もっといえば、実は怪我などしていないのではないか、または、怪我しているとしても事故後に負ったものではないか、などと疑われてしまうことがあり、警察が切り替えに応じないことがあるからです。

そのため、人身事故への切り替えに、期間の制限はありませんが、症状が現れたなら、なるべく早く通院し、手続きをとるようにしましょう(切り替えるかはともかくとして、治療は早めに行ってください。治療への着手が遅くなれば、その分、怪我が治るのも遅くなってしまいますし、治療の因果関係の問題も生じます。)。

【警察に切り替えを断られた場合】
本文中にも記載したとおり、人身事故へ切り替えることは、怪我の補償を受ける必須要件ではありません。切り替えなしで怪我の補償に応じてくれる保険会社も往々にしてあります。
ただ、その場合には、後に人身事故証明書入手不能理由書の提出が求められることがあります。
参考:人身事故証明書入手不能理由書とは?人身事故への切り替えは早急に!

5.交通事故のお悩みは泉総合法律事務所へ

実際に怪我をしてしまったのに物損事故で届け出てしまっているという方は、必要に応じて、なるべく早めに、人身事故へ切り替えましょう。

人身事故への切り替えを迷っておられる方、もっと詳しく知りたい方、ご不安な点をお持ちの方は、ぜひ泉総合法律事務所にご相談ください。

泉総合法律事務所では、お仕事帰りの平日夜間、多くの方がお休みである土日祝日においても、ご相談いただくことができます。ご相談は初回無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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