後遺障害2級 裁判例集
■87歳の被害者に後遺障害等級2級1号を認定した裁判例
名古屋地裁平成29年5月26日判決
本件事故による受傷により被害者に認知能力に関する問題生じたとして,被害者の後遺障害につき2級1号を認定した裁判例です。
【事案の概要】
被害者(事故時87歳・女性)は、本件事故により,外傷性くも膜下出血、脳挫傷等の傷害を負い、約1年5か月通院しました(入院52日含む)。
その後、被害者は,自賠責保険の後遺障害等級認定において2級1号の認定を受け、介護付き施設に現在も入所中であるとして、加害者に対し損害賠償請求訴訟を提起したところ、加害者は被害者の後遺障害の程度につき争いました。
【裁判所の判断】
裁判所は、本件事故前には1人で自立した生活をし、認知能力に問題がなかった被害者が、本件事故後に要介護1、要介護2と認定され、本件事故による受傷を契機に認知能力に関する問題が生じたことを認定し、後遺障害等級2級1号を認定した自賠責の判断は合理的であるとしました。
【コメント】
本件では、被害者は自賠責の後遺障害等級認定において2級1号の認定を受けていましたが、加害者は「被害者の後遺障害の程度は、随時介護を要するものではなく、2級1号の後遺障害が残存しているとはいえない。」、「後遺障害等級認定は誤った事実を前提になされた可能性がある。」等と主張して、被害者の後遺障害の程度につき争いました。
裁判所は、被害者が本件事故前には1人で自立した生活をしており、認知能力に問題がなかったにもかかわらず、本件事故後に要介護1、要介護2と認定され、本件事故前には認められなかった認知能力に関する問題が本件事故による受傷を契機に生じていたことを認定し、2級1号という自賠責における後遺障害等級認定の判断が合理的なものであったとしました。
なお,裁判所の判断の中では、直接的に被害者に「高次脳機能障害」の後遺障害が残ったという表現は出てきませんが、被害者に2級1号が認定されたのは「高次脳機能障害」が残ったことによります。
「高次脳機能」とは、知覚、記憶、学習、思考、判断、感情などの様々な脳の働きのことで、事故や病気によって脳が傷ついたことにより、これらの機能に障害が生じた状態を「高次脳機能障害」と言います。認知症と似たような症状があらわれますが,認知症が一般的には徐々に症状が進行していくのに対し,高次脳機能障害は発症した症状はそれ以上進行しないという違いがあります。