逸失利益 裁判例集
逸失利益
後遺障害により、事故前と同じように仕事ができなくなってしまったり、後遺障害の内容によっては、仕事が全くできなくなってしまうということもありえます。そうなれば、本来得られるはずであった収入が得られないという事態が生じます。このように、後遺障害によって労働能力が喪失・低下することにより、将来得られるはずであったのに得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」と言います。
また、被害者の方が死亡した場合に、死亡しなければ、本来得られたであろう収入の喪失を「死亡逸失利益」と言います。
東京地方裁判所平成16年9月1日判決
妻が実家の家業を継いだために、勤務していた会社を退職したあと、職に就かず、買い物、炊事、洗濯、掃除、その他の家事全般に従事してきた男性(いわゆる主夫)につき、賃金センサス女性労働者・全学歴・全年齢の平均賃金を基礎収入として後遺障害逸失利益を算定した。
家事従事者が男性であっても、同じ家事労働で男女間で金額に差が生じるのは不公平なので、女性の全年齢平均賃金センサスを用いることになる。
裁判例抜粋:
証拠(略)によれば、原告Aは、その母が平成5年ころ膀胱癌に罹患するまでは、父が経営する鞄店の仕入れ及び配達と、父が所有する不動産の管理を手伝っていたが、母が癌に罹患してからは父も高齢であるため店を閉める話も出たが、両親が店の継続を強く希望したこともあり、原告Aが実家の事業を継ぎ、夫である原告Bが家事労働に従事することになったこと、そのため、原告Bは平成5年に勤務していた会社を退職した後、職に就かず、買い物、炊事、洗濯、掃除、その他の家事全般に従事してきたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
以上の事情を総合すると、原告Bについては、家事労働者として、平成13年賃金センサス女性労働者・全学歴・全年齢の平均賃金である352万2400円(1日当たり9650円)を基礎収入として休業損害を認めるのが相当である。
※上記抜粋は休業損害についての部分であるが、上記裁判例は上記の原告Bの基礎収入を前提に、原告Bの後遺障害逸失利益を算定した。
福岡地方裁判所平成18年9月28日判決
事故時27歳、症状固定時28歳の無職男性(後遺障害等級3級)につき、再就職先も決定していなかったものの、比較的若年であるうえ、大検に合格し、事故前に正職員として勤務していたこと、その勤務先を退職後に複数のアルバイトに従事し、月額10万円程度の収入を得ていたこと、介護士となる希望を持ち、介護福祉専門学校への進学が決まっていたことから、労働能力及び労働意欲があり、専門学校卒業後に就労先を得る蓋然性が高いとして、賃金センサス男性労働者・学歴計・全年齢の平均賃金を基礎収入として後遺障害逸失利益を算定した。
裁判例抜粋:
原告Bは、本件事故当時無職であり、再就職先も決定していなかったものの、争いのない事実等に記載のとおり、原告Bの本件事故時の年齢は27歳、症状固定日の年齢は28歳と比較的若年である上、大検に合格し、本件事故前は原告Cの勤務先である○○○に正職員として勤務していたほか、介護士となる希望を持ち、平成13年4月から介護福祉専門学校への進学が決まっていた。
また、原告C本人尋問の結果によれば、原告Bは、同○○○を退職後、複数のアルバイトに従事し、月額10万円程度の収入を得ていたことが認められる。以上の事実にかんがみると、原告Bには労働能力及び労働意欲があり、上記専門学校卒業後に就労先を得る蓋然性が高いと認められる。
これらの事情を総合的に考慮すれば、原告Bについては生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められるから、その後遺症逸失利益は、下記のとおり、9452万2628円と認める。